「ハイラックス」ラリーカーが派手に走る!プロモーションムービー撮影の裏側を取材
1990年代に巻き起こったクロスカントリー4WDブームも今は昔。熱がさめたあとは、一部の愛好家だけの世界にもどった感もありました。しかし、2017年に国内復活したトヨタ「ハイラックス」や、2018年にフルモデルチェンジを果たしたスズキ「ジムニー」などの登場などにより、再びじわじわと盛り上がりを見せています。
今年の春には「バハ1000」など、アメリカでのオフロードレースにめっぽう強いトーヨータイヤと、かつてのブームをパーツメーカーとして牽引したジャオスが手を組み、さまざまな取り組みをスタートするなど、業界の動きも活発になってきたようです。
今回は、そんな2社が手がけるプロモーションムービーの撮影に立ち会えることとなったので、普段見る機会があまりない撮影風景をお届けします。
映像の指揮をとるのはニュージーランド出身のドリフト大好きディレクター
映像を手がけたのは、Huxham Creative Studio。まずは、陣頭指揮をとるクリエイティブディレクターのルーク・ハクスハムさんにお話を伺いました。ちなみにルークさんはニュージーランド出身、オーストラリアでの生活を経て10年ほど前に来日しています。
- クリエイティブディレクターのルーク・ハクスハムさん
Q:Youは何しに日本へ?
ルークさん:日本に来る前からドリフトが大好きだったので、10年前に日本に来ました。映像じゃなくて、まずはドリフトだったんです。来日して3年位は、ひたすら走りましたね。お金がなくなるまで走り続けました(笑)。D1ドライバーの仲間もたくさんできたし、テクニックもたくさん教わりました。実は、来日したてのころに僕の運転スタイルはちょっと危ないと指摘されてしまって……。それで必死に勉強し直しました。僕、クルマバカなんです(笑)。
Q:ありがとうございます。それでは映像について教えてください。
ルークさん:クルマ好きな僕だから、普通のラリービデオを見てもとってもおもしろいと思えるんです。でもね、やっぱり雰囲気が足りない。僕は自分の作品を見て「クルマにもっと乗りたい!」と思ってもらえるような雰囲気を映像化したいんです。
Q:具体的には?
ルークさん:技術的には、たくさんの要素や手法があります。でも、もっとも大事なのはドライバーとのコミュニケーションなんです。目指したイメージに近づけるために、何度も何度も同じコースを走ってもらうことがあります。そんな時、ドライバーの中にはちょっぴり不機嫌になっちゃう人もいるんです。
でもね、撮った映像をその都度見てもらうと、大体OKになります。もちろん事前に打ち合わせはちゃんとしますが、実際の映像を見て初めて伝わることも多いんです。ある意味そこからが本番。そうやってレースやラリーのドライバーと信頼関係を築きながら、一緒にカッコいい映像を撮っていきたい気持ちを共有することが、一番大切なんだと思っています。
- 撮影した映像をドライバーに伝えるルークさん
映像ならではの撮影方法や録音方法がある!
機材はREDという8Kカメラを主に使用していました。ジンバルやドローンももちろん使っています。その撮影を見学して特徴的だと感じたのが、地上からの撮影でも三脚を使わないこと。並走などのためにカメラをクルマに固定する時やドローンで撮影する時以外は、ほぼジンバルによる手持ち撮影でした。
また、撮影用のカメラカーから被写体となるクルマを撮る場合、スチールカメラなら2台が同じ方向へ走る“並走”というスタイルが一般的です。それに対し映像の場合、両者が向かい合って走りながら撮影することもあって、驚きました。ひとつ間違えれば、正面衝突です。あらためて写真と映像の違いを感じました。
- 今や定番となった感もあるドローン撮影
音に関しても、マフラーやエンジンのそばにマイクを仕込むなど、さまざまな方法で録音していたのは驚きでした。必ずしも映像を撮っている場所で聞こえる音を使うわけではないんですね。撮影の裏側を知ると、CMやYouTubeで流れるイメージ映像が、ちょっと違う視点で見えてきます。手持ち撮影によるライブ感も、「なるほど!」と新鮮に見えてきます。
- 手持ちの撮影が多いのも特徴
ドライバーは11歳からオフロードレースに参戦する能戸知徳選手
今回、撮影した車両は、今年の夏にタイで開催されるアジアクロスカントリーラリーへの参戦のために、ジャオスが製作した「ハイラックス」のラリーカー。新型コロナ感染症の影響で大会が延期されていなかったら、今ごろタイの港に到着していた……そんなマシンです。
ドライバーは、ジャオスの製品開発も担う社員ドライバーの能戸知徳さん。11歳でオフロードレースをはじめ、数多くの勝利を手にしている生粋のオフロードドライバーです。ちょっぴり話を伺ってきました。
- ジャオスの開発も担う社員ドライバー 能戸知徳さん
Q:撮影はいかがでしたか?
能戸さん:長い間オフロード競技を続けていますので、今まで写真も映像もずいぶん撮ってもらいました。でも、実はこういうオフロードコースでカメラカーとの並走撮影したのは初めてです。
- カメラカーとして使用した白いハイラックスは、ジャオスが2016年から3年間海外ラリーで使用したラリーカーを改造したもの
能戸さん:率直に言って、撮影期間中はひとつずつ映像スタッフの方の指示通りにこなしていくことに、追われてしまいました。撮影中では、カメラカーのドライバーさんの運転が、後ろから走っていてとても合わせやすかったのが印象に残っています。また、ルークさんの方針だと思うのですが、撮った映像をこまめに確認させてくれるので、「あぁ、あのくらいの車間距離だとこう映るのか」といったことを理解しながら走れるのは、ドライバーとしてとても助かりました。
- 前を走るカメラカーとのテンポも合わせやすかったと能戸さん
Q:普段の走りとはやっぱり違いますか?
能戸さん:もう、全然違います(笑)。普段僕らは競技中、無駄なアクションは避けています。タイムも落ちるし、ラリーコースにおいてはリスクも増えるし、何よりマシンの負荷も大きい。全然、いいことがないんです。でもルークさんは、「もっとダイナミックに!」とその都度、派手さを求めてくるんです。そりゃそうですよね、イメージ映像を撮ってるわけですから。ラリーカーは、ルークさんの大好きなドリフト車とセッティングの方向が違いますが、あえて2WDで走ったり無理やりサイドブレーキを使ったりしてアクションを起こしていました。実は結構楽しくやっていました(笑)。
- 長丁場のラリーではなるべく避けるジャンプも撮影では必須
東南アジアのラフロードを2000km以上も走るラリーへの参戦車両は、撮影程度でへこたれるわけもありませんが、やはりメンテナンスはとても大事です。現場には、今夏メカニックとしてラリーに参加する予定だったスタッフも同行して、メンテナンスを行っていました。1日の撮影を終えて翌日の撮影に向け各部をチェックする姿などは、まるで本番のラリーのサービスパークのような雰囲気。ここが国内であることが残念なくらいです。
- 翌日に備えたマシン整備はまるでラリー本番のようだった
新型コロナ感染症に阻まれた夏のラリーでしたが、実はトーヨータイヤやジャオスのスタッフの気持ちは、期間中ずっと参戦気分だったのかもしれません。
じわじわと盛り上がってきている令和のクロスカントリー4WDブームは、かつてとは違う地に足のついたとても魅力的な動きだと感じます。これからのオフロードシーンを支えるタイヤメーカーのトーヨータイヤやパーツメーカーのジャオス、そしてドリフトが大好きなルークさんや映像スタッフのみなさんが、めいっぱい想いを込めた映像となりました。シーン毎にその撮影風景などを想像しながら見るのも、おもしろいものです。
最後に完成した動画をご覧いただきましょう。
(取材・文・写真:高橋学 編集:木谷宗義+ノオト)
[ガズー編集部]
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