地域色ゆたかで設計も緻密! 奥深き「移動販売車」の世界

ランチタイムにお弁当を買ったり寒い冬に焼き芋や大判焼きを買ったりと、いつも私たちの近くでおいしいものを提供してくれる移動販売車。「何を買おうかな」と商品に注目することはあっても、車両まで意識することはあまりないもの。でも、調べてみるとそこには実に奥深い世界がありました。

地域によって個性あり! 移動販売車のアレコレ

「移動販売車」とは、一般的に食品をその場で作ったり販売したりする特殊車両を指します。一般的なのは焼き芋やケバブ、たい焼きやクレープといった“粉もの”ですが、地域によって実にさまざまな移動販売車があるようです。そこでまずは、さまざま地域の出身者に地元ならではの移動販売を聞いてみました。

「地元では、『あげいも』の移動販売車をよく見かけました。スーパーの軒先に出店していることが多かったですが、あげいもとおやきが一緒に売られていた記憶があります」(北海道)

「あげいも」とは、北海道の中山峠が発祥と言われる、じゃがいもを使っただんごのこと。串に刺さっているのが一般的で、小腹がすいたときにちょうど良く、北海道のソウルフードとして親しまれているそうです。

「地元では夏になるとわらび餅の移動販売車がよく来ていました。独特な歌がクルマから流れていて、それを聞くと懐かしいなーと今でも思います」(名古屋)

わらび餅の移動販売は名古屋や岐阜ではよくあるそう。最近では移動販売車によってアナウンスが異なり、セクシーな女性の声や萌声、おじさん声などバリエーションも豊富だとか。

「ニューヨークには、いたるところにホットドッグの移動販売車があり、人気の店はガイドにも掲載され、いつも行列ができています。中には、トッピングが選べる店も。日本では味わえないザワークラウトの酸味が忘れられません」(アメリカ・ニューヨーク)

あまり知られていませんが、ホットドッグはニューヨーク生まれのソウルフード! 本場の味はソーセージにケチャップだけでなく、野菜やチーズをもりもりにトッピングするなど、その人ごとにこだわりの楽しみ方があるんです。

移動販売車の制作現場も奥深い

今度は、移動販売車の裏側を見てみましょう。ここで言う裏側とは、移動販売車の製作の方。移動販売車ではどんな工程を経て、作られているのでしょうか。「移動販売車製作のまくう」にお話をうかがいました。製作の視点で見てみると、最近のトレンドが見えてきます。

「当社は開業から13年の会社ですが、個人で移動販売車を始める方には、まだまだクレープなどが人気です。ただし最近の流れとしては、本格的な料理を提供できる移動販売車のご相談が増えています」

たとえば、ピザが焼ける特注の石窯を乗せた移動販売車や、タンドールと呼ばれるインドカレーのナンを焼く専用釜を直輸入して設置したものなど、通常なら店舗で味わうような本格グルメを楽しむ移動販売車の需要が高まっていると言います。そのほかに、過去に手掛けた車両を教えていただくと、パンや飲料の販売車、色鮮やかな企業とのタイアップカーなど、さまざまなバリエーションがありました。

鮮やかなイエローが目印のこの車は、名古屋に店をかまえる、人気パン屋の移動販売車だ
鮮やかなイエローが目印のこの車は、名古屋に店をかまえる、人気パン屋の移動販売車だ
優しい木目がクルマであることを忘れそうだが、こちら全国に店舗がある、スープのお店の移動販売車。スープの暖かさが車両のデザインにも感じられる
優しい木目がクルマであることを忘れそうだが、こちら全国に店舗がある、スープのお店の移動販売車。スープの暖かさが車両のデザインにも感じられる
思わず目で追いかけてしまうインパクトの移動販売車。こちらは人気激辛商品の移動販売車で、リヤゲートを開けて商品を販売するタイプ
思わず目で追いかけてしまうインパクトの移動販売車。こちらは人気激辛商品の移動販売車で、リヤゲートを開けて商品を販売するタイプ

このように、移動販売車といっても車両の形状も販売形態も異なります。まくうでは、予算や販売する製品などの基本的な情報をうかがい、ベース車両や内外装の仕様を決めていきます。地域によって保健所の見解が異なるため、必要な設備が異なる場合があるそう。

「ただ作るだけでなく制約をきちんと確認し、さらにお客様が使いやすい車両を手がけることを当社は心がけています」

移動販売車の要は「使いやすさ」にあり

カラフルな外観に目が行きがちですが、移動販売車で大切なのはやはり内部の方。車両を手がける際には、お客様との対面の高さや販売口の大きさなど、使いやすさは特に気を配る部分だと言います。

「移動販売車では、商品を手際よく準備して販売することが大切です。また、片付けが容易にできることも意識して製作に反映しています」

まくうでは、6台の移動販売車を自社で所有しており、製作に関わりながら実際の販売業務も行うことで日々の準備や片付けの煩雑さと向き合い、そこで得た知見を車両製作に生かしているそう。毎日繰り返す作業だからこそ、細かい違和感がとても気になるのだと言います。

作業台の高さや動線の確保など、細かい部分をしっかり設計することが大事。また完成後に販売しにくいなどがあれば、さらに改良の相談に乗ることもあるそう
作業台の高さや動線の確保など、細かい部分をしっかり設計することが大事。また完成後に販売しにくいなどがあれば、さらに改良の相談に乗ることもあるそう

デザイン面では、ぱっと見て「何を販売しているか?」がイメージしやすいことを意識しているそうですが、企業とのタイアップカーではさらに工夫が施されることも。その代表が、亀田製菓の「ハッピーターン」のタイアップカーです。これまでに2台製作したというこの車両は、ひと目でハッピーターンだとわかるデザインに。さらにキャラクターであるターン王子の装飾には、特殊加工が施されています。

2台製作した「ハッピーターン号」。カラフルな見た目は、幸せを振りまいてくれそうだ
2台製作した「ハッピーターン号」。カラフルな見た目は、幸せを振りまいてくれそうだ

「ボディ側面に描かれたターン王子は、半立体で浮き出るような特殊な作りになっています。当社もあまり手がけたことがなく、思い入れが深い車両ですね」

製作途中のひとコマ。トレードマークのターン王子が浮き出てより楽しさを醸し出している
製作途中のひとコマ。トレードマークのターン王子が浮き出てより楽しさを醸し出している

「半立体をボディに装飾するには、ボディの曲面に合わせた形状のパネルを作る必要があるので、スキマを埋めたり走行中の振動にも耐えうる強度を確保したりと大変でした。また、キャラクターや色の再現には徹底的にこだわったので、完成までにかなり神経を使ったのを覚えています」

最近ではこういった大手企業がプロモーションとして移動販売をおこなうことも増えていると言います。ますます個性豊かになっていく移動販売車の世界。街で見かけたら何の販売をしているのか、そしてどんな工夫がなされている車両なのかを、ちょっとだけ気にしてみてください。きっと、移動販売車の奥深い世界が見えてきますよ!

(取材・文・写真:おおしまりえ 編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

MORIZO on the Road