日系MPVの独壇場であるインドネシア市場に乗り込んできた中国メーカー「Wuling」のディーラーに潜入

2017年8月開催の「ガイキンド・インドネシア国際オートショー(GIIAS)」で、Wuling (上海通用五菱)という中国メーカーが、インドネシアでのMPVの工場建設と販売を大々的に発表しました。自動車調査会社のFourin社の資料によると、投資総額は7億米ドル、工場の敷地面積は60万平方メートル(完成車工場とサプライヤーパークが半々の面積)、出資比率は米GMの中国合弁会社である上海通用五菱が80%、上汽集団が20%というかなり大規模で本格的なもの。売れないかもしれない……なんてことは微塵も考えず、後戻りできない規模の工場を建てたと言えるでしょう。

GM系としては2回目の工場進出

GMは、古くはLUVというシボレーブランドのピックアップトラックで知られ、2016年まではインドネシアにも工場を持っていて、SPIN (スピン)というスズキ・エルティガと同サイズの新興国向けMPVを生産していました。それなりに売れてはいたと思うのですが、GMは満足していなかったのでしょう。あっさりと生産撤退を発表し、さっさとインドネシアから出て行ってしまいました。以降はタイからの輸入車のみに絞って販売を続けています。余談ですが、2015年から2016年の2年間にはフォードも撤退、大規模工場を建設すると言っていたVWグループがその計画を白紙撤回するという、欧米メーカーには大きなターニングポイントだったときです。

GMとしての最後のシボレー・スピン(2015年のモーターショー)
GMとしての最後のシボレー・スピン(2015年のモーターショー)

GM撤退のあと進出したWulingは、GMの新しい世界戦略に則った進出とのことでした。96%が日本車、そのうち80%弱がMPV(SUVに分類される3列シート7人乗り)というインドネシア市場で、「大きくて安いMPVを投入すれば売れるはず」という、いかにもアメリカ人が考えそうな発想の元に生まれた戦略だなと筆者は思っていました。

誰が買うのかこんなクルマ?

これまでWulingのクルマに対して、正直「誰が買うのこんなクルマ?』と思っていました。どうせ成功はしないだろうと。それはこれまでの中国製二輪車、韓国KIAのMPV、中国Chery (奇瑞汽車)、中国Geely (吉利汽車)という屍を見てきたからです。その屍達の当初のうたい文句はすべて、“日本車比◯◯割安”というものでした。安ければ売れるということにはならない、カッコいいものを好む、クルマやバイクを資産とみなし中古価格の高さと換金性の高さを重視するこの国で、「こんなカッコ悪いクルマがそんな簡単に売れるのか?」と思っていました。

Wulingコルテツのリアビュー。筆者はこのスタイリングにカッコよさを見い出せなかった
Wulingコルテツのリアビュー。筆者はこのスタイリングにカッコよさを見い出せなかった

とは言うものの、何か様子が違う

「おや?」と思ったのは、Wulingの新車指数が「50・1」だったからです。筆者は勝手に“オータナカー新車指数”という指数を持っていて、新車が発表される度にそれに当てはめて見ています。この指数、実に単純です。新車が発表されてから街中で最初の1台を見るまでの日数と2台目を見るまでの日数の数字。発表されてから最初の1台を見るまでが30日、2台目がその2日後だとしたら、そのクルマの新車指数は「30・2」となるわけです。

ちなみにこれまでのクルマで最短は、トヨタ・アギアという1000ccハッチバックのクルマで「-1・0」 (発表の1日前に一台目、同じ日に2台目を見たという意味)、最長が三菱・ミラージュの「370・35」でした。前置きが長くなりましたが、これがディーラーに行ってみようと思った動機です。なにやら興味がわいてきました。

意外に悪くない?

早々にバンドンにできたWulingディーラーに行ってみると、前にもバックヤードにも新車があふれていました。やっぱり売れていないのかと思って訊いてみたところ、ここにあるクルマはすべてオーナーが決まっているとのこと。本当だとするとなかなかの人気です。

駐車場には新車がたくさん並べられていた
駐車場には新車がたくさん並べられていた

ショールームでさっそく実車のドアを開けてみると、「おや、意外に質感は悪くないんやない?」というのが第一印象でした。スイッチ類もいろいろと操作してみたところ、操作感も悪くない。今風のBluetooth、ミラーリンク機能、ナビゲーションシステム付き8インチモニター、サンルーフ、リアカメラ、電動パーキングブレーキ、ABS、ESCというような先進装備もひと通り備わっています。グローブボックスなどのふたを開けたときの裏側のバリ感やボンネットを開けた感じは相変わらずな感じですが、日ごろ見える部分については侮れない雰囲気でした。

コンフェロS
コンフェロS
コンフェロSのインテリア
コンフェロSのインテリア
コルテツのインテリア。質感は悪くない
コルテツのインテリア。質感は悪くない

屍に学んだか?

ひと通り触ったあと、セールス氏にいろいろ訊いてみました。まず、最初に導入されたConfero (コンフェロ)というモデルが、これまでに約100台、2018年2月導入の上級モデルのCortez (コルテツ)を約50台、このディーラーで販売したとのことでした(取材時の3月中旬現在)。これはなかなかの数字だと思います。軍人や警察官といった保守的で人目を特に気にする職業の人たちにも顧客は多いとのことで、ますます「これはやるかも」と思わせます。

整備工場にも新車が並んでいた
整備工場にも新車が並んでいた

会社の戦略としても、「できるだけ早くディーラーの数を増やすことを挙げている」と教えてくれました。こんな戦略をディーラーのセールス氏が知っていて語れるということも、これまでにない驚きのひとつでした。

果たしてこのまま売れ続けるか?

スタートダッシュにはまずまず成功したと言えそうですし、戦略的にも成功できなかった先達メーカーに学んだ感があります。この先どうなるかは、インドネシアのユーザーがもっとも重視するリセールバリュー次第でしょう。それに影響を与えるのは品質とディーラーの数です。

壊れないことは言うに及ばず、壊れたときにどれだけ早く修理できるかという点で、ディーラーの数は大切です。先達に学んだかなと思わせるのが、できるだけ早くディーラー数を増やそうという戦略を立てているところです。上海汽車という中国一の自動車グループだけに資金力は豊富だと思うので、かなりスピーディーに進むのではないかと見ています。

そして3年後にWulingがどうなっているのかを興味深く見守りたいと思いますが、仮に市場シェアで日本車に脅威を与える存在にはならなかったとしても、収益に影響があることは間違いないでしょう。安いコンペティターというのは、そこにいるだけで価格を安い方に引っ張ってしまうからです。ここはひとつ、LCGC(ローコストグリーンカー)のような安いクルマを増やすのではなく、収益力の高いクルマを売ることを考えた方がいいかもしれません。

Wulingはこんなクルマ

最後にクルマのスペックを簡単にご紹介いたします。

■Confero(コンフェロ)
ボディサイズ:全長4493mm×全幅1691mm×全高1714mm
ホイールベース:2720mm
エンジン:4気筒1.5L(107hp、142Nm)
トランスミッション:5MT
乗車定員:7人もしくは8人
価格:1億3200万~1億6900万ルピア(約103万円~132万円)

■Cortez (コルテツ)
ボディサイズ:全長4780mm×全幅1816mm×全高1755mm
ホイールベース:2750mm
エンジン:4気筒1.5L DOHC DVVT(110hp、142Nm)/4気筒1.8L DOHC DVVT(129hp、174Nm)
トランスミッション:6MTおよび5AMT
乗車定員:7人もしくは8人
価格:2億1800万~2億6400万ルピア(約170万円~205万円)

(取材・写真・文:大田中秀一 編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

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