空気の抜けもパンクもない!「エアレスタイヤ」が予感させるタイヤの未来
空気がいらずパンクもしない、そんな夢のようなタイヤの開発が進められています。空気がいらないことから「エアレスタイヤ」と呼ばれるこのタイヤは、次世代のタイヤとして注目されているもの。では、どんな構造や特徴を持っているのでしょうか?
エアレスタイヤを開発している株式会社ブリヂストン 先進技術タイヤ開発部長の金子智さんにお話を聞きました。
空気圧の代わりにクルマの重量を支えるのは特殊な斜め構造をした樹脂
まずは、ブリヂストンのエアレスタイヤである「エアフリーコンセプト」の構造を説明していただきました。
「一番外側のトレッドゴムは、通常のタイヤと大きな違いはありません。しかし、その内側は空気ではなく、樹脂となっています。『斜めの曲がり梁形状』という形をした樹脂で、それが走行中にたわんだり戻ったりすることで、走行中の車両を支えるのです」(金子さん)
- 自転車向け(左)と超小型車向け(右)のエアレスタイヤ
- ばね状のスポークが変形することで路面の衝撃を吸収する
「樹脂には、熱可塑性(ねつかそせい)樹脂という、加熱すると軟化して成形できる素材が使われています。ものすごく耐久性のあるプラスチックを想像していただければわかりやすいかと思います。耐久性のほかにも、一般的な樹脂では脆くなりやすい日光での劣化にも耐性があります」(金子さん)
エアレスタイヤはパンクしないだけでなく、空気が入っていないことから空気圧チェックの必要もなくなります。空気圧低下による、乗り心地や操縦安定性の変化もありません。また、樹脂の素材そのものが環境に配慮したものになっているので、リサイクルが容易になるメリットもあるそうです。
「エアレスタイヤを使ってクルマを低燃費にする開発もしています。Safety(安全)、Convenience(便利)、Environment(環境)が、エアレスタイヤ開発の3本柱です」(金子さん)
この3本柱は、現代の自動車業界に求められている課題とも合致します。
「例えば、最近定着してきたカーシェアリングでは、パンクによってお客様の利用が滞る状態は避けたいものですが、店舗型のレンタカーのように頻繁なメンテナンスはできません。また、オペレーターのいない無人運転のクルマが走る未来も見えてきました。その場合、パンクで止まることは絶対に避けなければなりません。将来的にエアレスタイヤは、さまざまな場面で貢献できる可能性を持っています」(金子さん)
全く新しい技術が必要なエアレスタイヤの開発は試行錯誤の連続!
タイヤとは呼びますが、「エアフリーコンセプト」は一番外側のトレッドゴム以外はこれまでのタイヤとはまったく違う、新しい技術を盛り込んで作られています。ブリヂストンでは「パンクしないタイヤを作りたい」というアプローチから、2008年より開発がスタートしました。当初は試行錯誤の連続だったそうですが、まず2020年に向けて、自転車用エアレスタイヤの実用化を目指していると言います。
- 2013年に東京モーターショーで披露された第二世代の「エアフリーコンセプト」タイヤ。現在のものより複雑な構造になっている
「まったく新しい技術や考えでタイヤを開発しなければならないため、耐久性と乗り心地の両立が難しかったですね。試行錯誤しながら、エアレスタイヤの研究・開発をおこなってきました。自動車用のタイヤも初期の頃の複雑な構造に比べれば実用向きになってきていますが、まずは自転車での実用化に向けて取り組んでいます」(金子さん)
まずは自転車からということですが、クルマへの装着にむけては、タイヤそのものの開発のほかに、クリアしなければならない法規上の問題もあるとのことです。
「自動車のタイヤは、安全性や法律・規格に対する信頼性評価にかなりの時間を要します。タイヤの開発だけでなく、走行実験での信頼性の証明も必要ですし、規格や表記に関する法律もクリアしなければいけません。まったく新しいタイヤですので、多くの議論が必要になると考えています」(金子さん)
今後、エアレスタイヤが流通したとしても、すべてのタイヤが置き換わることにはならないだろうと金子さんは予想をしていますが、「カーシェアリングや自動運転の業界では、大きな影響力があるのでは?」とのこと。未来のタイヤの出現は、もうすぐそこまで来ています。
(取材・文:斎藤雅道 写真:斎藤雅道、ブリヂストン 編集:木谷宗義+ノオト)
<関連リンク>
空気を不要にするブリヂストンのタイヤ技術「エアフリーコンセプト」
https://www.bridgestone.co.jp/technology_innovation/air_free_concept/
[ガズー編集部]
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