ツッフェンハウゼン「ポルシェ・ミュージアム」でポルシェの歴史を学ぶ

ドイツと言えば、メルセデス・ベンツ、BMW、フォルクスワーゲン、アウディ……と、日本でもファンの多い自動車メーカーが多い、自動車大国。中でも、スポーツカーを中心にラインナップしているのが、ポルシェです。

ポルシェの本拠地は、ドイツ南西部にあるシュトゥットガルトという街にあります。ちなみにメルセデス・ベンツの本拠地もここです。その中のツッフェンハウゼン地区にポルシェの本社と工場、そして「ポルシェ・ミュージアム」があります。

ポルシェ・ミュージアムの入り口には、オープン10周年を記念したカラーリングの911GT3Rと新型911(992型)が、来場者をお出迎え。ちなみにこの新型911はレンタルすることができ、シュトゥットガルトの街中を試乗できます。レンタル料金は、1日399ユーロ。

営業時間は朝9時から午後6時まで(毎週月曜は休館日)、入場料は一般が8ユーロ、14歳以下は4ユーロ。入場の際に希望すれば、日本語の案内音声が収録されている端末を無料レンタルできます。

歴代ポルシェにモータースポーツ車両も展示

博物館内は、反時計回りに歩くことでポルシェの歴史を象徴するクルマたちを間近で見学できます。その中からいくつか紹介していきましょう。

 

■「カブト虫」の最初期モデル

なぜ、フォルクスワーゲンが? と思うかもしれませんが、ビートルことフォルクスワーゲン・タイプ1は、ポルシェを設立したフェルディナンド・ポルシェが設計したものだから。

ポルシェ氏は、ダイムラーとアウトウニオン(現アウディ)のエンジニアを経て独立。大衆車の構想を練っていました。1933年、ナチス・ドイツのアドルフ・ヒトラー総統が「国民車構想」を提唱し、ポルシェに設計を依頼し誕生したのが「フォルクスワーゲン・タイプ1」です。

残念ながら、量産モデルの最終プロトが完成したところで第2次世界大戦が勃発。実際に国民の手にわたるのは戦後でした。戦時中ポルシェ氏は、このクルマのメカニズムを使った軍用車両や戦車の開発に従事したそうです。

 

■日本が誇る名車と激戦を繰り広げたレーシングカー

この「904カレラGTS」は、日本のモータースポーツ史を語る上でなくてはらない1台です。1960年代、日本は東京オリンピックを契機としてモータリゼーションが進むと同時に、モータースポーツも熱を帯びてきました。そんな中、1964年に富士スピードウェイで開催された「第2回日本グランプリ」に突如エントリーしてきたのが、この904カレラGTS。国内で絶対的な強さを誇っていたプリンス・スカイラインと激戦を繰り広げ、勝利を飾ったクルマです。

 

■「技術のポルシェ」を象徴する1台

もちろん、「ポルシェ911」も歴代のモデルが展示されています。こちらは、1973年の「911ターボ」で、フェルディナンド・ポルシェの長女、ルイーゼ・ピエヒの70歳の誕生日に送られた第1号車です。

「911ターボ」は、モータースポーツで獲得した技術を積極的に量産車にフィードバックしてきたポルシェが、911によりハイパワーを与えるためにターボを搭載したモデル。最大出力260馬力、最高速度は時速280キロメートルと、当時としては相当な高性能で、1976年には、日本でも排気ガス規制に適合した240馬力仕様が販売され注目を集めました。

 

■モータースポーツシーンで活躍した4WDターボ

「959」も、ポルシェの歴史を語る上で欠かせないモデルです。1986年にWRC(世界ラリー選手権)とWECに参戦するために開発されたクルマで、最大の特徴は、加減速やコーナリングの状況に応じて前後の駆動配分を自動制御できる4WDシステムを搭載していたこと。エンジンはグループC車両のレーシングエンジンをベースに、公道向けにモデファイされたものが搭載されていました。

959は、モータースポーツシーンでも活躍し、パリ・ダカールラリーでは1986年にワン・ツーフィニッシュを達成した実績を持つほか、959ベースの「961」はWECに参戦し、1986年のル・マン24時間レースでクラス優勝、総合7位を記録しました。

 

■ポルシェの起死回生を託したエントリーモデル

こちらは初代ボクスター。でも、詳しい人なら、ちょっと違うことがわかるでしょう。このクルマは、ボクスターが市販される前に発表されたコンセプトモデルなのです。1993年の東京モーターショーにも展示されました。

ボクスターは、アメリカでの販売不振により経営難に陥っていたポルシェが、社運をかけて開発したモデル。結果的に、911より安価なこのモデルは大ヒットを飛ばし、ポルシェの危機を救うことに成功します。

 

■世界一コミカルな911「サリー・カレラ」

こちらは996型の911ですが、どこかコミカルで違和感が……。ホイールベースが妙に短く、どことなく丸っこい印象。そしてフロントガラスには目があります。そう、この911の正体は、ディズニー・ピクサー映画作品『カーズ』のヒロイン役である、サリー・カレラのポルシェなのです。コミカルにモデファイされていますが、ホイールやライトなどは実車のパーツが装着されています。

 

■100万台目の911

初代911の特徴を受け継ぐ特別色「アイリッシュグリーン」のボディカラーをまとった、3ペダルMT仕様のこのクルマは、ポルシェ911として生産された100万台目に当たるクルマです。

ポルシェを代表する「911」は、1963年に登場。それから54年経過した2017年の5月11日に、ツッフェンハウゼン工場にて、この100万台目の911がラインオフしました。この個体は、販売されず世界各地を旅した後、ミュージアムに収蔵されています。

ちなみにポルシェによると、今まで生産された911のうち、70%以上のクルマが、今も走行可能なコンディションを保持しているそうです。大切にされているんですね。

 

■ポルシェ究極のレーシングカー「919ハイブリッドEVO」

ヘッドライトも装着されていないこのレーシングマシンは、「919ハイブリッドEVO」。2017年までWEC(世界耐久選手権)でトヨタの「TS040 ハイブリッド/TS050 ハイブリッド」と激戦を繰り広げていた「919ハイブリッド」を、レコードタイムを狙う仕様に変更したものです。

レコードタイムを狙うため、空力パーツの最適化、パワートレインの改良、軽量化などが施され、1周20.8kmのニュルブルクリンク・ノルドシュライフェを5分19秒546という、とてつもないタイムで走行。また、ベルギーのスパ・フランコルシャン・サーキットでは、2017年のF1予選のトップタイムを上回る記録を残しています。

初めてル・マン24時間レースを制して50年

取材時、ミュージアムでは、ポルシェで初めてル・マン24時間レースを制した「917(K)」の誕生50周年を記念して、『50 Years of the Porsche 917-Colours of Speed』と題した特別展を開催していました。

この特別展は、917(K)を始め、ポルシェのモータースポーツ史を語る上でなくてはならないレーシングマシンを展示したもの。水色とオレンジのいわゆる「ガルフカラー」と呼ばれるカラーリングのマシンが、917(K)。

ピンクのカラーリングが特徴的なポルシェ917/20は、1971年のル・マン24時間レースに出場マシン。ボディに書かれている破線や文字をよく見てみると、なんと豚肉の部位になっています。通称「Pink Pig」とも呼ばれているそう。また、この特別展には、「917リビング・レジェンド」というコンセプトモデルもありました。

この赤いクルマは2013年に、初めてル・マン24時間レースを制した「917」の現代版として提案されたもので、1000馬力を発揮する5.0リットル V8ターボエンジンが搭載されている想定。2020年前半には、ゲーム「グランツーリスモSPORT」に登場予定です。

展示されているのは収蔵車両のごく一部

ミュージアム内をくまなく見て回ると、約2時間。たっぷりポルシェの歴史を学ぶことができました。ミュージアム内には、常時約80台のクルマが展示されていますが、これは収蔵車両のごく一部なのだそう。収蔵車両は数百台あり、随時入れ替えが行われているのだそうです。来るたびに新しい発見がありそうですね。

(取材・文・写真:クリハラジュン、編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

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