【D1GP】北海道でデビューした今シーズンの注目車種、上野高広選手の「レクサスRC」はどんなマシンなのか?
今年で20年目を迎えたD1グランプリシリーズ。その初年度から参戦し、「上ちん」の愛称で親しまれている上野高広選手が、7月末に故郷である北海道で行われた第3戦・第4戦でニューマシン「レクサスRC」を投入しました。なぜ、レクサスなのか? どういったマシンなのか? 上野選手に直撃しました。
- 上野選手とレクサスRC
「2ドアのクーペが好きなんです」
上野選手は、2006年から2015年までBMW 3シリーズクーペで戦っていましたが、2016年に上野選手が代表を務めるパーツメーカー「ティーアンドイー」が設立20周年を迎えたため、30型ソアラにチェンジ。以来2019年の開幕戦の筑波まで30型ソアラで戦ってきました。
- 上野選手の愛車である30型ソアラ(昨年のD1グランプリ・エビス戦で撮影)
「僕は2ドアクーペが好きなんです。だからソアラやBMWで戦ってきました。レクサスRCは出たときから注目していたんです。大きさも丁度良いですし」とのこと。レクサスRCで参戦する構想は結構前から考えられていたそうです。
そんなドリフト仕様のレクサスRCは、2019年初頭に行われたオートサロンで発表。誰もが約半年後に行われる開幕戦と第2戦でデビューすると思っていたのですが、大会には今まで通りのソアラで参戦せざるを得ない状況に。
- 雨降る今シーズンの開幕戦を走る上野選手のソアラ
「実はオートサロンのあと、工場を移転したのですが、その引っ越しや実際に営業をする準備などで、長いことレクサスRCを製作することができない状況でした」
こうして参戦した筑波ラウンドで、ソアラのミッションが壊れるトラブルが発生。レース後に補修パーツを手配したのですが、納期に時間がかかることが判明。ちょうどその頃、上野選手が北海道出身ということもあり「北海道でレクサスをデビューさせなくてどうする、と強く声をかけてくださる方がいらっしゃったのです。その方に場所を貸してもらって急ピッチでレクサスRCを仕上げました」。
こうしてレクサスRCは、約10名以上のスタッフの手により、わずか数週間で製作。開催の数日前までカラーリングすらもできていないほどのタイトなスケジュールだったそうですが、多くの人の努力と想いが詰まったレクサスRCは無事完成し、走行テストをすることなく北海道へと持ち込まれました。
「少しステアリングを握っただけでイケると感じました」
それでは世界でも珍しいレクサスRCのドリフト車を詳しくご紹介しましょう。エンジンは、トヨタ自動車が誇る直列6気筒エンジン「2JZ-GTE」。これを3.5リットルまで排気量アップしています。
- 大型のインタークーラーとタービン、そして6気筒エンジンが目を惹くエンジンルーム
- ギャレットのGTX4088Rタービンを装着
- セッションごとにエンジンオイルを交換
オイルは10W-60と硬い粘度のものを使用する。
ギャレット製ターボ1基と組み合わせて800馬力を発生するそうです。得たパワーは、オーストラリア・ホリンジャー製のシーケンシャルミッションと、「クイックチェンジ」とも呼ばれているWinters社製のデフをベースに各部を強化した、SIKKYオリジナルのデファレンシャルギアを介してレイズのホイール(フロント9.5J、リア10.5J)と、今年から契約したヴァリノタイヤを介して地面に伝えられます。
- 写真中央下の「S」マークの部品がデファレンシャルギア。その上にラジエーターを置く
クイックチェンジのデフはあまり耳馴染みがないかもしれませんが、レース関係では結構メジャーなパーツで、頑丈であること、そして簡単にファイナルギアが交換できることから、D1グランプリに参戦する多くのマシンに搭載されています。その上には大型のラジエーターを配置。リアにラジエーターを配置するレイアウトは現在のD1マシンの主流といえるものです。
ナックルやアーム、車高調といった足回りは、前後ともにすべてアメリカ・マックスドリフトがGS用をベースにRC用として特別に制作したパーツを使用。ブレーキはプロジェクト・ミューの製品が使われています。
- 銅色の部品がマックスドリフトのパーツ
オーバーフェンダーが目を惹くエアロパーツは、ティーアンドイーの「ヴェルテックス超EDGE(スーパーエッジ)」シリーズの新作を採用。
- コース上に置かれた上野選手のレクサスRC
フロントバンパープロテクターとフロントフェンダー、フロントアンダースポイラー、リアフェンダー、リアバンパーパネル、リアディフューザー、リアアンダースポイラー、サイドステップ、サイドアンダースポイラー、ドライカーボンルーフ、FRPトランクが取り付けられ、迫力のあるワイドでスタイリッシュなボディに仕上げられています。ボンネットは市販車そのままの状態で、カーボン製ではありませんが「軽量化はこれからしていきたい」とのことでした。
車内は内装が全て取り外されたレーシングカー然としたもの。大型のサイドブレーキレバーと、そのすぐ近くにあるシフトレバーが目を惹きます。ペダル類は、レーシングカーに多いオルガン式ではなく吊り下げ式です。シートはヘッドガードを備えたブリッド製のモデルが使われていました。
- レクサスRCの車内
シェイクダウンならではのトラブルが発生
第3戦の前日に行われた練習走行がシェイクダウンとなったレクサスRC。1周ウォームアップをしたあと、ドリフト走行を試した上野選手。しかし、わずか3周で左側のテンションブラケットの調整部分が折れるトラブルが発生してしまいます。
- 他チームの選手やメカニックも手伝いにかけつけて故障個所を調べる
- 折れたテンションブラケット
変えのパーツがないため、折れて短くなったものを再度セッティングし直して使用。「シェイクダウンらしいよね。いろいろなことが起こらないとシェイクダウンじゃない」と前向きな上野選手。その後もフロントまわりを中心に各種トラブルが発生。都度、調整するも本調子ではなく、各部に負担がかかったまま第3戦を迎えることになりました。
午前中の単走決勝前に数回、練習走行の時間がありましたが、上野選手は2本しか走行できず、修理上がりのマシンはぶっつけ本番で挑むことに。単走決勝の1本目はまとまったドリフトを見せるものの、4セクターが伸ばし気味になってしまい、91.62点と点数が伸び悩みます。2本目も88.92点で終わり、追走トーナメント進出ならず。それでも快走する姿に、スタンドからは大きな声援と拍手が送られていました。
翌日曜日は、30度を超える好天の中で行われた第4戦。アライメントをはじめとして再度調整するなどの対策を行い挑んだ上野選手。ですが、午前中に行われた練習走行はチェック走行に留まります。
そして迎えた第4戦の単走決勝1本目は90.15点。2本目で95.2点以上を出せば追走トーナメントに進出できたのですが、セクター1、4、5の点数が伸びず89.36点。
残念ながら、この日も追走トーナメントへ進むことはできず、上野選手の北海道ラウンドはここで幕を下ろしました。
レースを終えて上野選手に話を伺うと「フロントまわりのトラブルがなければ、追走に進出できたはず」とマシンのポテンシャルに手応えがあっただけに残念な様子。そして翌日、Twitterで「一晩経つと、情けなさと、悔しさと無念さと、なんだかわけわからない気持ちが入り混じっていて、冴えない気持ち。せめて追走進出、そして結果として恩返ししたかったのに、こんな結果しか出せなかった自分がやるせない……。応援してくださっていた方々、本当にごめんなさい。気持ちを入れ替えます」とファンへのお詫びとお礼、そして結果への悔しさを滲ませました。
シルビアに2JZエンジンを搭載するパッケージが主流のD1グランプリの中で、誰もが使ったことのないマシンでシリーズに挑む上野選手の挑戦は、始まったばかりです。
次回のD1グランプリは、8月24日(土)25日(日)の2日間、D1グランプリの聖地である福島県・エビスサーキットで行われます。「フロントの足回りをきっちり直すとともに、そして各部をさらにブラッシュアップして万全の体制でエビス戦に望みたいと思います。エビスは、デビュー仕立てのマシンで勝てるような甘いコースではないので、きっちりとした状態で挑みたいと思います」と上野選手。名物のジャンプドリフトを華麗に飛び、白煙を上げてコーナーを駆け抜ける姿を今から楽しみにしましょう。
- 昨年のエビス戦でジャンプドリフトをする上野選手。左のフロントタイヤが浮いていることに注目!
(取材・文・写真:栗原祥光 編集:木谷宗義+ノオト)
<関連リンク>
D1 GP
http://www.d1gp.co.jp/
[ガズー編集部]
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