ドアが重すぎて開かない!? ガラスの厚さは5センチ!! 知られざる防弾車の世界
「防弾車」と呼ばれるクルマをご存知でしょうか。防弾車とは、銃などで撃たれても乗員を守るクルマのこと。日本では走っていることはほとんどありませんが、海外では要人の移動に使われるほか、治安の悪い地域では富裕層が身を守るために日常的に利用することもあるといいます。
一般のクルマとはどう違うのでしょうか?
防弾車といっても軍用車や警察車両、そして現金輸送車など特殊車両を除けば市販の乗用車をベースに仕立てるのが一般的です。だから普通の乗用車と見た目で比較しても、瞬時には見分けられません。そして、重要人物が乗っていることを気付かれないよう、目立たせないためでもあります。治安の悪い国などでは目立たないように、あえて高級車ではなく一般的な車種をベースにした防弾車を移動に使うこともあるようです。
ただ、窓ガラスをよく見るとガラスの淵が黒くなっているのが特徴。通常の車両に比べてガラスの面積がわずかに狭いのが防弾車を見分けるポイントです。
- 防弾車の見た目の特徴は、窓ガラスの端が黒いこと。(写真:工藤貴宏)
たとえば日本の総理大臣の公用車も防弾仕様になっていますが、窓ガラスをみると淵が黒く、一般車両と違うことが分かります。
防弾車には「軽装甲」と「重装甲」がある
防弾車は大きく分けて「軽装甲」と「重装甲」の2種類ありますが、日本で使われるのはほぼ前者。拳銃やサブマシンガンなどで襲われても銃弾が貫通せず車内の人を守れる構造です。後者は重機関銃やロケットランチャーなど強力な火器で襲われても対応できるようにより強化したもので、「防爆」と呼ばれる地雷のような爆弾の爆発にも耐えられる構造となっているものもあります。
いずれも、改造する範囲はほぼ同じ。車体はガラスを樹脂などで強化するほか、ボディと内装の間に厚い金属やアラミド繊維などの防弾パネルを取り付けて銃弾を食い止めます。重装甲車では爆発にも耐えられるよう、より強固な仕立てとします。
また、燃料タンクもガッチリと守る構造とするほか、パンクしても一定の距離を走れるようなタイヤ、もしくはシステムを採用して現場から避難できるように造られているのも特徴です。一般的に、防弾車は車体を強化するぶんだけ重量が重くなります。その増加は少なくとも数百キログラムで、重装甲車では数トンになることも。そのため、走行性能は通常の車両に比べると落ちてしまうのは避けられません。
実車に触れてみたら……重くてドアが開かない!?
では、実際の防弾車はどうなっているのでしょうか。かつて海外のモーターショーで防弾車に触れたときの印象をお伝えしましょう。
- 見た目は普通のボルボ「XC90」。(写真:工藤貴宏)
ベース車両はボルボのフラッグシップSUV「XC90」。よく見ると窓ガラスの周囲が黒くて窓が小さいことを除けば、普通のXC90との違いはなし。街に溶け込むのは間違いなさそうです。
しかし、ドアを開けようとして驚きました。あまりにも重くて普通の感覚では動かないのです。近くのスタッフに「ドアロックしてあるのか?」と尋ねたら、「開いているよ」とドアを開けてくれたのですが、再度自分で動かしてみたらかなり強い力を入れないと動かないことに衝撃を覚えました。理由は、ガラスとドア内部の強化でドアがかなり重くなっていたからでした。
「XC90アーマード」と呼ばれるこの車両は、「最高レベルの防護性能を求める個人向け」というだけあり、高いレベルの防爆性能を備えたもの。外からは見えませんがキャビンを覆うように厚さ10mmの鉄板が追加され、ガラスの強化や装備品と合わせてベース車両より1,400kgも重くなっているというからビックリです。
- とにかく重いドア。窓は小さく、よく見ると、ドアトリムは通常よりも室内側にはみ出して装着されている。(写真:工藤貴宏)
まるでレーシングカー。強化した足まわりに驚き
窓ガラスも厚さに驚き。なんと厚さは50mmもあるのですから。しかし、そんな厚い窓ガラスが、開ける際には当たり前のようにドアに収まることに驚きました。10mmの鉄板と50mmの窓ガラスをドア内部へ納めるだけでも、かなりのノウハウが必要でしょうね。
- 窓ガラスは常識では考えられない厚さ。(写真:工藤貴宏)
車内は普通の「XC90」とそれほど大きな違いがありませんが、よく見ると窓の桟やピラーが太くなっているなど細部が骨太な印象。またキャビン後部は鉄板で覆われ、非常用の脱出口も用意されていました。
- 車両後部も強化されている。(写真:工藤貴宏)
エンジンルームの消火装置や穴が開いても自動的にふさがる給油タンクなどを備えているほか、興味深いのは走行系の強化。乗員も含めれば最大4.5tにもなる重さを支えるために、ガッチリと強化されたブレーキやショックアブソーバーの採用に納得です。
- 重さに耐えるためにアーム類まで強化され、まるでレーシングカーのようなサスペンション。(写真:工藤貴宏)
海外では正規モデルとして市販している車両も
驚くことに、この「XC90アーマード」は市販モデル。ボルボの正規車輛としてカタログも用意され、海外では販売店を通じて購入できるのです(製作はボルボとは別の会社が担当)。価格は日本円換算で約6,000万円からとか。
同様に、海外では自動車メーカーの正規モデルとして防弾車が用意されることがあり、有名なのは、メルセデス・ベンツの全長6.5mの最高峰リムジン「S650プルマン」をベースにした「S650プルマンガード」。
- メルセデス・ベンツが用意する防弾車の最上級モデル「S650プルマンガード」。(写真:工藤貴宏)
またアウディは「A8」、BMWの「7シリーズ」やSUVの「X5」をベースにした車両などをラインアップしています。
日本にも防弾車を制作する専門の会社があり、国産車のラインアップを見ると「レクサスLS」や「センチュリー」など大型セダンをはじめ、「ランクル」や「アルファード」などSUVやミニバンも用意されています。公官庁にも納入していて、軽装甲に加え、一部車種は重装甲にも仕立てられるそうです。そんな防弾車は突然の危険から身を守ってくれる強い存在です。しかし、本当はこんな防弾車など必要のない世界になってほしいですね。
(文・写真:工藤貴宏 写真:メルセデス・ベンツ 編集:奥村みよ+ノオト)
[ガズー編集部]
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