「MIRAI」がパトカーに! 日本初の燃料電池パトカーを導入した徳島県警

2020年4月、徳島県警は全国で初めてFCV(燃料電池自動車)のパトカーを導入しました。車両は、県内トヨタディーラー4社から寄贈されたトヨタ「MIRAI」で、「春の全国交通安全運動」でお披露目され、現場で活躍しています。なぜ、徳島県警はMIRAIをパトカーとして導入したのでしょうか? 徳島県警察本部警務部企画課の担当者にお聞きしました。

「脱炭素社会」に向けた試みとして

MIRAIの導入には、資源エネルギー庁燃料電池推進室が2015年に発表した「水素社会の実現に向けた取組について」という報告が、大きな影響を与えています。

特に徳島県では、2019年11月「ゼロカーボンシティ」を表明し、「2050年温室効果ガス排出実質ゼロ」実現に向け、重要な取組みのひとつとして、「水素エネルギーの積極的利活用」を掲げており、その一環としてMIRAIのパトカーを導入したとのことです。

写真:徳島県警
写真:徳島県警

「脱炭素社会の実現を目指す本県として、働くクルマの代名詞であるパトカーに、全国初の燃料電池自動車としてMIRAIを導入しました。これは、警察活動における脱炭素化の促進はもとより、高い広報力を生かした水素エネルギーの普及啓発にも繋がると考えたものです。実は、海外でも燃料電池自動車のパトカーはかなり珍しく、世界では、イギリス・ロンドン警視庁やドイツ・ニーダーザクセン州オスナブリュック警察署で導入されている事例があるくらいで、非常に先進的な取り組みであると認識しています」(担当者)

車両のデザインは、県内の小学生を対象にしたラッピングデザインコンテストにより、決定されました。FCVパトカーを走らせるための環境などの整備以上に、デザインを選定するのに苦労したとか。

写真:徳島県警
写真:徳島県警
写真:徳島県警
写真:徳島県警

「多くの県民に親しまれ、環境にやさしい未来を感じられる車両となるよう、約460点の応募作品の中から最優秀賞作品を採用しました。選考にあたっては、パトカーとしての力強さ、環境に優しい未来、県民への親しみやすさ、といった点を総合的に審査した上で決定しました」(担当者)

また、MIRAIをこれまでパトカー仕様とした実績がないため、赤色灯やサイレンなど、特殊装備の搭載についても、さまざまな検討を要したとのことです。

広報活動も役目のひとつ

こうして生まれたMIRAIのパトカー。通学路などにおけるパトロールなどの公務はもちろんのこと、高い広報力を生かして、水素社会に向けた周知、警察が行う各種情報発信活動も大きな役割のひとつです。徳島県では、2030年に向けて水素社会を展望したエネルギーの「地産地消」のための施策展開や、災害時における「非常用電源」としての活用方針などを盛り込んだ、「徳島県水素グリッド構想」を2015年10月に策定しており、全国の先頭に立って「一歩先の未来」の実現に積極的に取り組んでいます。

「県警察が行う各種キャンペーンなど、情報発信活動に活用して、多くの県民の方に燃料電池自動車の有用性を実感いただき、今後の水素需要の拡大に貢献していけるようにと考えています。その一環として、小中学生を対象としたエコサイエンス教室での水素の普及啓発活動を行いました。また、緊急事態宣言の解除後は、学校再開に伴う登下校時のパトロールに話題性の高いMIRAIのパトカーを使用。新聞やニュースでも取り上げられ、効果的な広報活動や児童の安全対策を実施することができました」(担当者)

写真:徳島県警
写真:徳島県警

災害時の電力供給という重要な役割も

もうひとつ、MIRAIのパトカーには大きな役割があります。災害時の電力供給という、走る発電所としての役割です。

「搭載した可搬型外部給電器を利用し、一般家庭や避難所の照明や冷蔵庫、携帯電話の充電器など、家電製品への電力供給を行うことができます。水素が満タンの状態であれば、一般家庭の平均的な消費電力量の約5日分程度の電力供給が可能です。このように、燃料電池車が持つ高い給電機能を生かし、『外部給電器を活用した災害訓練』『信号機への給電訓練』などを行い、災害現場で活用することとしています」(担当者)

新型コロナウイルスの影響で、MIRAIのパトカーに関連した多くのイベントが中止になってしまったそうですが、それでも反響は大きく、今後も感染予防対策を徹底した上で広報活動を実施していきたいとのこと。

「これまで、児童の通学路でもパトロール活動、小学生を対象にした庁舎見学での展示など、子どもの目に触れる活動を中心に実施しており、県内のみならず、県外からも注目していただいています。こうした活動を通じて、災害に強いまちづくりや、今後の水素需要の拡大に繋げていきたいです」(担当者)

MIRAIがパトカーに導入された背景には、水素社会に向けた徳島県の取り組みがあったんですね。これまでのパトカーとは違うカラーリングも含めて、まさに「未来のパトカー」の姿がここにあると言えそうです。

<関連リンク>
徳島県警察
https://www.police.pref.tokushima.jp/

(取材・文:斎藤雅道 写真:徳島県警 編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

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