広島東洋カープのヘルメットはマツダのソウルレッドと同じ色!? ヘルメットカラー開発秘話
広島東洋カープの赤いヘルメット。キラキラと光を放つあの赤はマツダの特別な赤「ソウルレッドプレミアムメタリック」をイメージした色だということはご存知でしょうか。ヘルメットに適した「ソウルレッドプレミアムメタリック」カラーを開発した当時について、マツダ株式会社のコーポレート業務本部総務部秘書グループマネージャー・中本圭二さんと技術本部車両技術部部長・篠田雅史さんに伺いました。
「来年、ヘルメットの色が変わるけえね」 カープ松田オーナーの「赤」への思い入れ
――広島東洋カープのヘルメットの赤はマツダのクルマに使われている「ソウルレッドプレミアムメタリック」をイメージしたカラーとのことですが、きっかけは?
中本さん:2012年11月に行われた3代目の新型「アテンザ(現MAZDA6)」の発表会にお招きした広島東洋カープ(以下、カープ)松田元(まつだはじめ)オーナーが新色のソウルレッドプレミアムメタリック(以下、ソウルレッド)をご覧になった際に、弊社のシニアマネージメントと「赤だね。ヘルメットにどうだろう」という会話を交わしたことが始まりでした。私も一緒にご案内していたのですが、その時はまさか本当にヘルメットのカラーにとお考えとは思っていませんでした。
- 始まりは3代目アテンザの発表会。現在アテンザはMAZDA6へと進化している
12月中旬に、オーナー代行から電話をいただきました。「中本さん、オーナーは本気でヘルメットの色をソウルレッドにしたいらしい」と。松田オーナーはカープの「赤」という色に大きな思い入れがある上に、ソウルレッドが心底ふさわしいと思ってくださっていたと、後日伺いました。
当時松田オーナーは、「来年、ヘルメットの色が変わるけえね」と、会う人会う人にお話しされていたそうで、その電話の頃からが本格的なスタートとなりました。
- 左・中本さん 右・篠田さん
篠田さん:ある月曜日の朝、出勤したら机の上に石井琢朗さん(現・読売ジャイアンツコーチ)の25番のヘルメットが置いてあったんです。不思議に思っていると、上司から「これにソウルレッドを塗ってくれって言われとるんじゃけど」と言われ驚きました。
中本さん:私がそのヘルメットを球団に受け取りに行ったんですけどね(笑)。
シーズン開幕戦は3月29日! それまでに100個あまりのヘルメットに塗装を
篠田さん:石井琢朗さんのヘルメットにいきなり塗料を塗るのはさすがに恐れ多くて、スポーツショップからヘルメットを取り寄せて試験的にソウルレッドを塗ってみました。しかし、全く違う色に見えるんですよ。
中本:ソウルレッドという色は車体の平板な部分に太陽光が当たるときれいな赤に発色するのですが、光の当たらないところや曲面は陰影感を出すために黒っぽく見えるのが特徴です。それによりクルマの造形を際立たせてかっこよく見せるんですね。それで、ちょうどクルマのドアミラーのように丸みのあるヘルメットに塗ると真っ黒に見えてしまうんです。
- 光の当たり具合で深い陰影ができるのがソウルレッドの特徴
篠田さん:クルマのためのソウルレッドの塗料そのままでは、ソウルレッドのヘルメットにはならない。そこで、うちのデザイナーとカープの担当者とで確認し合い、塗料メーカーさんにご協力いただいて、一からヘルメットのためのソウルレッドカラーを作り始めました。
中本さん:2013年3月29日のシーズン開幕戦までに、色を作ってそれをホーム用とビジター用、合わせて約100個塗らなければならない。
篠田さん:その予定でいくと、1月末くらいまでには色を決めなければならなかったのですが、これがなかなか大変な作業でした。赤い塗料と光を出す光輝材の種類や量の割合を変えて色を作るのですが、カープの担当者からはグリーンの芝生の上でどう見えるか、昼間と夜とでの見え方の違いなどの視点から要望があり、試作を繰り返しました。ヘルメット20~30個は塗ったと思います。
中本さん:実は、カープさんからは、「鮮やかな赤を」というリクエストがある一方、まぶしすぎないようにという要望もあったのです。ヘルメットが投手も含めた守備側に対して光りすぎてまぶしいと、選手がプレーに集中できないということがあります。ですから、制作チームにはかなりデリケートな作り込みをしていただいたと思います。
篠田さん:機能性の問題では、塗料の重さも意識しなければいけないことでしたね。数グラム単位で着用した時の重さが変わってくるわけですから。結局、色を作る作業はギリギリ2月中旬ぐらいまでかかりました。それまでの1カ月は中本さんに毎週、球団の方へ行ってもらった記憶があります。
中本さん:私も2月のものすごく寒い球場でナイター照明を実際につけてヘルメットの光り具合を一緒にテストしましたね。
安全のための「道具」から、選手からもファンからも愛される「ヘルメット」へ
――それだけ苦労して完成したヘルメットを選手が身に着けているのを見た時はどんなお気持ちでしたか?
中本さん:私は、カープによるヘルメットの記者発表に立ち会ったのですが、マツダスタジアムで、今、大活躍中の堂林翔太選手がヘルメットを着用してアテンザと並んでいるのを見て、短期間の製作で大変ではありましたが、たくさんの人たちの努力と総意が結実したことに大きな喜びを感じました。
篠田さん: 2013年シーズン開幕戦は東京ドームで行われたのでテレビで見ていたのですが、画面越しでもヘルメットがすごいキラキラ輝いとって感動しました。やってよかったなあと思った記憶があります。
- 完成したヘルメットのための「ソウルレッド」は隅々まで赤く輝く
――選手の皆さんの反応はいかがでしたか?
中本さん:選手の皆さんがヘルメットを大切に扱うようになったと聞いています。
石井琢朗さんのヘルメットを受け取った時にも感じたのですが、それまでのヘルメットはあくまでも選手の安全を守るための「道具」であり、デザイン性は意識されてはいなかった。でも、ソウルレッドに変わったことで選手の皆さんがヘルメットを感情にまかせて投げるといったことがなくなったそうです。それと、他球団からの問い合わせが何件もあったと聞いています。
――デザインを意識したヘルメットの第一号ということで?
中本さん:その後、中日ドラゴンズさん、横浜ベイスターズさんもヘルメットが変わりましたね。
――ファンの皆さんはいかがでしたか?
中本さん:カープさんは、いろいろな公式グッズを出しているのですが、ヘルメットという形での販売はもちろん、ヘルメットをかたどったグッズもとても好評だったそうで。数量限定のヘルメットギターやヘルメットランプシェードが発売15分ほどで完売したとか。結構な価格なんですけどね(笑)。それだけカープ愛の強いファンにも受け入れてもらえているのではないかと思います。
モノづくりへの熱意も新たに
――ソウルレッドのヘルメットを作ったことにより何か変化はありましたか?
篠田さん:弊社では技術展示会で直接お客さまとお話しする機会があるのですが、そのような場で、今はクルマとヘルメットを並べて展示しています。それによって子どもたちがたくさん集まってきてくれます。ヘルメットがきっかけでマツダのクルマ自体にも興味を持っていただけるようになったと思いますね。
業務の上では、形によって色の見え方が違うということを実感したのが大きかったです。弊社の目指す「魂動(こどう)デザイン」のために、色がどのようにデザインを際立たせ、クルマをかっこよく見せるかを意識することが今のクルマ作りにつながっていると思います。
――もし、また新たにヘルメットを作ってほしいというオファーが来たら引き受けますか?
中本さん:私は作る側ではありませんが、お受けすると思います。モノづくりというのは、もちろん古きよきものもありますが、永久に進化、発展していくものですからチャレンジしていきたいと思います。
篠田さん:やっぱり私も受けたいと思います。それを1つ作り出すことで、お客様や受け止める相手に感動してもらえるというのが我々の喜びにつながると思っていますので。
あのカープのヘルメットの赤にこれだけの苦労が秘められていたとは! 塗るものの形の違いで全く別物の塗料を作り出さねばならず、開幕までのほんのわずかの期間にきっちり完成させるところは、まさに熟練の技ですね。これから、カープの試合とマツダのクルマを見る目が変わりそうです。
<取材協力>
マツダ株式会社
https://www.mazda.co.jp/
(取材・文:わたなべひろみ 写真:マツダ株式会社 編集:奥村みよ+ノオト)
[ガズー編集部]
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