もしハンドルやブレーキが効かなくなったら…クルマの安全性をチェックする【EMC試験】って何?
2017年6月に愛知県みよし市にULジャパンの試験場ATC(オートモーティブテクノロジーセンター)がオープンしました。この試験場は、EMC試験などを行うところで、オープン以来、数多くの自動車用の部品が持ち込まれています。
「クルマという製品を世の中に出すには、EMC試験が必須です。また、運転支援機能など、クルマの機能が高度になればなるだけ、そのような試験の必要度が高まります」とULジャパンの方は説明してくれました。
- 試験場の様子。テーブルの上に試験される製品が置かれ、奥にあるアンテナから電磁波を照射する。
ここまで、いくつかの疑問を抱く人もいるはずです。ULジャパンとは? EMC試験とは? と。クルマの開発に携わる人であれば、周知の名称ですが、一般的な知名度は高いものではないでしょう。そこで今回は、ULジャパンにお伺いして、EMC試験やULについてのお話を聞きました。
- 2017年6月に愛知県みよし市にオープンしたULのオートモーティブテクノロジーセンター
電磁波に悪影響を受けないことを確認する「EMC試験」
EMCとは「Electromagnetic Compatibility」の略で、日本語だと「電磁環境両立性」という意味に。両立というのは、「電子機器が電磁波のノイズを発して、他の電子機器に悪影響を与えない」と「他の電子機器のノイズに悪影響を受けない」の2つを示します。つまり、電磁波によって他に悪影響を与えないし、自らも影響されない。パソコンやマイコンなどの電子機器が電磁波に悪影響されないかどうかを確かめるのが、EMC試験です。
電磁波といってもピンとこない人もいるでしょう。実際に電磁波は見えるものではありませんし、人は感じることもできません。しかし、電子機器同士は違います。たとえば、クルマに乗っているときに携帯電話で通話をすると、携帯電話が電磁波を発生させます。その状態で携帯電話をカーオーディオに近づければ、カーオーディオの音にノイズが交じります。他にも、ラジオにパソコンを近づけても、同じようにノイズが聞こえるでしょう。つまり、電子機器は電磁波を発することがあり、他の電子機器の電磁波に影響を受ける可能性があるのです。
ノイズが聞こえるくらいであればそれほど困りませんが、クルマの場合、誤動作を起こされると危険な部品が数多く存在します。アクセルやブレーキの部品の一部が誤動作を起こせば、交通事故になることもあるでしょう。そのため、電磁波に関する安全性を確かめるためにEMC試験が必要になるのです。
- 電磁波によって電子機器に悪影響がでないかを確認するのがEMC試験だ
「UL」は製品の安全性を検査する専門家
EMC試験が必須というのは理解していただけたでしょうか。
そういう試験なら、自動車メーカーや部品を作るサプライヤーが行うのでは? と思う方もいらっしゃるでしょう。確かに、自動車メーカーやサプライヤーも試験を行っています。しかし、専門家というものは、どこの世界にもいるもの。ULは、そうした安全性試験のプロ。1894年のアメリカで設立され、100年以上の歴史を誇ります。
設立当時のアメリカは、エジソンによるランプの実用化やモーターの活用など、電化が注目された時期でした。ところが安全性が理解されていなかったこともあり、電気による火災が続出。困った保険会社が、電気技術者に検査を依頼したのがUL誕生のきっかけです。メーカー自身による試験では、ごまかしがあるかもしれませんが、第三者が行えば信用度は高まります。そんな信用できる“第三者機関”として生まれたのです。
- パソコンの電源についている箱(変圧器)の裏には「UL」のマークを見ることができる
電気製品の絶縁材料や配線の安全試験・評価からスタートしたULは、その後、技術の発展と新型製品の登場にあわせて、試験・評価の範囲を拡大してきました。国や団体が決めた規格をクリアしているのかどうかだけでなく、UL自身が定めた安全の規格もあります。
たとえばパソコンなどの電子機器に使われている電源コードを見てください。四角い変圧器の裏には小さなマークがたくさん記されています。それらは、数多くの安全規格をクリアしていることの証。よく見れば、その中に「UL」というマークもあることでしょう。
- 取材に応じてくださったULジャパンの方々
実際に自動車が販売されるまでには、こうしたEMC試験のようなさまざまな安全性の確認試験が行われています。見えないところでの努力が、安全なクルマを作っているのです。
(取材・文:鈴木ケンイチ 写真:ULジャパン+鈴木ケンイチ 編集:ミノシマタカコ+ノオト)
[ガズー編集部]
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