交通実務にかかわる方なら誰でも挑戦OK! 交通安全に貢献する資格「交通心理士」とは?

渋滞で道路が混んでいる時、焦ったりイライラしたりした経験は、誰しもあると思います。しかし、こうしたドライバーの気持ちの乱れが大きな事故を引き起こすことも、決して少なくありません。

「交通心理士」は、こうしたクルマを運転する際に起こる“心の変化”という側面から、交通教育や交通安全を目的として、ドライバーへのカウンセリングやコーチングなどの活動をしています。そこで、交通心理士の活動内容などを日本交通心理学会の認定主任交通心理士である大村孝男さん・吉村俊哉さんへお伺いしました。

交通心理士って何をしているの?

交通心理士とは平成15年に日本交通心理学会が発足させた資格で、現在の会員数は全国で565名(※2018年10月現在)。主な活動は、ドライバーへのカウンセリングやコーチング技法なども採り入れた専門的な教育指導を通じて、人的要因から起こる事故を防ぐことにあります。

「交通心理士たちは自身が身につけた知識をもとに、自動車教習所や学校、企業などで交通安全のためのさまざまなレクチャーを行っています。以前は公的機関の『NASVA(独立行政法人 自動車事故対策機構)』だけが行っていたドライバーに対する「交通カウンセリング」の業務も、現在は産業カウンセラーと並んで交通心理士にも門戸が拡大されているんです」

交通心理士の多くは、自動車教習所の指導員や損害保険会社のスタッフ、旅客・貨物輸送事業のスタッフや現役の職業ドライバー、行政職員など「交通」に関わるさまざまな分野で働いている人たちだそうです。そして、「こうしたさまざまな分野の人たちが交通心理士として集まることで、交通安全へのさらなるメリットも生まれている」と大村さんは言います。

「交通と一言で言っても多くの分野がありますが、それぞれが交流を持つ機会はなかなかありません。交通心理士という資格を通して、交通に関わるスペシャリスト達が情報を交換したり交流したりすることでよりよい交通安全への対策に気づくことができると考えています」

クルマを含めた交通に関する社会問題は常に現場で起こっていますが、その一方で、解決策のノウハウを持っている研究者は研究室に籠りがちです。交通心理士は、この「現場」と「研究者」の溝を埋める役割も果たしているそうです。

「現場は現在起こっている問題への解決策を知りたいし、研究者は研究のためにも現在起こっている問題を知りたい。この両者が上手に連携を取ってお互いの知見をさらに深めることができれば、交通安全に対する効果と効率の向上が期待できます。そのため、交通心理士の集まりである日本交通心理士会では研究発表を行う年次大会などを開催することで、この両者の交流と知識の交換を行っています」

年次大会では交通心理士が自ら考え研究を行ったものを発表しているそうですが、その内容
は現場に即したものばかりで、一般ドライバーでも知っておきたい研究結果が多く見受けられます。

10月に京都で開催された「日本交通心理士会 大会(第15回)」の一コマ。今回は「高次脳機能障害と運転への復帰」について、専門家の講演とともに、病院と連携して現在取り組んでいる会員(自動車教習所の指導員)も交えた討論も行われた、テーマの多くは、現場従事者をはじめ多くのドライバーが知っておきたい内容ばかり。「交通心理士は、現場と研究者の橋渡し的な役割もあるんです」と大村さん。
10月に京都で開催された「日本交通心理士会 大会(第15回)」の一コマ。今回は「高次脳機能障害と運転への復帰」について、専門家の講演とともに、病院と連携して現在取り組んでいる会員(自動車教習所の指導員)も交えた討論も行われた、テーマの多くは、現場従事者をはじめ多くのドライバーが知っておきたい内容ばかり。「交通心理士は、現場と研究者の橋渡し的な役割もあるんです」と大村さん。

交通心理士は誰でも取得できる?

クルマの運転に有効な知識を得ることができる交通心理士という資格は、交通関連の仕事に携わっていない一般ドライバーにとっても興味深いですが、誰でも取得できるものなのでしょうか。大村さんは、「交通心理士は研究・実務にかかわる一般ドライバーにこそぜひ挑戦してほしい資格」と言います。

「クルマに直接関わる仕事をしていないと資格が取れないわけでは、必ずしもありません。教育機関、研究機関に籍を置く研究者や大学で心理学を専攻した会員もいますが、取得者の大半は実務関係者として、自ら興味を持って受験したり、職場からのすすめで取得して自身の活動に活かそうとしたりする人たちです」

具体的な取得方法は、まず日本交通心理学会に入会のうえ、現在は年2回行われている資格認定試験を受験し、合格すれば「交通心理士補」という仮免許のような資格を得ることができます。ここからさらに自分の研究を実施して発表し、大会に所定回数参加するなど所定の実績を積むことで、晴れて「交通心理士」の資格を得ることが可能になります。

また、気になる資格認定試験の内容ですが、大学の専門課程に匹敵するレベルを求められます。
なかなか簡単に取得することはできませんが、さらに合格した後にも、スキルアップ指導として研究計画立案や論文の書き方、研究手法などを学んでいただくことになります。これは「交通心理士を『生きた資格』とするために必要なこと」だと言います。

「試験はそれなりのレベルが必要となりますが、一般ドライバーなど初心者にもアプローチがしやすいように専用のテキストを用意していますし、試験前には集中的に専門講義を受けられる事前講習会も実施しています。何より、身につけた知識は『一生もの』として活かせるものですから、生涯教育として考えていただけたらと思います」

「『興味はあるけど、ハードルが高そう…』という人は、まずは母体の日本交通心理学会が主催する学術大会(次回は2019年7月6・7日に京都の同志社大学今出川キャンパスで開催予定)に参加してみてはいかがでしょうか」と大村さん。この会は、交通心理士から交通に関する有益なお話を聞ける機会でもあります。「参加方法や資格の詳細については、日本交通心理学会まで気軽に問い合わせてくださいね」とのことでした。

クルマの進化だけでは交通安全は成立しない

「運転が上手な人」というと、ハンドルさばきやブレーキのかけ方など技術面が先行してしまいがちですが、優秀なドライバーは運転技術だけではなく、感情のコントロールにも長けているもの。
自動車はミッションからオートマ、そして自動運転へと変化を続け、安全性はどんどん高まっていっています。しかし、ドライバーの意識が成長しなければ、せっかくの安全性も意味がありません。
クルマと長く付き合うために、学んでおきたい交通心理学。皆さんもぜひ一度チャレンジしてみてはいかがでしょうか。

(取材・文:ヤマウチカズヨ 編集:ミノシマタカコ+ノオト)

<取材協力>
日本交通心理学会・日本交通心理士会(https://www.jatp-web.jp/

[ガズー編集部]

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