限界を超えた時のコントロールをトップドライバーに学ぶ「トヨタ レーシングドライバーミーティング」
「トヨタ交通安全センター モビリタ」(以下:モビリタ)にて催される、ドライバーの安全運転技術向上を目的としたプログラム「トヨタ ドライバーコミュニケーション」。入門編に位置する「総合トレーニング」は、クルマとのコミュニケーション方法を学び、クルマの限界を知ることを目的とした内容でした。
>>>クルマの限界を体験!一般参加できる「モビリタ」の交通安全体験プログラム
それではプログラムの最上位に位置する「トヨタ レーシングドライバーミーティング」では何を目的とし、どのような講習を行っているのでしょうか? 今回は特別に許可をもらい、講習風景を取材させてもらいました。
塾長は関谷正徳氏。そうそうたるメンバーが講師を務める
- この日のインストラクターは、左から順に関谷正徳塾長、片岡龍也選手、番場琢選手、小河諒選手、中山雄一選手、平川亮選手、坪井翔選手
「トヨタ レーシングドライバーミーティング」という名称から、レーシングドライバーを育てる、スポーツ走行の講習会と思われるかもしれません。しかし、実際はレーシングドライバーがインストラクターを務める、安全運転のための講習会です。
ル・マン24時間耐久レースで日本人初の総合優勝を果たし、現役を退いた現在はドライバーの育成に努める関谷正徳氏を塾長とし、現役のトップドライバーがインストラクターに抜擢されます。モータースポーツが好きな人ならば、その豪華な顔ぶれに驚くでしょう。
講習は9時30分に開始。インストラクターの紹介後、まずはドライビングポジションのレクチャーから始まります。
講習時間のほとんどを実技に費やす実践的なプログラム
- みんなで準備運動中……ではなく、ステアリング操作のしかたをレクチャー中。なぜそのポジションにすべきか、きちんと理由も説明してくれる
シートの合わせ方やステアリングの操作のしかたを学び、クルマに乗るための準備が整ったら、さっそく講習車の待つフラットコースへと移動します。
- 講習に使用される車両は、パワフルな後輪駆動車「トヨタ マークX」。受講者の車両持ち込みは認められていない
「総合トレーニング」では半分が座学、半分がクルマに乗っての実技でした。しかし「トヨタ レーシングドライバーミーティング」では、座学はこれで終了。「総合トレーニング」の受講を終え、基礎が身についていることを前提としているため、プログラムのほとんどがクルマに乗っての実技という、きわめて実践的な講習となっています。
- 安全運転を学ぶだけでなく運転スキルの上達も視野に入れているため、インストラクターのレクチャーも“教育”に近い雰囲気を持つ
「トヨタ レーシングドライバーミーティング」のプログラムメニューは以下のとおり。フラットコースは全面的に散水され、滑りやすい状態で運転します。
●ウォーミングアップ
実際にドライビングポジションをあわせたのち、クルマの運転感覚に慣れるためフラットコースの周回路を巡回します。
●ブレーキトレーニング
ABS(アンチロックブレーキシステム)をキャンセルした状態で走行します。時速80キロからフルブレーキを行い、スリップしたらブレーキを緩め、タイヤのグリップが回復したら再びフルブレーキ。これを繰り返し、最短距離で停止するトレーニングを行います。次に障害物(パイロン)が設置され、回避しながらの停止を学びます。
●コーナリングセオリー
パイロンで設定されたオーバルコースを極力、速い速度で周回します。ブレーキとアクセルによる荷重移動と、適切なステアリング操作を行えないと、速くスムーズに周回することができません。
- ブレーキでクルマの重心を前輪に移動させないと、滑って曲がってくれない
●スライドコントロール
VSC(横滑り防止装置)をキャンセルして走行します。高速でコーナーを旋回し、遠心力によりタイヤの限界を超えて横滑りが発生した際の感覚を体験し、コントロール方法を学びます。
●3Sワンポイントレクチャー&飲酒運転疑似体験
一般道を想定したコースを走行し、3S(セーフティ、スムーズ、スピーディ)運転の重要性を確認します。くわえて酩酊状態を再現するゴーグルを装着し、飲酒運転の危うさを仮想体験します。
●タイムトライアル
フラットコース全体を使って走行し、ゴールまでにかかった時間を計測します。計測が行われることで気が焦り、操作は乱れます。無駄のない操作を心がけるとともに、落ち着いて運転することの重要性を確認します。
●スムーズ走行
この日、学んだ実技のおさらいです。
- 雨天時や暑い日、寒い日はエアコンを効かせたバスの中でミーティングが行われる
それぞれのプログラムは、まずインストラクターの運転を助手席や後部座席で体験したのち、講習者の運転でトレーニングを行います。助手席にインストラクターが座り、逐一、アドバイスがもらえ、講習者もその場で質問することができます。
ひとつのプログラムが終了後、コミュニケーションセンターに戻ることなく、その場で(この日はバスの中で)簡単なミーティングを行います。感覚が残っているうちにクルマになにが起こり、実践したコントロールによってどのような変化を起こしたかを理論で学び、経験と紐付けるのです。基本的な進め方は「総合トレーニング」と同じですが、インストラクターがつきっきりでレクチャーをしてくれるため、より内容の濃いトレーニングを行うことができます。
- プログラムも終盤に差しかかると、講習者の上達が目に見えて分かる
冒頭でも記しましたが「トヨタ レーシングドライバーミーティング」のインストラクターはドライバーを本業としており、教導のしかたは統一化されていないため、それぞれの個性が強く出ています。懇切丁寧な人、冗談を交えてフレンドリーに接してくれる人、熱心なあまりついスパルタになってしまう人とさまざまです。受講者も受け身で教わるのではなく、疑問に思ったことは積極的に伝え、インストラクターを自身のペースに引き込むくらいのつもりで受けた方が、多くを学べるのではないかと感じました。
- ここまで真剣な表情だった関谷塾長も、修了証明書を手渡す際には笑顔を浮かべてくれる
すべてのプログラムをクリアしたのち、コミュニケーションセンターでミーティングを行い「レーシングドライバーミーティング」は終了となります。受講者には関谷塾長より修了証と、全インストラクターのサインが入った色紙を授与されます。
「トヨタ レーシングドライバーミーティング」を含め、モビリタで催される交通安全プログラムにはリピーターが多く、最多で150回以上も受講している人がいるそうです。なぜそこまでリピートしてくれるのか、スタッフがたずねたところ、「安全な環境でクルマを思い切り操ることができ、自身のスキルアップが実感できるのが楽しい」との返答をもらったそうです。
「トヨタ レーシングドライバーミーティング」の料金は31,500円(昼食込み)と、決してリーズナブルではありません。しかしクルマの運転(走る、曲がる、止まる)を深く理解したいと考え、本プログラムを学ぶための準備が整っている人ならば、大きな収穫を得られる内容となっています。
興味を持ったのなら、まずは「総合トレーニング」を受講し、「トヨタ レーシングドライバーミーティング」を学ぶための準備を整えてから申し込みましょう。
(取材・文・写真:糸井賢一 編集:木谷宗義+ノオト)
<関連リンク>
トヨタ 交通安全センター モビリタ
https://www.toyota.co.jp/mobilitas/index.html
[ガズー編集部]
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