万が一クルマが災害に遭ってしまったら……? 被災したクルマの対処法

自然災害に見舞われることの多い昨今。万が一自家用車が災害に遭ってしまったら、どうしたらよいのでしょう。主に水害に遭った場合について、防災士であり、北海道防災マスターでもある大浦宏照さん、元レンタカー会社勤務でクルマに詳しい北島健吾さんにお話を伺いました。

触らないことが第一

まずは、大浦さんに防災士の立場から、災害にあったクルマへの対処方法について聞きました。

――クルマが被災してしまったとき、まずはどうしたらよいでしょうか?

「台風、地震や水害などに遭ったクルマには、素人考えで触らないのが一番です。“水に浸かったクルマのバッテリーケーブルをはずした方がよい”ということも言われていますが、これもクルマの専門家にまかせた方がよいでしょう。知識があやふやなまま触ってしまうと、感電する危険性があります。

そして、自動車ディーラーか保険会社に相談すること。事故や故障扱いとしてレッカー移動させ、その後の処置を決めていくという流れになります。でも、災害時はレッカー移動もすぐには対応してもらえないことが多いはず。その場合は、その場にクルマを残し、連絡先を書いた紙を挟んでおくと良いでしょう。もしも、復旧作業の妨げになるときは、今の法律ですと道路管理者等が所有者の了解なしでクルマを移動できることになっています。あくまでも仮置きだけれども、メモを残しておけば連絡してくれます。ただ、エンジンルームが水没したクルマは残念ながらほとんど廃車になってしまうようです。」

――9月に発生した北海道胆振東部地震の際には自宅の車庫で被災したクルマも多くあったと聞きましたが

「札幌市清田区の液状化現象を起こした現場では、水道管が破裂して複数の車両が水没しました。自宅の車庫にあった車が被災した事例もあり、未だに現場に残っています。(10月6日現在)撤去が難しい状況になっていて、解決にもう少し時間がかかりそうでした。

また、余談ですが、携帯電話の充電をクルマに頼ったという話も聞きました。ガソリンが切れそうになって困ったという方もいらっしゃいました。燃料計が半分を切ったら満タンにする習慣を身に付けると、備えは厚くなりますね。僕は吹雪に備えてクルマに置いてあった非常食と水を自宅に持ち帰って食べました。我が家のクルマには、フロントシートの裏側についているネット状の物入れに非常食を入れています。見えやすいところにあれば、僕がいなくても気づいてもらえるからです。」

水没したクルマはほぼ廃車?

では、なぜ水没したクルマはほとんど廃車となってしまうのでしょうか? 元レンタカー会社勤務でクルマの対処について詳しい北島さんにお聞きました。

――水没したクルマはほとんどが廃車になるって本当ですか?

「“水没したクルマ”とひとことで言っても様々な状況が考えられます。クルマの車高のどこまで浸かったのか。浸かってしまってからどのくらい経っていたか。海水に浸かったのか、淡水に浸かったのか……。それらによって、クルマに与えられる影響は違ってくるのです。

そもそも、水没することによるクルマへのダメージは大きく分けて3つ考えられます。

1つ目は水によるボディやシャーシの腐食です。
クルマは塗装に傷もなくきれいに見えるものでも、どこかに目に見えないほどのキズがついているものです。例えば走行中にはじいた数ミリの石が車体に当たるだけでも塗装にごく小さい穴が開いてしまいますし、積雪地帯の凍結防止剤の影響でという場合もある。そのような穴から水が入り込みジワジワとサビが侵食していきます。

2つ目はエンジンのダメージ。
エンジンに向けて水の入りやすい箇所のひとつはエアクリーナーから。本来、ここから空気を吸って不純物を取り除き、エンジンに送りこんで爆発・燃焼させるわけですが、クルマが水没すると空気と一緒に水を吸い込んで、燃焼しているエンジンに水を直接引き込んでしまうんです。そうなると、エンジンがダメになってしまいます。たまにオフロードで使われるクルマなどで、エンジンから煙突のようなものを伸ばしているのを見かけたことはありませんか? あれはエアーを取り入れる部分を高い位置にすることによって、川を漕いで走るときにエンジンに水が入りこまないようにするためです。シュノーケルで空気を吸うのと同じ要領ですね。

3つ目は電気系統の故障です。今のクルマは電気なしでは成り立ちません。車内には配線が複雑に張り巡らされています。水に浸かることでこれらの配線もダメになることが多いのです。

これら3つのダメージの具合により、水没してしまったクルマをどうするか判断します。事故や不注意などによりクルマが水に浸かっても、すぐに引き出してフロアをはがし、しっかり乾かせばそのまま使用できる場合はあります。しかし、災害時には数日は浸かったままの状況であることが多く、それぞれのダメージの修理費も莫大なものになるため、廃車とすることが多くなるようです。」

車両保険は使える? 使えない?

――では、自然災害によりクルマが被災した場合、車両保険は支払われるのでしょうか。

「台風、竜巻、洪水、高潮などの一般災害の場合は、だいたいどこの保険会社でも車両保険は支払われます。また、地震、火山噴火、津波といった災害ですと、通常の車両保険では支払われませんが、特約をつけることにより保障される保険会社もあります。ご自身の契約している保険会社に確認、相談をしてみて下さい。また、車両保険の支払金額も、廃車にする場合、修理する場合と違ってきますので、まずは、廃車にするか修理にするかの判断も含めて保険会社の方に相談することをおすすめします。」

動けなくなったらクルマはそのまま。そして、相談

――いずれにしてもまずは保険会社に相談するのがいいのですね。ほかに気をつけたほうがよいことはありますか?

「さきほどのエンジンの話とも重なるのですが、クルマを運転していて、冠水したところに突っ込んでしまったら、絶対にアクセルを踏み込まないこと。水圧に負けてクルマは失速してしまうので、つい慌ててアクセルを踏んでしまいますが、空気を強く吸い込むのと一緒に水も思い切り吸ってしまいます。そうするとエンジンに一気にダメージがかかります。ですから、クルマが水没して動けなくなったら、すぐにエンジンを切ってください。そして、感電の危険がありますから、バッテリーには手を触れないこと。そして、保険会社の方に相談をして下さい。」

クルマが被災してしまったら、慌てず、不用意に触れないことが、クルマにとっても、危険回避の意味でも大事なことだとわかりました。そして、大切な愛車のために、クルマの技術の面、補償の面での専門家に相談し、適切な判断をしていきましょう。

(取材・文:わたなべひろみ 編集:ミノシマタカコ+ノオト)

[ガズー編集部]

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