渋滞情報が増えていた?「渋滞ゼロ社会」に向けたVICSの実証実験

目的地までスムーズにドライブするのに欠かせない交通情報として、広く浸透しているのが「VICS」です。1996年に首都圏でスタートしたのを皮切りに全国へと広がり、以来25年近くにわたって情報を提供し続けてきました。

そのVICSが、この春からさらに内容を濃くする新たなチャレンジをしています。今回は、この取り組みがドライブにもたらす、大きなメリットをご紹介しましょう。

首都圏でVICSの情報量が最大70%もアップ

5月ごろ、カーナビの地図に変化がありました。交通情報の表示が増えたのです。

実は、この4月からVICSは首都圏の1都6県(茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川)で、交通情報のカバー範囲を大幅に増やす実証実験(リアルタイム実証実験)を実施しています。

1都6県には、約6万キロもの道路は走っていますが、従来はそのうちの30%(約1万8000km)しか、VICSを提供できていませんでした。それを今回の実証実験では最大で70%(約4万2000km)にまで拡大しているんですね。

提供する情報は単純比較で約3倍にまで大幅に増えた(写真:会田肇)
提供する情報は単純比較で約3倍にまで大幅に増えた(写真:会田肇)

どうして提供される交通情報がこんなにも増えたのでしょうか?

VICSで配信される交通情報は、道路上に設置してある検知器で得た情報を元に発信していますが、これだけに頼っていたのでは、提供範囲は増やせません。そこで、すでに提供していた交通情報に加え、4月からは複数の自動車・車載機メーカー(トヨタ、日産、ホンダ、パイオニア)が収集してきたプローブ情報(実際に走るクルマから得る情報)を統合して、提供することにしたのです。

VICSが4月より実施しているリアルタイム実証実験の概念図。複数事業者が持つプローブ情報を束ねた(写真:会田肇)
VICSが4月より実施しているリアルタイム実証実験の概念図。複数事業者が持つプローブ情報を束ねた(写真:会田肇)

たとえば、パイオニアではVICSの約5倍もの道路を対象に交通情報を提供していると言います。これは、幹線道路にも通じる大半の道路が対象となる計算です。つまり、より多くの道路の交通情報を発信するには、このプローブ情報が欠かせないというわけです。

それを踏まえて「何とかひとつに束ねられないか」と2017年ごろから構想していたVICSセンターは、各社に協力を要請。交通渋滞の発生や予想される東京オリンピック・パラリンピックの当初の開催予定に合わせ、2020年に期間限定という形でようやく実現できたのです。

「VICS WIDE」対応カーナビならメリットを最大限生かせる

この交通情報の提供によってもっともメリットが得られるのは、2015年4月よりサービスが開始されている「VICS WIDE」対応カーナビです。現在、普及しているカーナビの大半は、FM放送によるVICSを表示していますが、案内ルートに反映できていたのは、入口閉鎖や道路工事などによる通行止めといった情報のみ。渋滞情報を案内ルートに反映することは、できていませんでした。

それが、「VICS WIDE」に対応することで、単に「混雑」や「渋滞」を表示するだけでなく、一般道での渋滞回避を可能としたのです。

この機能は、それまで光ビーコンを備えたカーナビでのみ実現していたもの。それがFM多重放送でも実現したというわけです。今回の実証実験では、この機能を生かしたまま、対象道路を大幅に増やしていますから、従来よりも高精度な案内ルートが可能になり、スムーズなドライブができるようになりました。

実は、VICSがプローブ情報を利用するのは、初めてではありません。2015年4月の「VICS WIDE」提供時から、東京地区ではタクシー車両からプローブ情報を得ていたのです。

東京地区ではタクシーからすでにプローブ情報を得ていたが……
東京地区ではタクシーからすでにプローブ情報を得ていたが……

しかし、そのエリアが広がることはありませんでした。これについてVICSセンターは「タクシーの台数はエリアによってバラツキがあり、交通情報として活用するには適切でないという事情があった」とのこと。

その点、実証実験で提供されているプローブ情報は、各メーカーが自社のカーナビを使っているユーザーが収集したデータを使いますから、圧倒的に情報量が増えました。

目標は実証実験の情報が全国展開されること

もちろん、「VICS WIDE」で追加された気象情報を地図上に表示したり、津波や噴火といった特別警報をポップアップ表示したりする機能はそのまま。ゲリラ豪雨などによる道路冠水も把握できるよう、「大雨情報提供サービス」も全国展開しています。これらは、相次ぐ災害発生の教訓から生まれたものです。

一方、「VICS WIDE」に対応していないカーナビにも、メリットはあります。渋滞回避こそできないものの、表示される交通情報の量は同じように増えますから、その情報を見ることで、渋滞を回避する判断材料として活用できます。地図データを更新していなくても、対応する道路はすべて表示されるということですから、おそらくすでに皆さんのカーナビでは、VICS情報が増えて表示されているはずです。

茨城県つくば市でのプローブ情報反映した結果。一目で情報量の差がわかる(写真:会田肇)
茨城県つくば市でのプローブ情報反映した結果。一目で情報量の差がわかる(写真:会田肇)

今回の実験についてVICSセンターは、「基本的には従来のVICS情報を補完するのが目的ですが、実験終了後も継続していけることを目指して、全国へ広げることを最終目標としています」と、“渋滞ゼロ社会”へ向けて、この実験が高評価を得て全国に広がっていくことへの期待を示しています。

今回の実証実験は、2020年秋ごろまでの期間限定ですが、カーナビユーザーとしては情報量が増えるのは歓迎すべきこと。VICSセンターが希望するように、日本の交通インフラとしてこのまま全国へサービスが広がって続いていくことを期待したいですね。

(取材・文:会田肇 編集:木谷宗義+ノオト)

<関連リンク>
VICSセンター(一般財団法人 道路交通情報通信システムセンター)
https://www.vics.or.jp/

[ガズー編集部]

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