誕生秘話も! 世界70カ国で販売される新型「エルティガ」開発者インタビュー
2018年4月19日(木)~29日(月)、インドネシア・ジャカルタの「JIExpo(ジャカルタ・インターナショナル・エクスポ)」にて開催されていた「IIMS2018(インドネシア・インターナショナル・モーターショー)」で、スズキが2世代目となる新型「エルティガ(ERTIGA)」を電撃ワールドプレミアしました。
エルティガは、2012年に初代モデルが発売され、今やインドネシアとインドからアジア、アフリカ、中近東など世界70カ国に輸出されるスズキの3列シート7人乗りMPV。世界戦略モデルのひとつでもあります。では、その新型はどんなクルマなのか? そもそもどうしてこのクルマが生まれたのか? 開発主査と“エルティガの父”にお話を伺いました。
- 新型エルティガと、スズキ株式会社四輪商品第二部チーフエンジニア課長笠原智主査
荷室の目安は「アクアのガロン」。現地の要望を反映
まず、スズキ株式会社四輪商品第二部チーフエンジニアであり、初代エルティガのマイナーチェンジから主査を務める笠原智氏に、新型に込めた思いを伺いました。笠原氏は、新型のプレゼンのために日本からジャカルタにきたそうで、相当気合いが入った重要モデルであることがわかります。
――まず新型に関してもっとも強調したい部分を教えてください
「よりスタイリッシュに、よりエレガントなデザインしました。MPVはボクシーになりがちですが、アグレッシブに、ダイナミックに、そして”流れ”をテーマにしています。インテリアも同様に、乗員を包むような流れるラインをデザインしました」(笠原氏)
なるほど。そう言われてみれば、旧型はデザインよりも機能性や実用性で買うクルマ、新型はデザインでも選ばれるようなクルマになった気がします。
――メカニズム面はどうですか?
「グレードにもよりますが、約50kgの軽量化を果たしました。剛性を上げつつ補強材の量を減らすように取り回しを工夫。新プラットフォームは『HEARTECT』と名付けています。エンジンは排気量を100ccアップして1500ccとしたので、走りがより力強く感じていただけると思います」(笠原氏)
――三菱・エクスパンダーは、インドネシアのユーザーの使い方や考え方を徹底的に調査して開発されたそうです。その点、新型エルティガはいかがですか?
「1列目2列目に電源、3列すべてにペットボトルが入るポケットを装備しました。全長を130mm延ばしたのですが、これは3列目と荷室の空間拡大に充てています。旧型は、2列目をもっとも後ろまでスライドさせると3列目の足下が大人にはちょっと狭かったのですが、新型では充分な広さを提供できていると思います。荷室は、ラゲッジボードを50:50の分割式にして、半分は収納、半分は高い荷物というような積み方ができるようにもしました」(笠原氏)
「それと、3列目まで使っていても荷室にアクアのガロンが積載できるようにしました。旧型はガロンを載せるとハッチが閉まらなかったんですよ。ほかにも、あれこれかなり現地からの要望を聞きました。お客さんが買ってくれたあとも、『ああ、買って良かったな』と思ってもらえるように」(大石氏)
- アクアのガロンが詰積めるように延ばされた荷室
- これがアクアのガロン。インドネシアでは一般的なミネラルウォーターだ
このあたりでそろそろ“エルティガの父”である大石さんの口元がむずむずしてきたようなので、この勢いでエルティガ誕生秘話についてうかがいましょう。
こんな「ホンマでっか!?」があったエルティガ誕生秘話
“エルティガの父”(筆者が勝手に命名)こと大石修司氏は、先日までスズキ・インドモビルの社長を務められ、現在は浜松で「Managing Officer and Division Manager, Automotive Asia Division, Global Automobile Marketing」の任にある方です。
エルティガは、2010年2月のデリーショーで発表されたコンセプトモデル「r III」に端を発するモデル。2012年2月のデリーショーで量産モデルが発表・発売され、すぐにインドネシアにも投入されました。このため、インド発祥で“インドネシアでも売るモデル”だと筆者は思っていたのですが……。
- 2010年2月のデリーショーで発表されたコンセプトr III
「言ったことを全部書かれると今後の仕事に差し障りがでるので、オフレコにして欲しい部分もあるんですが……(笑)」と、前置きした上でいろいろと教えていただきました。
「エルティガは、元々インドネシアで作りたかったんです。当時ここにはトヨタ・キジャンやダイハツ・セニアといった3列シート7人乗りモデルがあったので、スズキでもぜひやりたいと強く思っていました。でも残念ながら、そのときはインドネシア単独で作り上げるだけの力がなかったんです。そこで当時、駐在していたインド、マルチスズキに目を付けました」(大石氏)
――ということは、インドネシアのためにインドを利用したと?
「いえいえそういうことでは!(笑)。当時のインドは小型ハッチバックが主流でしたが、いずれ消費者のニーズが多様化するだろうという読みもありました。開発に当たっては、インドネシアでそれまで主流だった商用車ベースのMPVではなくより快適な乗り心地を実現するために、乗用車ベースにしたかった。インドにはスイフトがあるから、それを使ってエルティガを作ろうと。最初インド人からは、『こんなもの売れないし必要ない』と言われていたんですが、いやいや、3列シートのMPVもあった方がいいし『これはまったくの新型じゃないよ、スイフトのワゴンだよ、派生だよ』と。スイフト、スイフト・セダン、そしてワゴンの三兄弟だと。(笑)スイフトをベースに開発することによって、価格面でも競争力のあるモデルに仕上げることができました」
――インドで大々的に発表してあんなに盛り上がっていたのに!? あのときインドネシアからのプレスがたくさんいたのは、インドネシアが狙いだったからなんですね。
「実は、あのときはタイに異動していたので、熱狂ぶりは見ていないんです。ちなみに『エルティガ』の名前もインドネシアが付けました。コンセプトr III の『アールスリー』をインドネシア語読みするとエルティガになるんです。決めてからインドのスタッフにも意見を聞いたところ、いい反応を得たのでこの名前になりました」
※筆者注:インドネシア語では「アール」を「エル」と発音、「ティガ」は数字の「3」
- 2012年2月のデリーショーで量産型エルティガが発表されたときの熱狂。インドでのスズキへの期待の高さが表れている
そんな裏話があったとは驚きました。そんなにインドネシアのことを考えていたとは! 日本メーカーの、ユーザーへの熱い思いや物作りの心を知ってもらえるいいエピソードだと思うので、ギリギリの線で文字にしました。
トヨタのインドネシア向けシエンタ(日本モデルとかなり違い、開発初期段階から現地仕様を開発していた)発表のときも、三菱・エクスパンダーが発表されたときも開発者インタビューをしたのですが、製品に込める熱い思い、ユーザーのことを思う気持ち、いわゆる魂がこもった製品というものは、必ずそれを通じてユーザーに伝わり、ユーザーを振り向かせるオーラを出ていると感じるものです。それができている間は、日本車は誰にも負けないと信じています。
価格は5月発表予定。セールス担当にも話を聞いた
最後は、スズキ・インドモビル・セールスの堀内正貴氏に質問をしてみました。
――IIMSはディーラー主体のモーターショーです。メーカーとしてはGIIAS(インドネシア・インターナショナル・モーターショー)の方に注力のが通例ですが、今回IIMSで新型エルティガを発表したのはなぜですか?
「ショーの位置づけとしてはそうですが、来場者数を見ると実はIIMSの方が多いことがわかり、メーカーとしても無視できないと判断しました」(堀内氏)
インドネシアでは、4月と8月の2回モーターショーがあり、それぞれ主催者が異なります。4月開催のIIMSはディーラーが主体、8月開催のGIIASはメーカーが主体。GIIIASの方が規模は大きいのですが、最寄り駅からは徒歩で1時間以上かかり、ほかの公共交通機関もなく、シャトルバスが1時間1本程度運行されるだけとアクセスが悪く、郊外への往復は渋滞もひどい。このため、都心に近くアクセスがいいIIMSの来場者が多いという事情が垣間見えます。
――価格や台数はどのぐらいになるのでしょうか?
「旧型が月約3000台でしたが、新型はその60%増の5000台を目標にしています。価格は実はまだ決まっていません。5月中旬に発表する予定です」(堀内氏)
旧型の価格1億9000万ルピア~2億3000万ルピア(約150万円~180万円)に近いことが期待されています。
- 2列目手前からスズキ・インドモビル・セールスの堀内さんと杉山ダイレクター。3列目手前からスズキ株式会社大石常務執行役員と笠原主査。写真を撮るときのかけ声は、「サトゥ、ドゥア~、エルティガ!」(1、2、3)
今年は、日本とインドネシアの国交樹立60周年。2020年は、スズキ100周年とインドネシア進出50周年が重なる年となります。8月のGIIASでも何か発表するとかしないとかの噂もちらちらありますし、しばらくはスズキから目が離せないでしょう。
(取材・写真・文:大田中秀一 編集:木谷宗義+ノオト)
[ガズー編集部]
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