馬運車の構造や運転席はどうなっているの?

競走馬を運ぶ「馬運車」。見た目はバスのようですが、構造はトラック。はたしてその中身はどうなっているのでしょうか? 「日本馬匹輸送自動車株式会社」にご協力いただき、車両の歴史や内部構造を調べてきました。

トラックからバスへ

日本馬匹輸送自動車株式会社50年史に残る写真
日本馬匹輸送自動車株式会社50年史に残る写真
昭和49年11月納車となっている車両
昭和49年11月納車となっている車両

今回車両見学をさせてもらった「日本馬匹輸送自動車株式会社」は、昭和22年に創業し、関東地区の中央競馬レース輸送の約8割を担う会社です。昔はトレーラータイプのトラックで輸送していたことが、同社50年史で確認できます。次に確認できたのが、昭和49年11月納車と記されている車両です。その形状からバスを改装していると思われます。この車両はエンジンが車体中央の床下にあるため使いやすかったのでしょう。

昭和59年の車両になると、4軸のトラックシャシーにバス改装タイプの車体が載っています。この頃から現在に通じるボディー形状になったのではないかと推察できます。

なぜこのような形状に?

昭和59年4月納車の車両はほぼ現在と同じスタイル
昭和59年4月納車の車両はほぼ現在と同じスタイル

では、なぜこのような形状になったのでしょうか? 同社・社長室長の小泉弘さんにお話を伺いました。

「資料が残っていないので確かな経緯は分かりませんが、トラックで馬を輸送していた時代は、厩務員さんもトラックの荷台に馬と一緒に乗って移動していました。しかしそれではあまりに大変なので、厩務員さんが乗れるスペースを確保するためにバスボディーを改装した形状になったのではないかと思います」(小泉さん)

確かに、昭和49年頃のバスはリアエンジンになっている時代ですので、バスをそのまま活用するわけにはいきません。人員の居住性を確保することと馬を積むと言う意味合いでトラックのシャシーにバスボディーを載せたと言うのは合点がいきます。

現在の車両で見るトラックシャシーとバスボディーの融合とは?

スイングドアはまるで観光バスに乗り込む感じ
スイングドアはまるで観光バスに乗り込む感じ

2020年5月現在、同社には97台の馬運車があり、順次新型車に入れ替わっているとはいえ、多くの車両がトラックシャシーにバスボディータイプです。車体左側には観光バスと同様のスイングドアがあり、そこから車内に入れます。運転席の下にエンジンがあるため階段は観光バスのように広くありません。そして特徴的なのが、車体中央にオフセットされた特製の助手席があることです。運転席はインパネやシフトレバーなどトラックと同じという不思議な空間が広がります。

運転席まわりはいたってトラック。右側にドアは無く、馬房のエアコンスイッチなどが並ぶ。
運転席まわりはいたってトラック。右側にドアは無く、馬房のエアコンスイッチなどが並ぶ。

運転席後方には厩務員が乗るスペースがあります。最大で4人が同乗できるようになっており、リクライニングの椅子も特徴です。また後方の馬房を確認する窓や、馬房へ行くための扉があり、馬に異変があった際にはすぐに移動できるようになっています。さらに当該スペースの上部にはベッドがセットされていて、これはドライバーが使います。長距離の輸送になった際には2人交代で移動するので、1人はここで休憩をとるそうです。

運転席後方には厩務員が乗るスペースと上段にはベッドも。馬房を見る窓や扉も備わる
運転席後方には厩務員が乗るスペースと上段にはベッドも。馬房を見る窓や扉も備わる

新型車はトラックキャブベース

最新の馬運車はトラックキャブベースになっている
最新の馬運車はトラックキャブベースになっている

長年の輸送により、馬房だけでなく前方の乗車スペースも改良されていますが、近年は衝突安全基準が変わったことにより、「トラックシャシー+バスボディー」は安全の観点から新規登録が厳しくなり、ボディー強度の安定した「トラックキャビンベース」で馬運車が製造されているそうです。

トラックベースなので運転席は普通のトラックと同じ。ドアもあるため馬房のエアコンスイッチなどは別の所に付く。
トラックベースなので運転席は普通のトラックと同じ。ドアもあるため馬房のエアコンスイッチなどは別の所に付く。

整備中の車両があったので車体の下を見せてもらいました。そこにはトラック特有の大きなエンジンが搭載されており、この車両はトラックなのだと確信。しかし車両の顔はバス型。なんとも言えない不思議な車両がそこには存在していました。

整備中の車両。車体前方の下には確かにエンジンが入っていた
整備中の車両。車体前方の下には確かにエンジンが入っていた

馬が乗る馬房も専用に開発されたもの

馬房へ素早くアクセスするために馬を積載する位置に扉が付いている
馬房へ素早くアクセスするために馬を積載する位置に扉が付いている

馬房には最大6頭が積めるそうですが、通常は後部への動線や安全も考慮して4頭積みが基本だそうです。リアゲートから積み込みますが、ボディーの左右にも扉が設けられ、各馬に対応できるようになっています。馬房内を監視するカメラ、暑さに弱い馬を守るための強力なエアコンなどが整備されています。

馬房内は1頭ずつ仕切られている
馬房内は1頭ずつ仕切られている

馬運車は、この馬を載せる部分こそが重要です。馬が怪我をしたり体調を崩したりしないように、長年培ってきた経験を生かし装備は年々進化していますが、今なお完成形に至っていないそうです。

バスのようなトラックのような車両は、馬のコンディションへの配慮はもちろん、馬と生活を共にして、厩舎から競馬場まで一緒に移動する厩務員さんのためにも考えられたものです。最新の馬運車は、人も馬も快適に移動できるようになっているスペシャルな車両でした。

(取材・文・写真:雪岡直樹 編集:奥村みよ+ノオト)

<取材協力>
日本馬匹輸送自動車株式会社
https://jht-corp.jp/

[ガズー編集部]

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