「カーナビ」はどうやって現在地を特定している? GPSの仕組み

移動ルートの選定や道案内、そして現在地の特定と、見知らぬ土地をクルマで移動するのに欠かすことのできない“カーナビ”こと「カーナビゲーションシステム」。けれど、どうやって移動するクルマの現在地を特定しているのかなど、その仕組みはあまり知られていません。ここではカーナビが人知れず行っている、基本的な仕組みを解説します。

高度2万キロメートルから信号を送信するGNSS用衛星

カーナビをはじめ、ナビゲーションシステムを扱う機器やアプリケーションを使用するにあたって、「GPS」という単語を見聞きしたことがあると思います。GPSは「グローバルポジショニングシステム(Global Positioning System)」の頭文字を取ったもので、専用の人工衛星より発信された信号(コード)を元に、受信機が現在位置(この場合、カーナビを搭載したクルマの位置)を特定するシステムです。

GPS用衛星が送信する信号は軍事用信号をのぞき、基本的に誰でも受信できる(画像はイメージ)
GPS用衛星が送信する信号は軍事用信号をのぞき、基本的に誰でも受信できる(画像はイメージ)

GPSは、アメリカ合衆国が航空機や船舶の航法支援用として開発したものです。現在、30以上のGPS用衛星が、およそ2万キロメートルの高さで地球を周回し、管制局に管理されています。同様の機能を持った衛星はロシアやEU、そして日本でも保有しており、これらすべてを含めて「GNSS(グローバルナビゲーションサテライトシステム:Global Navigation Satellite System)」、日本語で「全地球測位システム」と総称します。

カーナビはどうやって位置を特定するのか?

カーナビが現在地を特定できるのはGPSをはじめとしたGNSSのおかげですが、GNSS用衛星から直接、位置を教わっているわけではありません。そもそもGNSS用衛星が地球にあるすべての受信機を把握し、個々に位置座標を伝えるのは技術的に不可能です。

GNSS用衛星が発信している主な信号は、内蔵する原子時計を利用した正確な時刻と、衛星の位置(軌道)情報です。このふたつの情報を受け取ったカーナビが、受信するまでにかかった時間から衛星との距離を計算し、現在位置を特定します。計算にはカーナビの時計が正確である必要があるため、情報の受信時に時計の補正が行われます。

しかし、ひとつのGNSS用衛星から受信した信号だけでは情報は足りず、現在地の特定はできません。4つの衛星から同時に受信した信号を利用します。

ひとつのGNSS衛生からの情報だけでは現在地の特定はできないため、複数の情報を受信している
ひとつのGNSS衛生からの情報だけでは現在地の特定はできないため、複数の情報を受信している

数学が得意な人や測量をしたことがある人ならば「3地点からの距離が分かれば、自分のいる場所は特定できる」という、「三角測量」を思いつくでしょう。まさにその通りで、4つの情報が必要なのは距離を測るためではなく、時計の誤差を補正して精度を上げるためです。なお、4つ以上の衛星から情報を受信できる環境にある場合、より精度の高い4つの情報を使用します。

日本はさらに独自の人工衛星「みちびき」を使う

カーナビをはじめ、日本で使用されるナビゲーションシステムは、GPS用衛星を利用しています。しかしGPS用衛星はアメリカ合衆国を中心に世界中で活用され、日本だけが良好な状況で使用できるわけではありません。

そこで日本は独自にGNSS用衛星「みちびき」シリーズを打ち上げ、日本中をカバーできる良好な位置で運用。GPS用衛星だけでは不足する情報を「準天頂衛星システム(QZSS)」で補い、精度を上げています。

またカーナビの機種によってはロシアのGNSS用衛星「GLONASS」や、試験運用中であるEUの「Galileo」からも情報を受け取り、くわえてQZSSの補正データ(SBAS)を受信して反映するなど、精度の向上を試みています。

衛星からの信号を受け取れない時は?

GPS用衛星だけでなく、QZSSや各国のGNSS用衛星を利用できる昨今、国内で信号が受信できない環境は少なくなりました。しかし、高層ビルに囲まれている都市部やトンネル内、立体駐車場といった地下や屋内は、信号がクリアに届きません。

そのような場所に進入したら、カーナビは内蔵するジャイロセンサー(回転角度を測定するセンサー)や車速信号といったクルマから得られる情報と、途切れるまでのGNSS情報、記録されているマップ情報を照らし合わせて現在位置を推測します。

GNSS衛星からの信号が受信できる環境にある場合、移動速度の計測はカーナビの車速信号ではなく、衛星からの信号の波長、周波数の変化(ドップラー効果)を利用して行う
GNSS衛星からの信号が受信できる環境にある場合、移動速度の計測はカーナビの車速信号ではなく、衛星からの信号の波長、周波数の変化(ドップラー効果)を利用して行う

道が隣接して区別が付きづらい高速道路の乗り降り道と一般道の区別も、ジャイロセンサーが道路の傾斜を測定し、マップ情報と照らし合わせて「どちらを走行しているか」を判断します。

スマホやタブレットのカーナビアプリとの違いは?

その手軽さや通信料のみで使用できるリーズナブルさから、人気のカーナビアプリ。GPSやGNSS機能が搭載されているスマートフォンやタブレットで使用でき、多くの場合、マップ情報の更新も無料で行えます。

頻繁にマップ情報が更新されるのが、カーナビアプリ最大の利点
頻繁にマップ情報が更新されるのが、カーナビアプリ最大の利点

クルマに搭載する据え置き型カーナビとの違いは、現在地の取得がGNSS衛星からの信号や電話基地局や中継局からの通信のみで行っている点です。信号や通信電波がクリアに届かない環境にあると、精度が酷く落ちてしまいます。

ほとんどのスマートフォンやタブレットは、据え置き型カーナビのような補正機能を持っていません。ただ、そういった信号も通信電波も届かない環境は限られており、コストを考えれば必要十分な性能を持っています。

これからのカーナビは、誤差がセンチ単位になる

GNSS用衛星みちびきは「L6信号」という新規格の信号も発信しており、専用の受信機で受け取ることで、わずか数センチの誤差で現在地を特定できるといいます。ほかにも「RTK(リアルタイムキネマティック)-GNSS」という基準局からの補正データ受信システムや、ジャイロセンサーの高性能化により極めて短時間で、精度の高い現在地の測位が可能となっています。現在、盛んに宣伝されている自動運転の根幹には、高精度化が進んだ次世代ナビゲーションシステムの存在があります

これらの新規格は利用するためのコストが高いため、一般ユーザーの私たちが気軽に購入できるようになるには、まだ時間が必要です。それでもそう遠くない将来、より正確な位置情報が即座に反映される、今以上に快適なカーナビが登場することでしょう。

(文:糸井賢一 編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

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