メルセデス・ベンツの歴史のすべてがここにある!ドイツ・シュトゥットガルト「メルセデス・ベンツミュージアム」

世界初の実用的なガソリン自動車は、1880年代にカール・ベンツの手によって作られた「パテント・モートルヴァーゲン」であるとされています。メルセデス・ベンツの歴史は、ガソリン自動車の歴史そのものであると言えるのです。この130年以上にわたるメルセデス・ベンツの歩みを余すことなく見学できる博物館が、ドイツ・シュトゥットガルトにある「メルセデス・ベンツミュージアム」です。今回は、延床面積1万6500平方メートルにもなるこのミュージアムをご紹介します。

フロアごとにテーマが別れた展示エリア

受付で入場料を支払うと、入場ゲートで日本語など複数言語の紹介音声が入った端末を受け取ります。エレベーターで最上階まで上がり、螺旋状にフロアが配置された建物を下りていく形で見学します。

音声端末は、展示車両の解説ボードに向けると音が流れる仕組み
音声端末は、展示車両の解説ボードに向けると音が流れる仕組み

各フロアは年代別に分かれており、フロア間にはその時の世界の出来事や、広告やトロフィーといったベンツにまつわる資料が展示されています。

馬車を改造した初期の自動車から、クルマ独自の車体構造になった時代のフロア
馬車を改造した初期の自動車から、クルマ独自の車体構造になった時代のフロア
このパネルは、1960年代から雇い入れ始めたゲストワーカー(外国人労働者)の就業規則本と給料明細書。こんな資料も展示されている。このゲストワーカーの給料は、400ドイツマルク(約4万円弱)だったようだ
このパネルは、1960年代から雇い入れ始めたゲストワーカー(外国人労働者)の就業規則本と給料明細書。こんな資料も展示されている。このゲストワーカーの給料は、400ドイツマルク(約4万円弱)だったようだ

バスやタンクローリーといった「働くメルセデス・ベンツ」のフロアもあれば、モータースポーツで活動したクルマが一堂に会するフロアも。ローマ法王やニコラス・ケイジといった、世界的著名人が乗っていたメルセデス・ベンツだけが展示されているスペースもあります。

「物を運ぶメルセデス・ベンツ」のフロア。この巨大なクルマは、「O 10000 モービル・ポストアムト(POSTAMT)」。ポストアムトとはドイツ語で郵便局。つまり移動式郵便局。オーストリアで活躍した実績を持つ
「物を運ぶメルセデス・ベンツ」のフロア。この巨大なクルマは、「O 10000 モービル・ポストアムト(POSTAMT)」。ポストアムトとはドイツ語で郵便局。つまり移動式郵便局。オーストリアで活躍した実績を持つ
モータースポーツ車両が展示されているフロア。Cクラスや190EのDTMマシンに懐かしさを感じる人もいるのでは?
モータースポーツ車両が展示されているフロア。Cクラスや190EのDTMマシンに懐かしさを感じる人もいるのでは?
別館の「著名人が乗っていたメルセデス・ベンツ」フロア。手前のSLはダイアナ元英王妃の愛車。その隣はバチカン市国・カトリック教会のローマ教皇が一般拝謁する際に使われる通称「パパモビル」。ナンバープレートの「SCV」はバチカンを意味する
別館の「著名人が乗っていたメルセデス・ベンツ」フロア。手前のSLはダイアナ元英王妃の愛車。その隣はバチカン市国・カトリック教会のローマ教皇が一般拝謁する際に使われる通称「パパモビル」。ナンバープレートの「SCV」はバチカンを意味する

さらに一部フロアには、年代問わずテーマごとに展示されているスペースがあり、見どころ満載。すべてを漏れなく見て回るなら、オープンの朝9時から入場することをおすすめします。

世界初のガソリン自動車から電気自動車のスーパーカーまで

ここからはメルセデス・ベンツの歴史を語る上で欠かせないモデルや、筆者が注目した展示車両をいくつか紹介します。

 

●パテント・モートルヴァーゲン

カール・ベンツが1885年に製作し、翌1886年に特許が発効された世界初の実用的なガソリン自動車です。第1号車が製作された3年後には、量産がスタートしています。下の写真は、1886年に提出された特許。

この時、ベンツの妻・ベルタがカールに知らせずに2人の子どもとともに当時の住まいから100km離れた母親の家まで運転。これが世界初の自動車旅行と言われています。道中の薬局で購入したベンジンで、世界初のガソリン給油を行ったとか。母親の元から無事帰宅すると、その体験を元に変速機の追加やブレーキの改良が行われました。

 

●メルセデス・ベンツ タイプSSK

1928~35年にわずか35台のみ生産されたスーパースポーツカー。搭載されているエンジンは、7.0リットル直列6気筒エンジン。スーパーチャージャー搭載モデルで、当時としては驚異的な225馬力を発揮。量産車ながら当時のレーシングカー級の性能を秘めていたモデルです。日本では人気アニメ「ルパン三世」の愛車として知られています。

 

●メルセデス・ベンツ 770 グローサー・プルマン-リムジン(昭和天皇御料車)

今も昔もメルセデス・ベンツは、その高品質から著名人や国家元首に重宝されています。この1935年製の770 グローサー・プルマン-リムジンは、昭和天皇の御料車(御料車としては3代目)として納入されました。御料車として7台輸入されています。

展示されているのは、7台すべてに共通した西陣織リアシートに加えて、防弾装甲ボディに特注のヨコハマタイヤを装着した個体。後部ドアに菊花紋章が装着されていました。

 

●メルセデス・ベンツ 180(W120)

現在の主力モデルのひとつ「Cクラス」の源流が、この180(W120)です。1953~62年にかけて生産されたこのモデルは、衝撃吸収設計ボディ構造を量産車として世界初採用。つぶらな瞳のようなヘッドライトは、オシャレさと親しみやすさを感じさせます。日本にも輸入され、「ダルマベンツ」の相性で親しまれました。

 

●クラッシュテスト装置

メルセデス・ベンツが誇る性能のひとつに、安全性能があります。ABSを始めとした事故回避システム、シートベルト、エアバックといった乗員保護装備などは、今も他メーカーに先駆けて積極的に開発を続けています。この車輪付きロケットとダミー人形の展示物は、後部の車輪付きのロケットが圧縮空気と熱湯の推進力で車両後部に追突し、車内ダミー人形が受ける衝撃を測定するものです。

 

●メルセデス・ベンツ SLS AMG E-CELL

メルセデス・ベンツの高性能モデルを開発生産しているAMG。SLS AMGは、AMGが初めて完全独自開発したモデルで、名車300SLを彷彿されるガルウイングドアとロングノーズで注目を集めました。この展示車両は、そのSLSをベースに、4つの高出力インホイールモーターを搭載した電動スーパーカーです。環境意識が高いドイツだけに、いち早くスーパーカーとエコの組み合わせにチャレンジしていました。

究極のおみやげ。貴重なクラシックカーを自分の愛車に

展示フロアから離れて地下に行くと、レストランやグッズショップと一緒に、展示エリアに並んでいてもおかしくないコンディションのクラシックカーが並んでいます。このクルマたちは、すべて販売車両。「要問合せ」となるクルマがある一方、比較的手が届きそうな価格の車両もありました。

パテント・モートルヴァーゲンのレプリカも販売されていた。価格は約15万ユーロ(約1800万円)。
パテント・モートルヴァーゲンのレプリカも販売されていた。価格は約15万ユーロ(約1800万円)。

メルセデス・ベンツの歩みを知れば、自動車の進化の歴史が見て取れます。ドイツに訪れる機会があるならば、ぜひ見学してみてほしいミュージアムです。

(取材・文・写真:クリハラジュン、編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

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