量産化を目指すクラシックビートルの電気自動車「ビートルコンプリートEV」
世界初の量産EV(電気自動車)として、三菱i-MiEVが誕生してもうすぐ10年。今や世界中の自動車メーカーが電動化に向かって舵を切り始め、クルマ社会が大きく変わろうとしております。そんな時代を見据えてか、神奈川県は横浜市内にある「OZモーターズ」から、フォルクスワーゲン Type1(ビートル)をEV化した「ビートルコンプリートEV」というクルマが現れました。
クラシックカーのEVコンバージョン(EV化)はほかにも例はありますが、こちらのビートルは現物合わせの一品モノではなく、ある種の量産化を見据えているとのことで、実際に完成車両を見に行ってきました。
外観から「EV化」を感じさせるものは一切なし!
コンバージョンEVとは、現在メーカーが販売している車両(いわゆるテスラや日産リーフなど)と違い、一般的なエンジン(内燃機関)車の動力を電気モーターに載せ替えたもの。1990年代にアメリカで始まったガレージカスタマイズのひとつで、現在では世界中で多くの愛好家たちによって行われています。OZコーポレーションでも、過去にさまざまな小型車やヴィンテージカーをベースにコンバートEVが作られてきました。ビートルコンプリートEVもそのひとつです。
お披露目会場にあったオフホワイトのビートルコンプリートEVは、見る限りはビートルそのもの。リアにあるエンジンフードの中から見えるものが空冷フラット4エンジンでないことを除けば、外観から室内にたるまで、電気自動車であること思わせるものはありません。
しいて言うなら、EVにしたための補器類がその中に目立たない程度に付いていることと、後席の後ろにあるダッシュボードの部分にバッテリーの存在が見えることですが、バッテリーについては展示のためにあえて蓋を外してあるのだそう。バッテリー自体は、日産リーフから取り出したリサイクルバッテリーですので、その性能は折り紙付きといえるでしょう。
自動運転機能も視野に入れる制御技術に驚き!
乗ってみた印象もお伝えしましょう。普通のビートルのようにシートを倒して後席に乗り込み、出発します。ビートル特有の“バサバサ”というエンジン音はもちろんなく、静かにモーター音のみがしてスタートしていきます。ただ、よくEVの試乗記で評されるように“無音”というわけにはいきません。そこはやはり年式相応だけあり、本体の軋み音やショックの動く音などが聞こえますから、そのあたりは今どきのEVとは一味違います。
デモンストレーション走行の中では、アクセルをスッと抜く場面がありました。すると、強烈な制動力がかかります。これはもちろん、回生ブレーキによるもの。この車両では回生ブレーキの度合いを細かく(ほとんど無段階)調節ができるのです。もっとも強い設定にすると、その制動力はかなりのものとなります。しかし、これはまだ序の口、そこからが、現代のコンバージョンEVの“驚きの始まり”でした。
かつて乗せていただいたEVは、どれも“ここまで”でした。しかし、走り始めて大通りに出ると、ステアリングの前にある小さな計器が反応を始めます。車線がズレ始めたことを警告したかと思えば、前方のクルマに近づいていることの警告も。驚くことにその距離まで表示されたのです。さらに横断歩道では、人がいることにも反応ました。
これは「モービルアイ」と呼ばれる最新のEVにも搭載されている機器によるもので、ゆくゆくはこれをベースに自動運転も可能にしていく予定もあるとか。実際に、そのためのステアリング用のモーターもあり、すでに入手しているそう。コンバージョンEVの進化に驚かされるばかりでした。なお、このクルマは普通充電のみで、航続距離も70~100㎞とのことですが、急速充電への対応やバッテリーの容量アップも対応可能とのこと。
もっとも世界で愛されている車でEVを
OZモーターズでは、これまでにもユーノス・ロードスターを始めとした数々のコンバージョンEVを製作し、ナンバーを取得。メーカー製EVと同様のエコカー認定を受けています。実は、過去に東京オートサロンで試走したドリフト仕様のプリウスも同社によるもの。EV化や制御技術のノウハウはたしかなものです。では、なぜ量産化を目指した車種がビートルだったのでしょうか。
その答えは、このクルマが世界中で数多く販売された、ある意味で“もっとも世界で愛されている車”だからです。それは、日本国内でもまだまだベースになる車両が残っているということでもあります。もちろん、同一車種で多くのEV化ができれば、製作ノウハウを図面化したり書類を一本化によりナンバー取得の手間が減らせたり、さまざまなメリットが生まれるもの。価格も安価に設定することができます。
クラシックカーとしての認知が広がっていることもまた、ビートルがベース車両に選ばれた理由のひとつです。事実、今回乗せていただいたクルマのオーナーも、「別荘地で使うのだけれど、これなら現代の交通事情に合わせて走っても遜色はないし、何より最新の高級車と並んだとしても見劣りすることがないから(笑)」と話していました。
OZモーターズ代表の古川氏にお聞きすると、「EV化技術の継承のためにも、文化を持続するためにも、一緒に取り組んでいただける事業者を募っていくことが必要だと考えています。こうしたお披露目やEV製作の実地講習を行っているのも、そのため。多くの担い手を育てて、ゆくゆくはフランチャイズ化と海外展開も考えています」とのこと。
クルマの電動化が進む昨今、古いクルマも楽しめるコンバージョンEVの世界は、さまざまな意味で期待が寄せられるのではないでしょうか。こうした電気仕掛けのビートルが、もしかしたらあなたのガレージに収まる日も遠くないかもしれません。
(取材・文・写真:きもだこよし 編集:木谷宗義+ノオト)
[ガズー編集部]
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