「86」デビューまでのコンセプトカーの変遷をたどる 番外編(海外モーターショーでの展示)
トヨタ「86」のはじまりは、2009年の東京モーターショーで発表された「FT-86コンセプト」。それから2年後の2011年、東京モーターショーの直前に行われた TOYOTA GAZOO Racing Festival にて、プロトタイプ扱いながら正式名称「86(ハチロク)」としてファンの前に登場しました。そして、2012年4月に満を持して発売となったわけですが、海外でのデビューの様子を振り返ると国ごとに異なるイメージで発表されていたことを思い出します。そこで、筆者が海外モーターショー取材で見てきた、86のデビューまでの様子をお伝えします。
『頭文字D』の世界観でアピールした中国
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- 2011年の上海モーターショーに展示された「FT-86 II コンセプト」
アジアの巨大マーケット中国での展示イメージは、ズバリ日本の漫画『頭文字(イニシャル)D』です。2011年の上海モーターショー(AutoShanghai2011)では、コンセプトカーの最終型「FT-86 II コンセプト」と、ボディサイドに「藤原とうふ店(自家用)」と描かれたAE86が並べて展示されていました。前期型スプリンタートレノの3ドアボディ、白と黒のハイテックツートン、バンパー下の黄色いランプやホイールなどは、まさに藤原拓海仕様です。
正式発表後に開催された2012年の北京モーターショー(AutoChina2012)も同じように『頭文字D』をイメージした展示に。AE86のロゴに使われた書体は86と同じタイプで、ハイフンが入った「AE-86」と紹介されていました。ちなみに車名は「8(バー)6(リゥ)」と、普通の数字の発音で呼ぶそうです。
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- 2012年の北京モーターショーに展示された「AE86スプリンタートレノ3ドア」
トヨタ「2000GT」と並べて展示されたジュネーブモーターショー
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- 2012年のジュネーブモーターショーでは白い「GT86」が「2000GT」と並べられた
2012年の3月に開催されたジュネーブモーターショーでは、中国とはかなり趣が違う展示の仕方で、トヨタ「2000GT」と並べて展示されていました。ちなみに欧州での車名は「GT86」です。
1967年生まれの2000GTは、トヨタがハイパフォーマンスモデルを発表する際に引き合いに出されることも多く、「70型スープラ」の登場時には2000GTの精神と魂を蘇らせたトヨタ「3000GT」と謳っていました。
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- 「70型スープラ」の発売当時のカタログ(撮影協力:トヨタ博物館)
また、1989年の東京モーターショーに出展されたコンセプトカー「4500GT EXPERIMENTAL」も、当時の最新テクノロジーで開発した、2000GTのような本格的スポーツカーだと発表されていました。半世紀以上の時を経てなお補給部品の復刻を行うなど、令和になっても特別な存在感を放ち続ける2000GTは、ヨーロッパでの86デビューにも花を添えたのでした。
なおトヨタフランスのウェブサイトでは、今でも86と2000GTが並走しているイメージ写真が使われています(2020年7月7日現在)。余談ですが、あとにコンセプトカーとして登場したオープンモデルのボディカラーが白というのも、なんだかトヨタ2000GTに似ていますね。
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- 2013年のジュネーブモーターショーに出展された「FT-86 open concept」
アメリカでは「サイオンFR-S」として登場
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- アメリカでは「サイオンFR-S」としてデビュー(2012年 LAモーターショー)
2000GTとイメージを重ね合わせたヨーロッパに対し、アメリカでは若年層向けブランド「サイオン」からデビュー。日本のAE86(カローラレビン/スプリンタートレノ)や86は、こちらのブランドイメージの方が近いかもしれません。サイオンブランドの廃止に伴い2017年モデルからは、日本と同じ「86」となっていますが、現在「Hakone(箱根) Edition」というグレードが設定されているのは、日本人として興味深いところです。
数々の展示を通じて浮かび上がった86の魅力
このように、発表時の86のイメージは地域によってさまざまでした。日本でのAE86の存在感や、ユーザが好みのカスタマイズをして仕上げることを発売前から想定していたことを考えると、特別感漂う2000GTと組み合わせたジュネーブモーターショーでの展示には当初、少々違和感を抱いたのも正直なところです。
しかし、2000GTがトヨタ1社ではなく、個性的なパートナー企業との共同開発による生い立ちを持っていたことなどを考えると、イメージが重なる部分もあります。また、並べられた2台を眺めてみると、プロトタイプから大きく変更された市販型のリヤコンビランプをはじめ、いたるところに2000GTの面影を感じ、ジュネーブモーターショーでの展示の意図も感じられるものです。
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- こうして並べてみると確かに2000GTとイメージが重なってみる(2012年 ジュネーブモーターショー)
いずれにしても、サーキットなどでガンガン走り倒すのもアリ、藤原拓海風もアリ、自分好みにカスタマイズするのもよし、スペシャリティクーペとしてゆったり楽しむのもよし。いろいろな顔をもつその自由さこそが86であるのならば、国によって違う紹介のされ方があっても、おかしくはありません。むしろ、その多様性こそが86というクルマの魅力だと言えそうです。
(取材・文・写真:高橋学 編集:木谷宗義+ノオト)
[ガズー編集部]
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