住所はスバル町!スバル発祥の地「群馬県太田市」で見た歴史と背景

「株式会社SUBARU(スバル)」の本社所在地は東京都渋谷区恵比寿にありますが、スバルと聞いて群馬県を思い浮かべる人も多いでしょう。それは、スバルの本工場が群馬県太田市にあるからです。

スバルは、旧社名を「富士重工業株式会社」と言いますが、その起源をたどると「中島飛行機」、さらに「飛行機研究所」にたどりつきます。この飛行機研究所の発祥が群馬県太田市であり、創設者の中島知久平も同地の出身なのです。

そのため、スバル車の製造の拠点となっている太田市には、その関係性を示す建物やスポットが数多くあります。

本工場の住所は「スバル町」

群馬県太田市にあるスバル本工場(群馬製作所)。この施設一帯は、「スバル町」と呼ばれています。それも愛称ではなく、市が認める正式な町名です。以前、工場周辺は東本町と呼ばれていましたが、2001年にスバル町に変更しようと太田市議会で決定しました。「スバルの町、太田」を広くアピールするとともに、市民と企業の一体感をより強くしたいという狙いがあったようです。

本工場の門柱には「スバル町1-1」という表記が。さらに工場の壁面に沿っていくと「太田市スバル町1」と書かれた表示板も確認することができます。ちなみに、工場の敷地以外は東本町のままなので、スバル町に住所を置く住民はひとりもいません。

門柱や本館は当時の姿まま

2017年、本工場には新社屋が立ちましたが、1934年に中島飛行機の工場が完成した当時からある門柱や本館も、多少改修は施されているものの現存しています。案内していただいたスバルの社員さんによると、中島飛行場時代の本館には昭和天皇も行幸されたそうです。門柱も歴史のあるものなので取り壊さず、改修する形になったとのことでした。

そのほかに太田市には、「矢島工場」が太田市庄屋町に存在しています。そこには「スバルビジターセンター」というスバルの歴史や歴代のクルマ、社としての取り組みを紹介している施設を設置。「スバル感謝祭」というイベントも開催されおり、3年ぶりに開かれた2019年11月の感謝祭では、各地からスバルファン(スバリスト)が訪れました。

隣接する伊勢崎市はスバル360が誕生した場所

スバルを自動車メーカーとして一躍有名にしたのは、大衆車の草分け的存在となった軽自動車、「スバル360」です。このクルマは、太田市ではなく西に隣接する伊勢崎市で1958年に誕生しました。同市も中島飛行機の時代から関係が深く、関連する施設が戦前からあったのです。

戦中には大きな工場が建てられて、戦後に中島飛行機が解体された後、引き継いだ富士重工の伊勢崎工場となりました。ここでスバル360は誕生したのです。

戦後、スバル360を開発した技術者には、設計統括だった百瀬晋六を始め、中島飛行機時代に飛行機開発をしてきた人たちが多くいました。

軽自動車の小さな車体の中に必要な機関を詰め込む技術は、1グラム単位で重さをチェックされる飛行機開発で培われたものでした。ほかにも、当時クルマ用に使うには薄すぎると言われていた鋼鈑を、強度を持たせつつ使う技術なども、飛行機由来だったと言われています。さらに、続く「スバル1000」では、FF(前輪駆動)と水平対向エンジンが初めて採用され、後のスバル車の基礎になりました。

同工場は現在、解体されてしまい、跡地の公園にレンガ壁の一部をモニュメントとして残すのみですが、ギザギザしたノコギリ屋根の部分が当時をしのばせます。

ほかには、伊勢崎神社に、中島飛行機時代に社員が奉納したという「九〇式三号水上偵察機」のプロペラが残っており、今でも航空安全の祈願のシンボルとして祭られています。自動車メーカー発祥の地を散策してみると、その歴史や背景が見えてくるものですね。

(取材・文・写真:斎藤雅道 編集:木谷宗義+ノオト)

(参考文献)
旧太田市 平成12年度予算特別委員会 1号 太田市議会 (2000年3月14日)
旧太田市 平成13年度6月定例会 2号 太田市議会 (2001年6月12日)
旧太田市 平成13年度6月定例会 3号 太田市議会 (2001年6月15日)
旧太田市 平成13年度6月定例会 4号 太田市議会 (2001年6月22日)
上毛新聞 平成11年8月25日
『歴史のなかの中島飛行機』 (グランプリ出版) 桂木洋二

<関連リンク>
スバル
https://www.subaru.jp/

[ガズー編集部]

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