震災の処理で大活躍! ガンダム好きがつくった双腕重機「ASTACO」の威力とは
まるでロボットのような2本の腕。「ASTACO」と名付けられた、日立建機の双腕仕様機です。これを使えば「つかみながら切る」「支えながら引っぱり出す」「長いものを折り曲げる」など、従来の重機ではできなかった細かい作業も可能に。建物の解体現場や東日本大震災のガレキ処理作業などでも活躍しています。
この双腕作業機「ASTACO」シリーズの開発に携わったのが、日立建機株式会社 広報戦略室の小俣貴之さん。「ガンダムやパトレイバーなど、ロボットアニメからの影響が開発に繋がっています」と語る小俣さんに、ASTACOの開発経緯や苦労した点をお聞きしました。
- ASTACOの開発経緯について語る、日立建機株式会社 広報戦略室の小俣貴之さん
――現在は広報担当とのことですが、小俣さんはもともとASTACOシリーズの開発に携わっていらっしゃったんですよね?
はい。私が入社したのは1997年で、以前は設計業務を担当していました。
通常の油圧ショベルは、1本の腕でさまざまな作業をします。先端のツールを交換することで、多様な現場に対応してきました。ただ、建物などを壊したあとの分別はどうしても手作業になってしまいます。そこで、「もっと器用に動かせる重機がつくれないか。ガンダムみたいに2本の腕にしてみたらどうか」という考えをもとに、双腕仕様機というコンセプトが生まれました。開発メンバーは私を含め、いわゆる「ガンダム世代」。需要があったというよりも、作りたいものを作ったというほうが大きいかもしれません。
- アスタコとは、スペイン語でザリガニという意味。「正直に言うと、英語の説明は後付けです」(小俣さん)
――開発はどのように?
まずは、既存の油圧ショベルを2台くっつけるところから始めました。油圧の回路が成り立つのか、 操作がうまくいくのか、運転席はどうするのか、初号機の開発メンバーはいろいろ試行錯誤しました。
普通の油圧ショベルは、2本のレバーで1本のショベルを動かします。もし2本の腕を同時に動かすなら、オペレーターは片手で1本の腕を操作する必要がでてきます。左のレバーで左腕を、右のレバーで右腕を動かす。操作としてはこれが最も直感的に動かせるシステムだろう、と考えました。
アスタコ初号機はもともと木造家屋の解体作業などを想定していましたが、災害レスキューに活用できるとのことで、東京消防庁様で試験運用したのちに本採用となりました。
- ASTACOの運転席と操作方法の説明図。「難しそうに見えるかもしれませんが、1時間程度練習すれば誰でも動かせるようになりますよ」(小俣さん)
――東日本大震災のガレキ処理でも活躍されたそうですね
それは改良版の「ASTACO NEO(アスタコ ネオ)」ですね。初号機とは異なるアプローチで開発した双腕機になります。さまざまな改良を加え、市販できるレベルにまで到達しました。実は、ASTACO NEOを一般向けに公開したのが2011年3月6日。その5日後に東日本大震災が発生したんです。
- 左右の腕の大きさが同じ 「ザリガニ」 型(左)と 、大きな主腕と器用な副腕の 「シオマネキ」 型(右)
――偶然のタイミングだったのですね。現場ではすぐに稼働できたのでしょうか?
いえ、すぐにでも被災地へ持っていきたかったのですが、なかなか厳しい状況でした。日立建機の東北における各拠点も被害を受けていましたし、重機だけ持っていっても、すぐ動くわけではありませんから。現地で給油して、何かあればメンテナンスや部品交換して……と、動かすためのさまざまな準備が必要なんです。
結局、はじめて現場で稼働したのは震災2か月後でした。当時はまだ運用実績もなく、正直言って本当に役立つのか不安もありましたが、結果としては大いに活躍してくれました。
- ASTACOのデモンストレーション映像。「たまにイベントで一般公開をしているのですが、お子さんはもちろん、お父さん方にも大人気ですよ」(小俣さん)
――具体的には、どのような効果があったのでしょうか?
まず、がれきを鉄やアルミなど細かく分けてから運ぶと、すぐに処理できるというメリットがあります。ぐちゃぐちゃに混ざったままだと「一次置き場」に持って行くしかないですからね。あとは、一人で解体できるという利点もあります。コンクリートや鉄骨などを分別する場合、通常だとショベル+手作業になってしまうのですが、ASTACOなら一人で分別できます。
住宅街って、意外と狭いですよね。ASTACO NEOは13トンくらいで、重機にしては小回りが利きます。自衛隊さんが持ってきた重機は、ひとまわり大きくて20トンくらい。当時はまだ珍しかったので、自衛隊の方が二度見していったと聞きましたよ(笑)。
- 「一方で把持しながら他方で切断・引き出す」「長いものを折り曲げる」など、双腕ならではの作業が可能に。また先端のアタッチメントを交換することで、多様な作業を実現
- 石巻市や南三陸町など、被災地での作業で活躍
――次の新しい重機は、すでに開発されているのでしょうか?
「4本脚の双腕機を作ってみたい」という若手技術者のアイデアから試作機を開発し、2018年3月に「四脚クローラ式双腕コンセプト機」を発表しました。コンセプトとしては面白いのですが、安定性や操作性など、まだまだ課題や問題点はあるかと思います。
- 2018年3月に発表された「四脚クローラ式双腕コンセプト機」
一方で、一般のクルマと同じく「自動運転化」はどんどん進んでいますね。施工図面を3次元で作ってインプットすれば、アームの動きはほぼ自動運転ができるレベルまできています。簡単に言えば、アイサイトやクルーズコントロールなどと同じように運転操作をアシストする仕組みです。
人手不足などの事情により、自動化や電動化は今後も確実に進んでいくでしょう。ただ、それだけじゃつまらないですよね。幸い、弊社には若い技術者がたくさんいます。5年後、10年後にはまったく違うコンセプトの重機が誕生するかもしれません。
プラモデルメーカー・ハセガワが製作したASTACOのプラモデル。価格は3,400円+消費税で、下記のサイトから購入可能
http://www.hasegawa-model.co.jp/product/sw04/
「時間と予算さえあれば、ガンダム的な重機も作れるとは思います。ただ、売れるかどうかは別問題ですが」と語る小俣さん。普段あまり意識することはありませんでしたが、油圧ショベルなどの建設重機も、いわば「操縦型のロボット」ですよね。
近い将来、ガンダムのような大型重機がテキパキと現場作業をする光景がみられるかもしれません。
(取材・文・写真:村中貴士 編集:ミノシマタカコ+ノオト)
<取材協力>
日立建機株式会社(https://www.hitachicm.com/global/jp/)
[ガズー編集部]
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