世界遺産で動物の交通事故が多発!? 建物がない博物館「富士山アウトドアミュージアム」の取り組み

世界遺産にも登録されている日本一の山、富士山。国内外から多くの観光客が訪れますが、その人の多さゆえに、交通事故に巻き込まれる動物たちも増えています。

そんな動物たちが被害に遭う事故=「ロードキル」を減らすための活動を、地域住民と連携して行っているのが「富士山アウトドアミュージアム」です。この取り組みについて富士山アウトドアミュージアムの代表舟津宏昭さんに伺いました。

建物はなし! 「富士山」そのものが大きな博物館

――まずは、富士山アウトドアミュージアムがどのような活動を行なっているのか教えてください。

富士山はご存じの通り、標高3,776m、南北に37㎞、東西に39㎞に渡り、12万ヘクタール。東京ドームが2万5千個以上入ってしまう広大な面積を有する、名実ともに日本のランドマークというべき山です。

私たちは、この巨大な山の中で暮らす数多くの動物たちを含む自然環境、そして富士山が生み出す全てを博物資料と考え、「富士山」そのものを大きな博物館と見立てて「富士山アウトドアミュージアム」と銘打ち、富士山全体をフィールドとして市民活動を行っています。名前は「ミュージアム」ですが、建物などはありません。

具体的な活動としては、子どもたちと富士山の自然の中で遊んだり、森の手入れをしたり、ゴミ拾いをしたり……と、あらゆることを行っています。

動物たちの交通事故、いわゆるロードキルの対策も、活動の中のひとつです。

年間で富士山へ訪れる人の数は、およそ山頂で30万人、五合目までで300万人、三合目までだと3000万人にものぼります。海外からの観光客も多く、レンタカーの利用率も非常に高くなっています。

そんな状況の中で増え続けるロードキルの被害を少しでも減らしたいという思いがあり、さまざまな人と一緒に取り組める活動として、ロードキルの発生状況を調査し始めたのです。

SNSや地元高校生と一緒に……広がりゆく協力者の輪

――ロードキルの防止のために、どのような調査を始めたのですか?

どのあたりに、どういう動物がいるのか、そして、その動物がどんな被害に遭っているのかがわからなければ、事故を起こさないための対策は立てられません。しかし、富士山でそのような調査が行われたデータがなかったため、2014年から調査を始めました。

最初は、本当に身近な人たちだけで声をかけ合い、出退勤時などでクルマに乗る際に、それぞれが通る道路でロードキルの現場を見かけたら、記録をつけていくという形で始めました。

その様子を公式Facebookなどで発信したり、チラシを作って配ったりして、通報協力者を募ったところ、「ロードキルの記事を見かけて、ちょうど事故を見つけたので電話しました」と、連絡が来はじめました。そうして、徐々に周辺の住民の方々による通報協力者の輪が広がっていったのです。

さらに、地元の高校の放送部の協力でラジオCMを制作。富士山麓で流れるコミュニティFMでこのラジオCMを流したところ、「高校生のCM聴いたんだけど、タヌキが死んでいる。電話はここでよかったのか」など連絡が来るようになりました。

現在は155人ほどの協力者がおり、富士山の外周を取り囲んでいる国道138号線、139号線、469号線と富士五湖の周辺の道路は、ほぼカバーできています。また、富士山の五合目に行く道路などは道路管理者の方が協力してくださってデータをいただいています。

まだ調査協力者の登録のないところは、私たちが定期的に調査をしているという状況です。

――調査協力者の皆さんとは、どのようにデータ収集を進めているのですか?

通報は24時間365日体制で受け付けています。手順としては次の通りです。

1, 道路を通行中にロードキルを発見したら、電話やメールで事故が起こった位置や発見時刻、おおよその状況を通報してもらいます。
2, 通報を受けたら、私たちが現地に向かい、詳しい状況を確認、道路からの位置などを計測します。
3, 被害個体をそのままにしておくと通行の邪魔になって二次的な事故にも繋がりかねないので、支障のない場所まで移動させます。ただ、私たちには処理業者としての許可はないので、処理業者ないしは自治体へ被害個体の処理依頼の連絡をします。

ここまでが現場での手順です。

こうして集めたデータはデータベース化して、調査協力者の方々に共有するとともに、現在は限定ではありますが、Web上で公開しています。

季節や場所による被害の違いも発見!

――データを収集することで、どのようなことがわかってきましたか?

2019年5月で、調査を始めてから満5年。その期間で、ロードキルが圧倒的に多かったのはニホンジカ、それからタヌキですね。アナグマ、ハクビシン、爬虫類、両生類、ムササビや天然記念物のニホンカモシカも確認されています。鳥類はオオルリのような小鳥からキジ、フクロウまで様々です。

――場所によっての違いはありますか?

はい、場所での違いが目立った動物もあります。

富士五湖の西湖周辺では特にアズマヒキガエルやモリアオガエルといった類が多かったですね。萱っぱらが広がっている自衛隊の北富士演習場付近だと、やっぱりウサギとかテンとかそういった生き物たちが非常に多いのです。

また、季節による変化も大きいですね。例えば、カエル、ヘビは冬にはロードキルがありません。冬眠していますからね。

テンは、夏にほとんど事故がない場所で、冬になると事故件数が増えます。それは、通常、行動範囲がとても限定されているテンが、冬になるとエサ場を広げるために道路を横断せざるを得なくなり、事故に遭ってしまうということ。

春にはカエルが繁殖期になり1匹のメスに大量のオスが群がるいわゆる「カエル合戦」が始まって、事故が集中する場所もあります。

逆に、ロードキルが確認されていない動物もいます。

ツキノワグマとヤマネとコウモリ類です。ツキノワグマの目撃情報はあるのですが、はねられたあとに森の中に入ってしまうのか、確認はされていません。ヤマネとコウモリ類は、生息数がかなりいるのに、確認がありません。ロードキルに遭ったあとに捕食者によって持ち去られてしまっているのではないかと推測されています。

――動物たちそれぞれの捕食や繁殖といった行動に伴って、ロードキルが発生する場所や頻発する季節がわかってくるということなのでしょうか。

何かしらリンクしているのではないかと思います。まだ5年目ではありますが、データを蓄積することにより、そういう細かい情報を分析することができるようになってきています。

将来的にはお天気予報ならぬ「ロードキル注意報」を

――個人ではなく、企業の協力はありますか?

はい、最近では、地元の企業さんにも多くご協力いただいています。

トヨタレンタリース山梨さんには、調査用に車両を寄贈いただいたり、ロードキル防止の啓発チラシを全車両に搭載して、レンタカーの利用者に呼びかけをしていただいたりしています。

地元企業である、トヨタレンタリース山梨もロードキル削減に協力している
地元企業である、トヨタレンタリース山梨もロードキル削減に協力している

富士山麓にある自動車関連部品のメーカーの株式会社T.M.WORKSさんとは、シカが嫌がる音を出す「鹿ソニック」を共同で開発し、販売も行っています。この製品はラリーカーにも実験的に搭載し、効果が出ているとのことです。

共同開発した「鹿ソニック」
共同開発した「鹿ソニック」

また、地元の高校生には前回お話したCMの制作のほかに、被害個体の衝撃の状況を知る研究のための解剖にもご協力いただいています。

研究を手伝う地元の高校生
研究を手伝う地元の高校生

――今後どのように活動を進めていきたいですか?

富士山には、石垣島などのように珍しい生き物や固有種がいるわけではなく、日本中どこにでも見られる動物が生息しています。

だからこそ、富士山麓でのロードキルの発生状況を分析することで、日本中のどの地域のロードキル対策にも応用ができるのではないかと考えています。また集めたデータをさらに解析し精度がよいものにしていくために、今後は、ぜひ専門家の方に協力いただきたいですね。

そして、もっとデータを集積していき、将来的には毎日の天気予報のように「ロードキル予報・注意報」をテレビやラジオで流すことができるといいなと思っています。「明朝は動物が飛び出しやすいので気をつけてください」などとひと言テレビから流れてくるだけで、クルマを運転する人の意識が違ってくるかもしれないですよね。そんな未来のために、これからも環境保全活動に楽しく取り組んでいきたいと思っています。

5年間活動を続けてきた今、舟津さんは、自分たちの活動は「まだまだ始まったばかり」と言います。多くの住民とともに集めた膨大なデータが富士山麓と日本全国の動物たちのロードキル被害を減らし、クルマと動物たちとが共存できる環境が早く整うことを願うとともに、より動物たちを気遣う運転を心がけようと思いました。

(取材・文:わたなべひろみ 編集:ミノシマタカコ+ノオト)

<取材協力>
富士山アウトドアミュージアム
https://www.facebook.com/fom3776/

[ガズー編集部]

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