映画『OVER DRIVE』に登場したトヨタ・ヤリスは、南アフリカで活躍した本物のラリーカーだった!

©2018「OVER DRIVE」製作委員会
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6月1日(金)より映画『OVER DRIVE』が、全国公開となりました。物語の舞台はラリー競技の最高峰、WRC(世界ラリー選手権)への登竜門である国際ラリーシリーズ「SEIKO CUP RALLY SERIES(以下、SCRS)」。トップチームである「スピカレーシングファクトリー」のチーフエンジニア兼メカニック・檜山篤洋と、実弟のエースドライバー・檜山直純とを中心にした人間ドラマで、羽住英一郎監督が「本物の雰囲気」を追求したことで実現した、ラリーマシンの走行シーンが見どころです。

この2人の主人公が所属する「スピカレーシングファクトリー」のマシンは「トヨタ・ヤリスSCRS」。SCRSのトップカテゴリー・SRC-1専用マシンという設定となっています。クルマ映画では、よく「見た目だけ」をそれっぽくした、いわゆる「劇場車」が登場します。しかし『OVER DRIVE』のヤリスは、TOYOTA GAZOO Racingの協力のもと、「SA Rally(南アフリカ・ラリー選手権)」で2015~2016年に活躍した本物のラリーカーをベースした製作されたものなのです!

©2018「OVER DRIVE」製作委員会
©2018「OVER DRIVE」製作委員会

すでに観ている方もいると思いますが、劇中で派手なドリフトやハイスピードジャンプは本物のラリーカーだからできる“リアルな”演出なんですね。

ヤリスSCRSの生まれ故郷の「南アフリカ」はモータースポーツが盛ん!

ヤリスSCRSのベース車両の生まれ故郷である南アフリカ共和国は、モータースポーツが盛んな国で、過去にはF1も開催されていました。ダカール・ラリーでTOYOTA GAZOO Racingのハイラックスに乗る、ジニール・ドゥビリエ選手も同国の出身です。

劇中に登場したヤリスSCRSのベース車両は、「ヤリス S2000」というラリーカー。FIA(国際自動車連盟)が定めた「スーパー2000」という競技車両規定に合わせてTOYOTA GAZOO Racing SA(南アフリカ)が独自開発した車両で、「12ヶ月間で2500台以上生産された4シート以上の車両であること」「競技用エンジンは2000cc以下の自然吸気エンジン」、「車体価格は2000万円前後」という、大きく3つの車両規定に則って製作されています。なお、日本のヴィッツの通常ラインナップにはない、3ドアがベースです。

2015年の南アフリカ・ラリー選手権に出場したこのヤリスS2000は、トヨタのラリーファンには懐かしいオイルメーカー、カストロール社のバックアップを受け活躍しました。南アフリカ・ラリー選手権公式の映像がありますのでご覧ください。

ラリーカー製作のプロに話を聞いてみた!

「ヤリスSCRS」について、また映画の感想、ラリーの魅力をこの映画にも協力している「株式会社キャロッセ」代表の長瀬 努さんにお話を聞きました。キャロッセは、「CUSCO」ブランドで、スポーツサスペンションや競技用のハーネス(シートベルト)、ドライバーを保護するロールケージなどを販売したり、競技車両製作を行ったりしているラリーショップです。

Q1:劇中に登場した「ヤリスSCRS」について

公開前にSUPER GTなどのイベントで展示宣伝されていた(写真は今年のSUPER GT富士戦)。
公開前にSUPER GTなどのイベントで展示宣伝されていた(写真は今年のSUPER GT富士戦)。

A:南アフリカで実際に使用されたマシンをベースに、物語内の選手権(SCRS)専用にモデファイされたものです。劇中ではエンジンが2000ccのNAエンジンではなく、1600ccのターボエンジンに変更され、現在のWRCのR5クラス(ヤリスWRCがエントリーしているひとつ下のクラス)に相当します。大きなリアウイングが装着されているのも、ベース車両とは異なる部分です。「ヤリスR5」はまだ存在していませんが、今後に期待しています。

キャロッセでは、ヴィッツ(こちらは5ドアモデル)をベースに「ランサーエボリューションX」のエンジンを搭載した4WDラリーカー「CUSCO Vitz 4WD」を製作。海外ラリーで好成績を収めている。2018年からエンジンをトヨタ・レクサス用の2000ccのターボエンジンに変更されている。(写真は2017年オートサロン)
キャロッセでは、ヴィッツ(こちらは5ドアモデル)をベースに「ランサーエボリューションX」のエンジンを搭載した4WDラリーカー「CUSCO Vitz 4WD」を製作。海外ラリーで好成績を収めている。2018年からエンジンをトヨタ・レクサス用の2000ccのターボエンジンに変更されている。(写真は2017年オートサロン)

Q2:映画「OVER DRIVE」はすでに観られましたか?

A:はい。実際にラリーに参加している側から見ても、走行シーンやメカニックの作業がリアルに再現されていると感じました。サービスパークでの限られた時間の中でのメンテナンスを始め、実際参加していなければわからない部分も実にうまく表現されていますね。今後、映画を通じてラリーのメカニックやスタッフをやってみたいと言う方が増えてくれるとことを期待しています。

映画の見どころのひとつであるラリー中のサービス(メンテンナンス)作業は、プロがうなるほどの緊迫感!©2018「OVER DRIVE」製作委員会
映画の見どころのひとつであるラリー中のサービス(メンテンナンス)作業は、プロがうなるほどの緊迫感!©2018「OVER DRIVE」製作委員会

Q3:「ラリー」の魅力を教えてください!

A:どのモータースポーツよりも、クルーやスタッフとファンとの距離が近いこと。一般道を使って競技が行われるので、閉鎖されたSS(スーパースペシャルステージ:競技区間)以外は、公道を普通に走りますし、赤信号も当然、止まります。少し調べてみれば移動の道順や時間帯もわかりますから、沿道を走るラリーカーを間近で見ることもできるでしょう。サービスパークでマシンを整備する場面を見学できる場合もあります。楽しみ方が人によって選べるのも良いと思っています。参加する人、サポートする人、応援する人、ラリーを行う地域の人、みんな一緒に参加できるのが、ラリーのいいところですね。

劇中車が実際のラリーで活躍したマシンだというのは、ちょっとした驚きです。でも、それだけリアリティが追求されているということでもあるのでしょう。まだ観てない方は、ぜひ映画館に足を運んでみてください。そして、ラリーの魅力を感じてみませんか?

(取材・文・写真:クリハラジュン 編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]