インドネシアで運転免許を取ってみた ~免許センター編~

先日、「実は禁断行為!? 駐在中にクルマを買ってみた」という記事を書きましたが、クルマを買い、運転するためには、当然のことながら運転免許証が必要です。では、インドネシアではどうやって運転免許を取るのでしょうか? こんなことを書いてしまってはインドネシアに入国できなくなるのでは? という心配をしながら、申請から取得までの半日をご紹介いたします。

2つの正規な手順とひとつのヤミの方法がある

運転免許証の取得方法は、公式には次のふたつです。

(1)運転免許試験場で試験を受けて取る
(2)街の教習所で練習して取る

教習所の方は、日本のようなものとはかなり違って、場内練習場がありません。教習所事務所前からいきなり路上に出るのですが、そちらの方の詳しいお話は別の機会に。

もうひとつ、「買う」という方法もあります。こちらが「ヤミの方法」ですね。正規の取得費用よりかなり高額な金額を窓口とは別の場所で支払い、写真を撮るステップにいきなり行くというやり方です。外国人はほぼこの方法、地元の人たちもかなりの人がこの方法で取得しています。気になったので勤め先で訊いてみたところ、「試験受けた人なんているのか?」と言われてしまったので、まあそういうことなのでしょう。

今回は、正規の方法で二輪と四輪の免許証を取得した(1)をご紹介いたします。同行し世話をしてくれた筆者の勤務先の総務担当者に正規の方法で取得する旨を伝えると、実に迷惑そうな顔をしていました。

運転免許証は11種類

インドネシアの運転免許証はSurat Izin Mengemudi (運転許可証)の頭文字を取って三文字でSIMと言います。SIMは以下の11種類です。かっこ内は最低年齢。

(1)SIM A: 総重量3.5トン以下の乗用自動車および貨物自動車(17歳)
(2)SIM A Khusus: 三輪タクシー(バジャイ)(17歳)
(3)SIM B1: 総重量3.5トン超の乗用自動車および貨物自動車(20歳)
(4)SIM B2: 大型貨物自動車および牽引自動車(21歳)
(5)SIM C: 自動二輪車(250cc以下)(17歳)
(6)SIM C1: 自動二輪車(250cc超~500cc以下)(17歳)
(7)SIM C2: 自動二輪車(500cc超)(17歳)
(8)SIM D: 身障者用(17歳)
(9)SIM A UMUM: (1)の二種(17歳)
(10)SIM B1 UMUM: (3)の二種(22歳)
(11)SIM B2 UMUM: (4)の二種(23歳)

今回はAとCを取りました。新規取得費用の定価は、それぞれ12万ルピア(約940円)、10万ルピア(780円)です。有効期限は5年で、インドネシア国籍者の更新に限り、免許センターだけでなくときどきモールやイベントに登場する異動更新車での更新手続きが可能です。

医師が発行する健康証明書が必要

手続きは次の6ステップ。

①申請→②学科試験→③シミュレーター試験(二輪のみ)→④実地試験→⑤写真撮影→⑥交付

日本と似たようなものですが、インドネシアでは申請時に医師発行の健康証明書添付が必要なので、免許センターの前に病院で健康診断を受けなければならないところが独特です。

クイズ番組のような学科試験

いよいよ学科試験です。この学科試験がとんでもない。全30問で、モニターに映し出される問題にYa/Tidak(はい/いいえ)をボタンで回答します。回答時間5秒の早押しで「お手つきあり」というシステムで、回答の修正ができないため緊張感はかなりのものです。30問中25問正解で合格ですが、30問終了の瞬間にモニターに合否が即表示されるので心落ち着く間もありません。

モニターに問題が映し出され「Ya/Tidak(はい/いいえ)」を選んでいく
モニターに問題が映し出され「Ya/Tidak(はい/いいえ)」を選んでいく

まず、モニターに画像や映像が表示されます。そして少し間を置いて、「Apakah ini benar ? (アパカ イニ ブナ~ル?=これは正しいか?)」と音声合成の女性の低い声が流れます。それから5秒の間にボタンを押さねばなりません。5秒後に正解が表示されて次の問題……という流れで試験が進みます。

問題なのは出題内容で、静止画の場合は、ミラーのないバイク、ワイパーのないクルマのような間違い探し的な画像や、2人乗りバイクの後ろの人が大きなはしごを抱えている、ピックアップの荷台に草を山盛り積んだ上に人が2人乗っているといった“インドネシアあるある”が登場するので、現地の人でもよく間違えてしまいます。

実際、答えを後ろから囁いてくれた総務担当者もかなり誤答を教えてくれました。だってそれは日常的にどこにでも見られる光景なんですから! 隣のインドネシア人も自信満々でボタン押した直後にそれが誤答と指摘され「アドゥ~!!」と何度も声を上げていました。そりゃそうなりますわ。

動画問題もあります。ある道路や交差点をクルマやバイクが走り回っている状況を俯瞰で見ているアニメーションが流れるのですが、「どれが問題かな?」と考えていると突然ある部分にスポットが当たって、例の「アパカ イニ ブナ~ル?」と訊かれるのです。

それもかなりの“インドネシアあるある”の。路地からセンターラインのある道路に出ようとするときに直進車の直前に出るとか、踏切で列車の通過待ちの列をバリバリ追い越し対向車線で待機し、遮断機が上がったとたんにそのまま斜めに車線に戻りつつ飛び出していくとか、これまた“あるある”な光景なので、それを正しいと回答してしまう。あまりにキツいブラックジョークに思わず笑ってしまいました。ちなみに学科は二輪と四輪でそれぞれ別に受けなければなりません。

ボロすぎるシミュレーターに悪戦苦闘

二輪のみシミュレーターに進みますが、このシミュレーターがまたとんでもない。

なかなかいうことをきいてくれないバイクシミュレーターにイライラ
なかなかいうことをきいてくれないバイクシミュレーターにイライラ

バイク部分は本物を使っているのですが、かなり古い中古車なので個体差が激しい。しかもクラッチやアクセルの具合も悪いため、発進、変速、定速、減速すべての難易度が高すぎるのです。発進のクラッチ操作がうまくできずエンスト。時速50キロ制限の道路を走行中は50キロで走れと指示されるのですが、アクセルが重くてなかなか加速しない。「ちゃんとスピード出せ」とせっつかれるので、“えいっ”とアクセルをひねった途端にどんと加速し60キロも出てしまい、「はい減点ね」。持ち点100点で80点以上が合格。ワンミスで5点減点。このリアルすぎるシミュレーターでこれは難易度が高すぎる!

二輪の実地試験も難しい

二輪車の実地試験コース。左から二本のパイロンの間がストレート、その向こうに八の字、右のパイロンがスラローム用
二輪車の実地試験コース。左から二本のパイロンの間がストレート、その向こうに八の字、右のパイロンがスラローム用

二輪の実地試験は「ストレート→八の字→スラローム」の三ステップなので何やら簡単そうですが、これまたとんでもない。鬼門は八の字で、コース幅が狭い上に並んでいるパイロンに触れてもずらしても倒してもだめなので、トライアルのように直立のまま曲がらねばなりません。バランスを取るのがとても難しく、ある程度、勢いをつけなければ倒れそうになり、また勢いをつけすぎるとバイクも体も倒さなければ回れないので、けっこう高いパイロンをぽくぽくと倒してしまいます。

“足つき”は、八の字とスラロームの手前二回だけ認められていて、それ以外は足つきとパイロンタッチ二回で不合格になります。他人が乗っているのをしばらく見ていたのですが、足は何度もつくわパイロンは何本も倒すわと、みな苦労していました。実地試験のチャンスは二回あるのですが、見ている限りでは二回やっても合格する人はいませんでした。それくらい難しい試験です。二回やって合格しなければ「また明日おいで」となります。

みなが苦しむ八の字
みなが苦しむ八の字
幅が狭くてバランスを取るのが難しい
幅が狭くてバランスを取るのが難しい

日本とは思想が違う四輪の実地試験

四輪の実地試験は、車庫に収まっているクルマを出し、左前方にある車庫に前から納める→バックで元の車庫に戻す→右前方にある車庫に前から納める→バックで元の車庫に戻す、というもの。

車庫のサイズはクルマ+20センチくらい
車庫のサイズはクルマ+20センチくらい

文字で書くと簡単そうですが、これもまたとんでもない。バックするときに目視は厳禁、サイドミラーとルームミラーだけでバックしなければならないのです。目視を重視する日本人にとって、いきなりこれは難易度が高い。しかもパイロンタッチ一回、切り返し二回、目視一回で不合格。再チャレンジなしなので、ワンミスで「また明日出直しておいで」となります。

目視せずにミラーだけでバックし狭い車庫に納めるのは難易度が高い
目視せずにミラーだけでバックし狭い車庫に納めるのは難易度が高い

何やら思想を感じなくもない試験

ようやくすべての試験をパスして写真撮影→指紋押捺→サインと進み、免許証を手にできました。

路上に出て実際に運転しながら“インドネシアあるある”たっぷりの試験問題や実地試験を思い出してみると、あれはあれでもしかしてリアルな交通事情を問題にすることで、たとえそれが路上でよく見る光景であったとしても、「そういう運転はだめだよ」と教育しているようにも思えます。二輪車の八の字にしても、低速走行や渋滞中に四輪車の隙間を埋めるよう縦横無尽に走らせるために必要なテクニックと言えなくもありません。

余談ですが、試験をまともに受ける外国人は珍しいのか、係員が何人も出てきて筆者の受験シーンを笑いながら写真に撮っていました。きっと国の数だけ事情と免許の取り方があるのでしょう。おもしろいので機会があればまた別の国で取ってみようと思います。

(取材・写真・文:大田中秀一 編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

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