同じ車種でも仕様によりベルトの位置が異なることも。シート埋め込み型のシートベルトのメリットは?

クルマに乗ったらまずはシートベルトを装着しますが、一般的にシートベルトはピラー(柱)付近から引き出して使用するイメージですよね。実際、多くのクルマは前席だとBピラー(フロントドアの後ろにある柱)、後席(2列目)であればCピラー(リヤドアの後ろにある柱)の周辺にシートベルトが巻き取られるようになっているのが一般的です。

しかし、中にはシートの背もたれにシートベルトが組み込まれているクルマもあります。専門用語では「インテグレーテッドシートベルト」と呼ぶのですが、果たしてその理由やメリットはどこにあるのでしょうか?

リヤシート中央席に埋め込む理由は、装着しやすさと視界確保のため

シート内蔵型のシートベルトを採用するもっとも多いパターンは、後席(2列目)中央席。背もたれにシートベルトが組み込まれているクルマが増えています。

後席中央席のシートベルトを背もたれに組み込んだタイプ。(写真:マツダ)
後席中央席のシートベルトを背もたれに組み込んだタイプ。(写真:マツダ)

以前はどうだったかといえば、わずか10年ほど前までは後席中央は“2点式”シートベルトが一般的でした。2点式シートベルトとは腰の部分だけにベルトを掛けるタイプで、現在主流の3点式シートベルトはショルダーのベルトも追加されて上半身までしっかり支えるタイプ。3点式のほうがより安全なのはいうまでもありません。

日本で後部座席に3点式シートベルトが義務付けられたのは2012年7月から。それを受けて今ではすべての新車乗用車の後席中央席にも3点式シートベルトが装備されるようになりました。後席中央席への3点式シートベルトの義務化にあたり、小型車の多くは天井から引っ張って乗員に装着する方式を採用。それに起因して、実用上でデメリットとなる部分がでてきました。

まずはシートベルトを天井付近から引き出さないといけないので装着しづらいこと。また、体形によってはシートベルトがフィットしないこと。さらに、天井から吊り下げたベルトがルームミラーに映り、後方視界を邪魔する(視界に入ってわずらわしい)のが気になるドライバーも多いようです。

少し前の小型車に多い、天井から伸びる後席中央のシートベルト。装着しづらく、ルームミラー越しの後方視界の邪魔にもなりがち。(写真:工藤貴宏)
少し前の小型車に多い、天井から伸びる後席中央のシートベルト。装着しづらく、ルームミラー越しの後方視界の邪魔にもなりがち。(写真:工藤貴宏)

上半身を支えるベルトがリヤシートの背もたれに内蔵されるようになった理由は、その3つのウィークポイントを解消するため。後席背もたれ上部から引き出すシートベルトなら、装着もしやすくルームミラー越しの後方視界も邪魔しません。そのため採用が広がっているのです。

助手席の内蔵型シートベルトには、二つの理由がある

ごく一部の車種に限られますが、助手席のシートベルトがシートの背もたれに内蔵されているクルマがあります。その理由はおおむねふたつに分けることができます。一つは、ドアを開けるとBピラーが離れてしまう設計のクルマ。

Bピラーにシートベルトを組み込むとドアを開けた際に不都合が生じるので、助手席シートにベルトを組み込む例もある。(写真:トヨタ自動車)
Bピラーにシートベルトを組み込むとドアを開けた際に不都合が生じるので、助手席シートにベルトを組み込む例もある。(写真:トヨタ自動車)

助手席のドアが大きなスライド式、もしくはBピラーがドアに内蔵された車種などはドアを開けた時でも不都合がないように、Bピラーではなくシートの背もたれにシートベルトが組み込まれています。

もう一つのパターンは、助手席にロングスライド機構が組み込まれている場合。スライド量が長いシートは、安全のためにどのスライド位置でも適正にシートベルトを装着する必要があります。それを解決する方法として採用したアイデアが、シートベルトの取り付け部分がシート位置に連動して前後に移動すること。シート自体にシートベルトを内蔵することが最適だったのです。

助手席にロングスライドを採用するために、助手席にシートベルトを組み込む例もある。(写真:トヨタ自動車)
助手席にロングスライドを採用するために、助手席にシートベルトを組み込む例もある。(写真:トヨタ自動車)

このタイプは、同じ車種でもシートの仕様(ロングスライドの有無)によって通常のピラーに内蔵されたタイプと、シートに組み込まれるタイプの2種類のシートベルトの設定がある珍しいパターンです。

ミニバンの後席にあるのは、ロングスライドを実現するため

3列シートのミニバン(なかには4列車も存在)では2列目や3列目にシートベルト内蔵のシートを組み込んでいることがあります。

2列目シートにロングスライド機能が組み込まれているミニバンの多くは、スライド位置に関係なくベストな状態でシートベルトを装着できるようにシートへベルトを内蔵。(写真:トヨタ自動車)
2列目シートにロングスライド機能が組み込まれているミニバンの多くは、スライド位置に関係なくベストな状態でシートベルトを装着できるようにシートへベルトを内蔵。(写真:トヨタ自動車)

その理由は、ロングスライドに対応するため。助手席ロングスライドと同じ理由で、どの前後位置にシートをスライドしても適正にシートベルトを装着することができるように考えられているのです。

トヨタ・グランエースは2列目と3列目のシートがシートベルト内蔵タイプ。いずれもシートはロングスライドする。(写真:トヨタ自動車)
トヨタ・グランエースは2列目と3列目のシートがシートベルト内蔵タイプ。いずれもシートはロングスライドする。(写真:トヨタ自動車)

こうして安全や快適に配慮されたシートベルトですが、装着しなれば意味がありません。法律ではすべての席、すべての公道で装着が義務付けられています。もちろん法律に従うのは当然ですが、それ以前に「命を守るために」ということをしっかりと自覚して、クルマに乗ったらすぐシートベルトを締める習慣を身に着けましょう。

(文・写真:工藤貴宏 写真:マツダ、トヨタ自動車 編集:奥村みよ+ノオト)

[ガズー編集部]

あわせて読みたい!

  • 「セパレートシート」と「ベンチシート」の違いはなに? 知っているようで知らないクルマ用語
    「セパレートシート」と「ベンチシート」の違いはなに? 知っているようで知らないクルマ用語
  • 倒れるリヤシート。分割方式の5:5と6:4、そして4:2:4はどう違う?
    倒れるリヤシート。分割方式の5:5と6:4、そして4:2:4はどう違う?
  • ドライバーなら知っておきたい、クルマに必ず装備されている安全装備
    ドライバーなら知っておきたい、クルマに必ず装備されている安全装備
  • なぜチャイルドシートは助手席につけてはいけないのか?
    なぜチャイルドシートは助手席につけてはいけないのか?

コラムトップ