驚き収集エピソードも! 「芸術作品に見る首都高展」レポ

首都高速道路と聞いて浮かぶこと。混雑・渋滞、環状線、複雑なジャンクション、レインボーブリッジ、横浜ベイブリッジ……北海道に暮らす筆者にとっては都会の象徴のひとつ。生活道路として身近にある方にとってはまた別の印象があることでしょう。では、アーティストの目を通した首都高とはどんなものになるのか? 大崎ニューシティ2号館内のO美術館で12月16日~20日まで開かれた、開通55周年記念「芸術作品に見る首都高展」に行ってきました。

■世界に類を見ない特殊な高速道路がアーティストに与えるインスピレーション

まずは、展示作品の多さに驚きました。有名アーティストから新進の若手まで、その数は100点あまり。写真、絵画、版画、立体、造形、写真加工、映像と多岐に渡り、絵画の中でも日本画あり、油絵あり、ペン画あり、イラストレーションあり。表現方法はさまざまですが、すべて間違いなく首都高がテーマです。

近未来的ダイナミックな作品は、なんとなく想像できましたが、複雑にからみ合う立体交差を描いたものは生き物のようにうねうね動いているよう。工事中の一瞬をとらえた写真は首都高がそのまま現代アートそのもの。日本橋を叙情的にとらえたものはこれも首都高なのかと改めて感じる。高速道路入口を参道に見立てた作品は狛犬が配置され、白馬、猿が集う妖かしの世界。スッキリとした色分けで平面化された首都高があれば、古地図のように描かれた東京の街に銀色のアクリルで線引きされた首都高はかえって斬新に見えます。カラフルな「首都っ娘」は擬人化された首都高でした。

首都高のどこをどう切り取るか、どんな手法をとるかでこれだけ多種多様な作品が生み出されるのは、首都高という素材の複雑さを表しているのでしょう。作品を追うごとに首都高のイメージが意外な方向に更新されていきます。キャプションにどの線のどの辺りを取り上げているかが必ず書いてあることに展示する側のこだわりが感じられました。

■コツコツと集め続けて5年。さらなる夢に向けて

この展覧会を企画した首都高アート展実行委員会代表の佐々真さんは、実は、首都高の道路維持管理を行う、首都高メンテナンス東東京株式会社にお勤めでもあります。

「首都高速道路は今年2017年の12月20日で開通55周年を迎えました。これまでに、首都高独特の構造美、存在感に芸術家の方々が自然と引き寄せられ、絵画、写真、音楽、映画、文学など様々な作品に首都高が登場しているんですね。5年前に東京タワーで開催された「開通50周年記念首都高展」でもこれらの一部を紹介し、来場者からたいへんご好評をいただきました。その後、個人的に5年間収集した芸術作品を今回、展示する運びとなりました」(佐々さん)

この膨大な数の作品は、ほんの数点を除き、佐々さん個人の所蔵のものだったのです! 首都高という切り口でこれだけの作品を集めるのは並大抵の情熱ではありません。佐々さんは、ギャラリーに足繁く通い、写真集を図書館で片っ端から開き、気に入った作品があれば何とかして、写真家本人と連絡をとり、若手のアーティストで風景を素材としている方を見つけると「首都高描いてみませんか?」と声をかけ……と時間と手間をかけ、人脈を広げてこの首都高コレクションを収集してきたのでした。この先の目標を伺いました。

「首都高の初期の役割として、1964年の東京オリンピックで海外選手団を迎えるため、10月10日の開会式の直前、10月1日に羽田空港と代々木の選手村を直結する区間が全通しました。その後、各路線が順次開通していくわけです。そんなわけで2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けても何か企画したいですね。そして、将来、鉄道会社のような常設の「首都高ミュージアム」が開設されることを夢見ています」(佐々さん)

■首都高に魅せられた人たち

首都高が、これだけ様々な顔を見せてくれることに驚きました。今回の展覧会に訪れた人たちからも「ぜひ、図録を」との声が多く、近いうちにと予定もされているそうです。重要な都市インフラとしても、作品の源泉としても魅力を感じる人の多い首都高。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの際も、大会運営を支える交通ネットワークとして機能していきます。今後もどんな形で首都高が注目されていくか楽しみです。

(取材・文・写真:わたなべひろみ 編集:ミノシマタカコ+ノオト)

[ガズー編集部]

<取材協力>
首都高アート展実行委員会
O美術館