もうひとつの「フジツボ」。87年の歴史を持つ福岡の旧車ショップ「藤壺自動車工業」
「フジツボ」と聞いて、まず思い浮かべるのは“マフラー”でしょう。しかし、福岡県糟屋郡(かすやぐん)にも同じ名称の自動車関連の店舗があります。その名も「藤壺自動車工業」。
希少なヒストリックカーが並ぶこのお店、ルーツをたどればマフラーの「FUJITSUBO」と同じ原点を持つのだそう。そこで、藤壺自動車工業に取材を申し込み、その歴史を伺ってきました。
横浜でマフラー製造を始めた兄。地元で整備工場を続けた弟
その歴史は日露戦争の終わり、1908年(明治41年)に藤壺満喜氏が出身地の熊本県に「藤壺鉄工所」を設立したところからスタートします。同年、藤壺勇氏が誕生。1913年(大正2年)には弟の勝氏が生まれます。2人とも小学生になるころにはエンジンが組めるまでになっており、家業を手伝うように。当時、藤壺鉄工所では、ガソリンエンジンのみならず、ガスや蒸気機関など、さまざま発動機の整備を行っていたそうです。
そこからときは流れ1931年(昭和6年)。勇氏と勝氏の“藤壺兄弟”は、福岡県博多区で販売・修理業を開業。1933年(昭和8年)には、現在の前身となる「藤壺モータース」を設立します。2輪と3輪車の販売と修理をメインとし、同時に全国のバイクレースにも参戦。各地で優勝を重ねるようになります。その後、日中戦争や太平洋戦争が勃発し、福岡市内も大空襲に遭いましたが、工場の工具や機械は地中に埋められていて難を逃れたそうです。
終戦後、メグロや陸王といった戦前から存在していたメーカーのほかにもオートバイメーカーが100社以上も乱立する中、事業を再開した藤壺モータースは、オリジナルのオートバイ「イーグル号」を完成。
- 藤壺モータースのオリジナルバイク「イーグル号」(写真:藤壺自動車工業)
1951年(昭和26年)、兄の勇氏は神奈川県横浜市に移り住み、プロのレーサーの道へ。同時にパーツ開発にも進出し「藤壺技研工業」を設立し、日本を代表するマフラーメーカーとなっていきます。弟の勝氏は、工場を引き継ぎ「藤壺自動車工業」を経営していきました。
というのが現在までの流れです。「藤壺技研工業」と「藤壺自動車工業」は、ともに現在2代目となっていますが、今回お邪魔した「藤壺自動車工業」の現在の代表取締役である藤壺巌氏も、先代の勝氏の背中を見て育ち、「私も古いクルマを修理して好きな人に乗ってもらうのが好きなんでしょうね」と語ってくれました。
- 現在、藤壺自動車工業の社長を務める藤壺巌氏
まるで自動車博物館のようなショールーム
さて、「藤壺自動車工業」の中身を探っていくとしましょう。旧車ショップとして知られている同店。それだけに、お店の内外には昭和40~50年代の国産車、しかもキレイにレストアが完了している状態のクルマが並んでいました。
またその後ろには、レストアを控えたベース車両が置いてあり、パーツが揃うのを待っていました。工場もレストア中のクルマでいっぱい!
さらにショールームの中には、トヨタ2000GTをはじめ、新車のようなコンディションを保つ車両が並べられていました。こちらは販売車両ではなく、見学と撮影に貸し出すためのものだそう。
ショールームの2階にもコレクションが並べられ、こちらには2輪や輸入車も置かれていました。ラインナップな幅広さやコンディションのよさから、まるで博物館に来たかのような気にさせてくれます。
車検のクルマもピカピカに磨いてお返しします
事務所には昔の工場の写真など、創業87年を誇る歴史の重みが感じられるものがたくさん掲示されています。そのうちのひとつ、感謝状が飾られている箇所をよく見ると、「全日本整備技能競技大会優勝」の賞状がありました。日本全国から集まる整備士の技を競う大会で日本一に輝いたスタッフがいるというのは、車両を整備に出す上で心強いポイントでしょう。
「レストアベースになる車両は減っていく一方なので、あまり旧車が売れると困ります(笑)。通常の板金や車検整備も承っていますので、クルマのことはなんでもお気軽にご相談いただきたいですね。ヒストリックカーから最新のハイブリッドカーまで、どんなクルマの整備も任せてください」と藤壺氏。同店がクルマを大切に扱っていることがわかる、こんなエピソードも……。
「車検の車両は、スタッフがキレイに磨き上げてお客様に引き渡します。ポリッシャーで傷んだ層からキッチリ磨くんです。車検を終えてお客様が来ると、みなさんビックリします。金額にして5万円分ぐらいのコーティング作業で行う磨きを行ってクルマをお返しするからです。これは昔から私が『キレイにして返そう』とやっていることが、今いるスタッフたちにも伝わっているから。今はあまりに熱心に磨くものだから、こっちが心配になりますけどね。やりすぎじゃないか、って(笑)」
購入や整備の予定がない方で「フラっと見に来てほしい」という藤壺氏。地元の人の中には、「ハードルが高そう」と思っている人もいるようですが、行ってみれば藤壺氏を始め、気さくなスタッフさんたちが出迎えてくれます。なかなか目にする機会の少ない貴重なクルマを一同に見られるので、気になる方は見学に行ってみるといいでしょう。
JR福北ゆたか線、門松駅から徒歩5分、博多駅からでも約15分と比較的アクセスしやすい立地にあるので、観光で福岡市に来た際に、ローカル線に少し揺られて訪れてみるのもいいかもしれません。「フジツボ」の原点がここにありますよ!
▼有限会社 藤壺自動車工業
http://www.e-fujitsubo.co.jp/
(文:赤坂太一 編集:木谷宗義+ノオト)
[ガズー編集部]
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