21年ぶりの新型に見る、センチュリーが「究極の日本代表」であるワケ
センチュリーは究極の日本(にっぽん)代表だ。
以前から、筆者はセンチュリーに対してそう思っていたのですが、21年ぶりにフルモデルチェンジされた新型センチュリーに触れ、開発者にお話を伺うことで、その思いをより一層強くしました。
なぜ、センチュリーが「究極の日本代表」なのか?
本題にいく前に、まずはなぜ筆者が、センチュリーを「究極の日本代表」だと思っているのかをお話させてください。1997年に先代センチュリーがデビューしたとき、当時勤めていた会社の社長が購入し、そのときに大変、感銘を受けました。
ディーラーの方は、「新型が旧型の横に並んだとき、旧型にお乗りの方が旧型感を意識しないようにデザインされています。シートも、運転するための運転席、打ち合わせなどで後ろを振り返る秘書のための助手席、そしてVIP専用の後席と、それぞれの機能に合わせた形になっています」と言うんです。それを聞いて、「そんなことまで考えているのか!」と深く感心しました。
海外からのお客さんを成田空港まで送迎したとき、後席左側に座るチャンスを得たのですが、とても静かで滑らか。遠くの方でかすかにV12エンジンが発する、何とも言えない乗り心地のよさを感じました。帰り道、どうしても我慢できず、運転手に懇願して運転席を代わってもらうと、すべてがゆったりスムーズで、アクセルを踏んだときのV12エンジンも滑らかで上質。別世界の襟を正した雰囲気に、運転スタイルも自然と変わりました。そして、「これは究極の日本代表だ」と思い至ったのです。
すべては後席のVIPのために
トヨタ東京本社で行われた説明会・後席試乗会で見た新型センチュリーは、ずいぶんと堂々とした佇まいでした。今度は「隣の旧型のオーナーに気づかれない」とはいかないかもしれません。これはサイズアップされたタイヤ、延長されたホイールベース、より立たされた太いリアピラーによるもの。ずいぶん立派になりました。ここのところ縮み気味になっている日本人に対して「日本人よ、もっと自信を持って堂々と世界に対峙しなさい」と、センチュリーから言われているようです。
前から後ろまで一本筋の通ったショルダー部のキャラクターラインには、「几帳面」と呼ばれる平安時代の屏障具の柱にあしらわれた面処理の技法を採用しているとのこと。恥ずかしながら、几帳面という言葉の源を初めて知りました。「近年、忘れられている、日本人のあるべき姿を思い出せ」とセンチュリーに言われているような気がします。
VIPが降りるとき、靴がひっかからないようにスカッフプレートとフロアの段差を15ミリ縮小して、フロアマットを装着した状態でフラットになるよう、設計されています。また、日本髪の女性やハットをかぶった紳士もすっと乗り降りできるように、開口部高が8ミリ伸ばされているそうです。しかし、新型センチュリーの話を聞いて、もっとも感銘を受けたのはそこではありません。
ボディが身だしなみを整える鏡になる
筆者が感銘を受けたのは、ボディの塗装です。仕上げまでに1週間を要する7コート5ベイク塗装は、間に3回の水研工程を挟み、さらに最後にバフ研磨を行います。これが肝。熟練の手によって、徹底的に平滑に仕上げられていくのです。その目的がまたすごい。
- (写真:トヨタ自動車)
ボディに映り込むVIPの姿を、鏡のようにピシッと歪みなくするためだそうです。また、ボディ全体に映り込む景色も。恥ずかしながら自分の姿も映してみましたが、なんと端正なことか。実際、乗り込む前や降りた後、ボディを鏡にしたネクタイや髪を直すVIPもいるのだそうです。このため、リアピラーの磨きには特に念を入れるのだとか。こんなことまで考えているとは驚きです。
センチュリーのモデルチェンジは式年遷宮
説明会では、外国人記者から「センチュリーを廃止してレクサスLSと統合しようと思わなかったのか?」とか、「ライバルはロールスロイスか?」といった質問が。なるほど、外国からはそう見えるのかと思うと同時に、センチュリーの存在価値はわかりづらいのだなとも思いました。
開発陣はその質問に対し、「LSへの統合や、アルファードのようなクルマにしようとは微塵も思わなかった」と回答。「センチュリーの存在意義の中には、自動車製造の技能継承という意味もあり、21年ぶりのモデルチェンジは式年遷宮とも言える」とおっしゃっていました。きっと技能だけでなく、日本人の心も伝承されていることでしょう。
このような心でクルマ作りができている限り、日本の製造業は世界に負けることはないと筆者は思います。逆に言うと、このような志がなくなったとき、日本の製造業も終わると言えるでしょう。個人的にセンチュリーは、海外の大使館で使用すべきではないかと思います。諸外国に駐在する日本大使が乗ることで、日本の心や志を伝えられるのではないでしょうか。
センチュリーからは世間が見通せる
さて、トヨタ東京本社の周囲を15分ほど、後席で試乗させていただきました。改めて乗ってみると、後席からの視界の広さに驚きます。世の中をちゃんと見通し、何かを判断するためにも、この視界のよさは必要なのでしょう。ここから見える景色は格別です。ちなみに、V8ハイブリッドになった機関が発する音は、やはりV12と同じとはいかないようでした。公儀御庭番が服部半蔵から飛猿に変わったような感じでしょうか。
昔、「いつかはクラウン」というキャッチコピーから、クラウンに憧れを持つ人がたくさん生まれましたが、目指すべきは「いつかはセンチュリー」でしょう。センチュリーは、いつまでも「究極の日本代表」であり続けるのです。
(取材・写真(一部)・文:大田中秀一 編集:木谷宗義+ノオト)
[ガズー編集部]
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