グッドイヤーの「飛行船」試乗レポート!タイヤメーカーが飛行船を保有しているワケとは

グッドイヤーは2020年1月、アメリカ・ラスベガスで開催されたIT家電ショー「CES」に初めて参加し、会場を訪れた世界中の自動車メーカー、ベンチャー企業、モビリティ企業、ジャーナリスト向けに自社の飛行船「BLIMP」への乗船を招待するというイベントを行いました。

今回、グッドイヤーがCESに参加した最大の目的は、「AndGo(アンドゴー)」と呼ばれるフリート向けのサービスを発表することです。これは同社製インテリジェントタイヤ(通信機能つきタイヤ)による継続的なメンテナンスが受けられる画期的なサービスで、それを最先端技術が公開されるCESで披露したのです。

なぜ、グッドイヤーが飛行船?

飛行船「BLIMP(ブリンプ)」の体験乗船会は、全員が乗船できたわけではありませんが、偶然にも私にはそのチャンスが授けられました。これは幸運だったと言えるでしょう。

そもそもグッドイヤーは、1898年にアメリカで設立されました。以来、同社は世界最大のゴム会社であると同時に、日本のブリヂストン、フランスのミシュランと並ぶ世界三大タイヤメーカーのひとつとなっています。

CES2020に合わせて「THE COSMOPILITAN OF LAS VEGAS」で開催されたグッドイヤーの発表会レセプション
CES2020に合わせて「THE COSMOPILITAN OF LAS VEGAS」で開催されたグッドイヤーの発表会レセプション

グッドイヤーと聞いて誰もが頭に浮かぶのが、靴に羽根が付いたロゴマークでしょう。実は、このロゴマークを世界に広めた立役者こそ、飛行船だったのです。

ゴム会社としてスタートした同社は、いち早く「加硫ゴム」を導入して、多種多様なタイヤを生み出す原動力となりました。一方で、ゴム製品を拡販する目的で、飛行機や飛行船の分野にも進出。航空機部門も設立して、多くの飛行船を世に送り出しました。

しかし、飛行機の輸送能力が飛躍的にアップしてくると、輸送としての飛行船の役割は終わりを告げます。そこでグッドイヤーは、飛行船の大きさを生かして自社のPRを目的としたフライトを行うようになりました。こうしてグッドイヤーのロゴマークは世に広く知られるようになったのです。

ラスベガス発、30分の遊覧飛行へ

さて、いよいよ乗船当日。「THE COSMOPILITAN OF LAS VEGAS」に一旦集合し、送迎車でラスベガス北部にあるノースラスベガス空港へ向かいました。

途中、車内ではブリンプについての説明が行われ、それによるとグッドイヤーの飛行船は初代が1925年に作られ、それ以降、世代交代を経て、各種スポーツイベントでの上空からの撮影や交通調査、災害時の救済活動などに協力してきたそう。現在、グッドイヤーは3機のブリンプを保有しており、今後も社会貢献事業にも積極的に参画し、さらなるグッドイヤー・ブランド構築に貢献していくとのことでした。

「BLIMP」は、全長が246フィート(約75m)。最先端の航空用電子機器と飛行制御システムを採用し、最高時速は73マイル(約118km)
「BLIMP」は、全長が246フィート(約75m)。最先端の航空用電子機器と飛行制御システムを採用し、最高時速は73マイル(約118km)

この日の飛行ルートは、ノースラスベガス空港から一旦、北上してダウンタウンの方へ向かい、そのまま南下してマンダレイベイホテル付近までを往復するというもの。およそ30分の遊覧飛行です。

風もなく、空は青空が広がる絶好の飛行船日和。空港に到着すると、東方から近づいて来るグッドイヤーのロゴマークを付けた飛行船が見えました。徐々に近づいてくると飛行船の巨大さがリアルに伝わってきます。

間近で見ると約75mという大きさに圧倒される
間近で見ると約75mという大きさに圧倒される

地上付近まで飛行船が下りてくると、着陸のためのプロペラの音と時折エアが抜けるような音が聞こえました。飛行船は風の影響を受けやすいようで、地上でスタッフが持つ“吹き流し”の情報は極めて重要になります。

着地するときは地上係員が持つ吹き流しで風向きを確認しながら、空気を抜いて下りていく
着地するときは地上係員が持つ吹き流しで風向きを確認しながら、空気を抜いて下りていく

地上に近づいたところで、地上スタッフが飛行船の前後にあるロープをつかみ、左右にあるプロペラが向きを変えて着地が終了。乗船口の前でスタッフから「船内に入ったら空いている席にすぐに座れ」との指示がありました。乗船するにも飛行船ならではのルールがあるようです。

飛行船「BLIMP」のキャビン。全長75mの機体全体からするとかなり小さい。定員は10名
飛行船「BLIMP」のキャビン。全長75mの機体全体からするとかなり小さい。定員は10名
巨大な飛行船全体からすれば、船内はそれほど広くない。右手前はトイレ
巨大な飛行船全体からすれば、船内はそれほど広くない。右手前はトイレ

そのルールは、乗船してすぐに理解できました。乗船した時、船内には多くの人がまだ乗船中で、一人が下船しては一人が乗り込むという流れだったのです。

また、乗船前に一人ひとりの体重を量っていましたが、これは体重に合わせて乗船する人と下船する人を決めていたんですね。そうしないと乗船中の重さが変わってしまい、飛行船が安定して着地していられないのです。

眼下に広がるアメリカならではの光景

いよいよ上昇です。浮き上がるときはヘリコプターのようなパラパラとした音に混じって、エアが吹き出すシューッという音が再び聞こえてきました。これは飛行船の前後バランスを取るために、空気量を調整している音。これによって飛行船の傾きを調整しているのです。

乗務員は機長(左)と副操縦士兼キャビンアテンダントの2名が乗船していた
乗務員は機長(左)と副操縦士兼キャビンアテンダントの2名が乗船していた

やがて外の風景が眼下へと少しずつ下がっていきます。その速度はとてもゆっくりです。飛行機が離陸するときのようなGを感じることもなければ、ジェットエンジンの轟音もありません。気付くとラスベガスの住宅街の向こうに山々が見えるまで上昇していた、という感じです。

プロペラがあることで前進していく感覚はありますが、それも周囲の風景が動いていることでわかる程度。ゆっくりゆっくりと進んでいく。これこそ飛行船ならではの飛行感覚です。

眼下に広がるラスベガスの町並み
眼下に広がるラスベガスの町並み
有視界飛行であるため、窓からは外の空気に直に触れることができた
有視界飛行であるため、窓からは外の空気に直に触れることができた
キャビン後端には横にもなれるシートが備わっており、ここから眼下に広がる景色をバックに撮影することもできた
キャビン後端には横にもなれるシートが備わっており、ここから眼下に広がる景色をバックに撮影することもできた

飛行船は有視界飛行が基本ですから、それほど高いところは飛びません。そのため、眼下に広がる街を間近に見ながらのフライトとなります。この日は、ラスベガスの煌びやかなホテル街は言うまでもなく、ホテル街を少し離れた住宅街までも一望することができました。

驚いたのは、ラスベガスにはプール付きの家が多かったこと。このエリアは乾燥地帯だけに、いざという時の防火用水としての役割も果たしているとのことでした。

庭のプールは豪邸の証しでもあるが、防火用水の役割も果たしているという
庭のプールは豪邸の証しでもあるが、防火用水の役割も果たしているという
縦横に広がるフリーウェイを多くのクルマが気持ちよさそうに走る。これもアメリカの証し
縦横に広がるフリーウェイを多くのクルマが気持ちよさそうに走る。これもアメリカの証し

そのまま南下してフリーウェイの真上にくると、片側4車線の広い道幅を多くのクルマが縦横無尽に走っている、アメリカならではの光景が広がりました。さらにマッカラン国際空港からは旅客機がひっきりなしに離着陸し、その様子もまたアメリカそのもの。そして、折り返し地点のマンダレイベイホテルの上空に到達し、ここで出発した空港へ向かうとのアナウンス。あっという間のフライトでした。

降下にあたっては、風の影響を受けやすいこともあってか、パイロットは慌ただしく操作しています。あとで確認してみると、飛行船の操縦は経験値が重要だそうで、同じ空港へ戻るにも一度たりとも同じ操縦では済まないとのこと。最後まで飛行機とは違った貴重なフライト体験となりました。

(取材・文・写真:会田肇 編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

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