クルマのスペシャリストを育成する「トヨタ東京自動車大学校」ってどんなとこ?
私たちが愛車を快適に走らせるために、整備士の存在はなくてはならない存在です。しかし、整備士の仕事へ就くために必要な資格や、そのためにどんな勉強をしているのかなど、一般人には分からないこともたくさんあります。そこで、未来の整備士を育てているトヨタ東京自動車大学校へおじゃまして、カリキュラム内容をお伺いしてきました。
あらゆる分野をカバー。クルマに関する「スペシャリスト」を輩出!
今回、お話をお伺いしたのは、学校法人トヨタ東京整備学園 専門学校トヨタ東京自動車大学校の学生部 副部長の石水渡さんです。トヨタ東京自動車大学校は、整備士以外にもさまざまな分野を学べるそうですが、具体的にはどんなカリキュラムや分野があるのでしょうか。
「トヨタ東京自動車大学校では、学びたい分野でそれぞれ2年制、3年制、4年制のコースがあります。2年制のコースは自動車整備士として即戦力になれるよう、基礎から最新技術まで幅広く学ぶことができる自動車整備科。3年制は板金・塗装・カスタマイズに特化したボデークラフト科。4年制はハイブリッド車や電気自動車のエキスパートを目指すスマートモビリティ科や、1級整備士となるべくクルマのあらゆる分野を学ぶ1級自動車科・1級専攻科と、専門分野で分かれています」
トヨタ東京自動車大学校では、取得できる資格も豊富で、「国家2級ガソリン・ジーゼル自動車整備士」や「国家1級小型自動車整備士」をはじめ、「ビジネス能力検定」なども受験することができるそうです。また、「トヨタサービス技術検定」「トヨタ業務認定」なども受験できるのは、TOYOTA直営校ならではですね。
「エンジニアとして社会で活躍できるよう、クルマについてさまざまな分野を学ぶことができますが、それだけでは社会に通用するとは思えません。最高の仕事をするためには技術や知識だけではなく、『人間性』を育てることも大切です。そのため、当学校では挨拶や言葉使いなど、社会人に必要なマナーもしっかり身に付けさせています」
確かに、取材中にすれ違う学生や、授業中の学生、みなさん遠くからでも元気よく挨拶をしてくださいました。質問にもハキハキ答えてくださって、とても気持ちよかったです。エンジニアとしても社会人としても、信頼性のおける人材を育てていることが伺えました。
ハイブリッド車の勉強も! たくさんの知識が必要な現代の整備士になるために
今回、トヨタ自動車大学校を訪れて驚いたことのひとつは、その敷地面積です。6棟もある校舎に、サーキット場、オフロードコース、グラウンドなど、クルマに関するあらゆる設備がそろっています。
「敷地面積は約8000平方メートル。校舎も複雑な作りをしているので、入学して間もない頃は迷ってしまうかもしれませんね。クルマに関する設備以外にも、学生寮なども備えています」
校舎内にあるたくさんの実習場には、授業で使用するクルマがずらりと並んでいます。その中で、なぜかポツリとモデルハウスのようなものが設置されていました。一見、クルマとは関係がなさそうに見えるのですが……。
「こちらは、情報技術により家庭内のエネルギー消費を最適化した『スマートハウス』のモデルルームです。いわゆる省エネ住宅ですね。電気自動車の普及にともない、クルマから家電への給電など、『家とクルマのつながり』について学ぶ必要が出てきたため、設置された比較的新しい設備です」
- 「スマートハウス」のモデルルーム内部。電気自動車が普及され、自動車大学校での学習範囲も増えているそうです。
電気自動車やハイブリットカーの台頭により、授業も柔軟に変化しているようです。クルマのシステムだけではなく、家庭の電気系統まで勉強する守備範囲の広さに、「スペシャリストを育てたい」という学校の熱意を感じました。
別棟では、クルマの整備実習中でした。実習用のクルマとしてたくさんの車種が並んでいます。実際に働き始めると、たくさんの車種に対応しないといけません。学生の間に豊富な車種に触れておくのも大切なことですね。
こちらはハイブリッドシステムの勉強中。一般人ではなかなか見られないハイブリッド車の部品ですが、エンジン車とはシステムはもちろん、重さ、電圧などあらゆることが違うそうです。
合格率はわずか30%! 難易度の高い「国家1級整備士」とは?
クルマに関するたくさんの授業がある中で、自分の進路に合わせた資格取得もこなしていく学生たち。考えるだけでも相当な忙しさが予想されます。特に、4年制で受験資格が得られる「国家1級小型整備士」は、かなり難しい試験なのではないでしょうか。
「国家1級小型整備士を受験するには、2級自動車整備士を取得してから3年以上の実務経験が必要です。ただし、当学校のような養成施設を卒業することで実務経験がなくても受験を得ることができます。さらに、『1級整備士コース』を履修していれば、受験内容の実技試験も免除されるので、当学生は筆記試験と口述試験のみで受験することができます」
とはいえ、1級整備士は自動車整備士のなかで最上級の資格。難易度も相当なものなのでは……。
「筆記試験の合格率は30~40%前後と言われていますから、取得はなかなか難しい資格ですね。しかし、トヨタ自動車大学校の学生の合格率は累計で93%です」
半分以上が落ちる国家1級整備士の試験で、この合格率は驚異的です。
「たとえば自動車免許を取得するにも、教習所へ通わずにいきなり免許センターで受験して合格することはかなり難しいですよね。それと同じで、いくら実務経験が豊富でも、筆記試験はまた別物。さまざまな範囲にわたる知識が必要になるんです」
課外授業も盛ん! クルマ好きな学生たちのイベント参加。
ただでさえ実習や学科授業で忙しい学生たちですが、課外活動も盛んで、クルマに関するイベントへも積極的に参加しているそうです。
「『TTCTモータースポーツ』や『Toyota Gazoo Racing ラリーチャレンジ』に参加したり、東京オートサロンでは、独自のカスタマイズ車を毎年出展したりしています。また、研修の一環として、スーパーGTでのメカニック、マネージャー体験なども毎年参加しています」
- 東京オートサロンのドレスアップカー部門へ出展した「華車」。毎年出展しているそうで、すでに伝統行事となっているのだとか。
東京オートサロン2018に出展したのは、日本文化の代表的シンボルを詰め込んだ「JPN CAR(ジャパンカー)」。トヨタセリカをベースとして、座席シートには着物、後部座席はフラットにして畳を敷き詰めるなど、かなり手が込んだ1台です。ちなみに、表面の市松模様はカッティングシートではなく、塗装! 学生の技術の高さに驚きました。
日本は深刻な整備士不足。国をあげた事態改善へ
今回の取材では、スペシャリストになるため日々研鑽を積んでいる学生たちと、それに応えるべく、丁寧な指導をする熱心な先生たちを垣間見ることができました。自動車大学校として、とても魅力的なトヨタ東京自動車大学校ですが、現在抱えている課題などはあるのでしょうか。
「『若者のクルマ離れ』と少子化問題ですね。若い人にとって、クルマは持っていて当たり前のものではなくなりました。購入費や維持費を考えると、レンタカーやカーシェアリングで充分だと考える人も増えてきているようです。さらに、少子化の影響で専門学校や大学では学生が減りつつありますが、自動車大学校も例外ではありません」
インフラ整備が整った地域では、クルマは必需品ではないこと、また、ひと昔前と比べるとクルマの精度は格段に上がり、そのため本体価格も上がってしまい、若い人にはなかなか手を出しづらいものになってしまったことなど、「若者のクルマ離れ」には難しい問題があります。しかし、学生はみなさんクルマが大好きで、進学のために上京した人も少なくないそうです。
整備士は私たちのクルマをメンテナンスし、さまざまなトラブルを防いでくれる欠かせない存在です。もしも整備士が減ってしまったら、日本のクルマ社会の安全をおびやかす事態にもなりかねません。実際に整備士の不足は社会問題とされており、国土交通省では「自動車整備人材確保・育成推進協議会」を発足して活動を始めています。
整備士は、クルマ好きの私たちにとって大切な存在です。その存在をこれ以上減らさないために、トヨタ東京自動車大学校をはじめとする養成施設や、国の取り組みに期待したいですね。
(取材・文・写真:ヤマウチ 編集:ミノシマタカコ+ノオト)
[ガズー編集部]
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