ドライバーも歩行者も守る。世界の“クルマの安全”最前線!「NCAP & Car Safety Forum in TOKYO 2018」
おいしいレストランやホテルを探そうというときに役立つミシュランガイド。星の数でレストランやホテルのおいしさや素晴らしさを格付けしているため、誰もが一目で、そのクオリティをイメージすることができます。
それと同様なものが、クルマの自動車アセスメント(自動車の安全性能評価)にもあります。NCAP(ニュー・カー・アセスメント・プログラム)とも呼ばれ、日本をはじめ欧米や中国などでも評価が行われているのです。
日本では、自動車の保険である自賠責の運用益(積立金)などで運用されている「独立行政法人自動車事故対策機構」が日本の自動車アセスメントである「J-NCAP」を実施。毎年、春ごろに試験の結果が発表されています。
8月1日と2日にかけて、世界のNCAPの動向をまとめて知ることができるイベント、第5回「NCAP & Car Safety Forum in TOKYO 2018」が開催されました。今年は、欧州、アメリカ、韓国、アセアン、韓国だけでなく、中国からもNCAPの関係者が参加し、それぞれの国・エリアの最新事情を説明してくれました。
- ▲ユーロNCAPの元代表でもあり現在のレーティング・チーフであるアンドレ・ジーク氏。
2025年までにシナリオをベースにしたテストを導入するというユーロNCAP
ユーロNCAPからは、元代表でもあり現在のレーティング・チーフであるアンドレ・ジーク氏が参加。ユーロNCAPの点数計算の仕方から始まり、2025年に向けてのユーロNCAPのロードマップが説明されました。
ユーロNCAPとしては自動車技術の進化を先取りするかのように、テスト内容も刻一刻と変化し、ほぼ2年ごとに何かしらかの新テストや変更が行われています。2022年までは、現在のテストを基本に、より内容が厳しくなるとのこと。たとえば側面衝突に関して言えば、乗員と反対側からの衝撃というテストが2020年から加わります。また、事故の後のレスキューという観点からのポイントもプラスされるようになります。また、自動運転技術などの先進運転支援はNCAPとは別途に評価するようになるとも。
そして、2023年からは、テスト全体の方針も大きく変化し、シナリオをベースにしたものになるというのです。従来、NCAPのテストは、正面からの衝突、側面からの衝突といったように、事故のシチュエーションなどに関係なく、「いかにもテスト」といった内容が行われてきました。それを、今後よりリアルな交通事故に近い形のテストにしようというのです。
たとえば、直進車と左折車(日本で言えば右直事故です)や、交差点での自動車と歩行者との事故などのようにリアルな事故と近い状況でテストを実施するのだそう。実際に、どのようなテストを行うのかは、現在、検討中とか。いったい、どのようなテストになるのか気になるところです。
リアルな交通事故データとテストの関係を見直すというアメリカ
- ▲IIHSの代表であるデヴィッド・ハーキー氏。
アメリカからの参加はIIHSの代表であるデヴィッド・ハーキー氏。IIHSは、米国道路安全保険協会の略であり、保険業界が設立した団体です。独自のテストにより、「トップセーフティピック」という名称を使ってクルマの安全性能を評価しています。
IIHSは、保険会社による団体ということで、リアルな自動車事故に関するデータを豊富に持っていることが特徴です。そのデータをもとに、スモールオーバーラップといった、非常に厳しいテストを導入したことが話題を集めました。これは、クルマの前面全体がまっすぐにぶつかる事故は意外に少なく、ほとんどの場合が、オフセットしてぶつかるという事故データから生まれたテストです。
- オフセット衝突は真正面からぶつかるのではなく、少しずれた部分がぶつかること
そのテスト内容は、クルマの前面の運転席側の4分の1ほどで硬いバリアにぶつけるというもの。ぶつかるエリアが小さいため、導入当初は多くのクルマが非常に悪い点数となってしまいました。その後は自動車メーカーの対応で成績は急上昇するのですが、テストの範囲外であった助手席側は未対応のままということに。そのためIIHSでは、助手席側のスモールオーバーラップテストも2019年から実施することにしたと言います。
また、現状の側面衝突のテストでは、ほとんどすべてのテストを受ける車両がGOODという合格点を得ていますが、実際の交通事故の死亡者のうち約2割が側面衝突を理由としているとか。そのためテストの内容を見直し、より厳しい内容に変更しているとも。リアルワールドとの関係性を強く意識するのがIIHSの特徴なのでしょう。
2006年にスタートしたC-NCAPは75%が5スター
- ▲中国のCATARC(チャイナ・オートモーティブ・テクノロジー&リサーチ・センター)のリリィさん。
中国のNCAPからは、CATARC(チャイナ・オートモーティブ・テクノロジー&リサーチ・センター)のリリィさんが参加。C-NCAPの現状が報告されました。
中国でNCAPが導入されたのは2006年から。市場拡大にあわせて自動車の安全装備の充実も進み、今ではテストを受けるクルマの75%が最高評価の5つ星を獲得できるようになっているとか。そして今後はアクティブセーフティやEVに関係するテストの比重を高めていく予定だと言います。EV普及を進める方針が、NCAPにも表れているようですね。
ゼロスターの撲滅や女性ドライバー向けの評価など
- ▲K-NCAPから参加したユン・ヨンハン氏。
韓国の事情を説明してくれたのはK-NCAPのユン・ヨンハン氏。テストの内容や将来の予定を聞いた限りでは、ユーロNCAPに近いものがありましたが、女性ドライバー保護性能や6歳/10歳の子どもの保護性能という項目が存在するのには驚きました。
アセアンNCAPの報告は、カイリル・アンワル氏。アセアンでは日本車のシェアが非常に高いため、テスト対象となるクルマの多くが日本車になるとか。12台をテストした2017年度でいえば、うち7台が日本車でした。また、ABSを装備していないと星がゼロになるということもあり、12台のうち3台が星のないゼロスターとなっています。ちなみにアセアンでは自動車事故よりもオートバイ事故の方が深刻という背景もあり、2020年にはオートバイに対する安全性というテスト項目を追加したいと説明されました。
グローバルNCAPは、アセアンNCAPのように、世界各地の新しいNCAPを支援する団体です。そこが力を入れているのが、安全性能の低いゼロスターのクルマを販売しないようにというキャンペーンです。日本や欧米では考えられませんが、インドやアフリカなど規制の緩い地域では、欧米基準でいうところのゼロスター相当のクルマが堂々と販売されています。実際にグローバルNCAPがテストを実施したところ、インドでもアフリカでもゼロスターのクルマがいくつも出ているのです。
- ▲アセアンNCAPからはカイリル・アンワン氏が登壇した。
自動車の安全性能を高めるには、お金がかかります。シートベルトやエアバッグを装着すれば、それだけ車両価格は高くなり、それを敬遠して購入を見送るユーザーもいるでしょう。そうとなればクルマをたくさん売りたいメーカーは、安全装備をギリギリまで減らして販売します。そうした負の連鎖に陥ると、クルマの安全性能は少しも高まりません。結果的に損をするのは、交通事故に遭うユーザーです。
しかし、ユーザーは交通事故の被害者になるまでクルマの安全性の大切さを実感するのは難しいでしょう。そのため規制やNCAP制度のない地域では、ゼロスター相当のクルマが販売され、それに気づかないユーザーが、そうしたクルマで街を走っているのです。そういう意味で、規制や第三者の評価となるNCAPは非常に重要な存在となります。また、未来のクルマの形を決める要素のひとつにもなります。
安全で安心なクルマのために必要なNCAP。クルマを購入するときは、NCAPの評価をぜひともチェックしてほしいと思います。
(写真・文:鈴木ケンイチ 編集:ミノシマタカコ+ノオト)
[ガズー編集部]
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