リトラクタブルライト、フェンダーミラー、三角窓……時代とともになくなった機能や装備

  • (写真:鈴木ケンイチ)

    (写真:鈴木ケンイチ)

クルマの歴史は、技術の進化の歴史。また、安全や環境への配慮の歴史とも言えます。そうした進化や配慮によって、クルマの機能や装備はどんどん変わっていきました。そこで今回は、日本でクルマが一般的に普及してきた昭和30年代から現代にいたるまでの間に、消えていった機能や装備をご紹介。クルマの進化とともに、年配の方には懐かしさを、若い人には新鮮さとクルマへの理解を深める入り口をお届けします。

技術の進化で消え去った機能と装備

技術の進化によって消えてしまった機能や装備のひとつに「チョーク」があります。これはエンジンに燃料を送る、キャブレターという気化器に備わった機構です。現在のクルマは電子制御のインジェクターという装置を使っているので、気温や気圧の変化にも自動的に最適化することができます。ところがキャブレターの時代は、手動でチョークを操作することで、燃料の濃さを調整する必要があったのです。

  • 1975年式ホンダ「シビック」の内装。シフトレバー前方に並ぶ2つのレバーの右がチョーク(写真:本田技研)

    1975年式ホンダ「シビック」の内装。シフトレバー前方に並ぶ2つのレバーの右がチョーク(写真:本田技研)

そのため、冬の朝イチでエンジンを始動させる時は、チョークを操作することが必須。また、高性能エンジンの中には始動性の悪いモノもあり、チョークや燃料ポンプを上手に操作する必要がありました。1980年代以降のインジェクターの採用の拡大と反比例して、チョークを装備するクルマは減少。今では皆無となりました。

インジェクターと同じように、1980年代に拡大したのが「カーエアコン」です。そして、エアコンの普及とともに消えていったのが「三角窓」でした。これはカーエアコンのない時代に、車内に走行風を導くものとして、前席のドアの窓の前方にある三角形のスペースにあったもの。三角形の中央に縦の軸があり、半分、三角形の窓を開けることで、走行風を室内に導いたのです。

  • 1966年式「カローラ」。運転席窓の前方が三角形に区切られていることがわかる(写真:トヨタ自動車)

    1966年式「カローラ」。運転席窓の前方が三角形に区切られていることがわかる(写真:トヨタ自動車)

また、エアコンや電子制御技術の採用拡大は、そのまま電気系の技術の進化にもつながります。それによって「電圧計」というメーターも消え去りました。電気技術が未熟だったころは、バッテリーが突然ダメになることがよくあったもの。それを事前に知るため、常に電圧をチェックする必要があり、電圧計が装備されていたのです。

  • 1976年式日産「フェアレディZ」。インパネ中央にある「VOLTS」のメーターが電圧計(写真:日産自動車)

    1976年式日産「フェアレディZ」。インパネ中央にある「VOLTS」のメーターが電圧計(写真:日産自動車)

1980年代半ばごろから普及してきたのが、「パワーウインドウ」です。今では軽自動車の廉価グレードやトラックでさえ、パワーウインドウは標準装備となっています。しかし、1990年ごろまで、パワーウインドウは高級な装備品と見なされていたのです。そして、パワーウインドウの普及とともに、手動で窓を開け閉めするためのハンドル「レギュレーターハンドル」は、姿を消していきました。

安全や環境への配慮で消えたもの

安全や環境への配慮により、消えていったものも存在します。それが、「アスベスト入りブレーキパッド」と「有鉛ガソリン」です。

  • 有鉛ガソリン車と無鉛ガソリン車が混在していた時代にはこのようなステッカーが貼られていた

    有鉛ガソリン車と無鉛ガソリン車が混在していた時代にはこのようなステッカーが貼られていた

アスベストは耐熱性に優れ、高い性能を発揮するため、ブレーキパッドに広く使われていました。しかし、健康被害があることが分かり、1990年代以降はノンアスベスト製品が広く普及。2006年にはアスベストを含むすべての製品の使用が禁止となりました。そして、「有鉛ガソリン」は読んで字のごとく、ガソリンに鉛を添加して性能を高めた燃料ですが、やはり健康への配慮から1986年に使用が禁止になっています。

規制の緩和や時代背景によってなくなったもの

規制緩和でほとんど消えてしまったのが「フェンダーミラー」です。現在のクルマの大多数はミラーをドアに装備するドアミラーとなっていますが、1983年の規制緩和の前までは、日本の法律ではフェンダー部にあるフェンダーミラーしか許されていませんでした。しかし、規制が緩和されると状況が一変。ほとんどのクルマがドアミラーに代わってしまいました。

  • 1979年式トヨタ「カローラ」。1983年のフルモデルチェンジでドアミラーとなる(写真:トヨタ自動車)

    1979年式トヨタ「カローラ」。1983年のフルモデルチェンジでドアミラーとなる(写真:トヨタ自動車)

その大きな理由のひとつが、デザイン性にあります。視線を左右に大きく動かさなくても目に入るフェンダーミラーは、視認性に優れる一方、フェンダー上に飛び出す形となるため、ボディの一体感を損ねます。また、輸入車の多くがドアミラーを採用していたため、ドアミラーに憧れを抱いていた人も多かったものです。1983年にドアミラーが解禁されると、またたく間に普及していきました。

また、「速度警告音」も規制緩和で消えた機能です。

  • 速度警告音は、高速道路での速度オーバーを警告するアラーム

    速度警告音は、高速道路での速度オーバーを警告するアラーム

1986年の規制緩和の前まで、普通乗用車は時速100㎞、軽自動車は時速80㎞を超えると、「キンコン」という「速度警告音」が鳴るのがルールだったのです。もちろん、そんなうるさい機能は誰も求めていなかったのでしょう。規制緩和と同時に、すぐに「速度警告音」は消えてなくなりました。

時代の流れで消えた装備には、「リトラクタブルヘッドライト」があります。これは、消灯時はヘッドライトを格納しておき、夜間など、必要なときだけヘッドライトが出てくるというもの。

  • ヘッドライトの開閉で印象が変わるのもリトラクタブルヘッドライトの特徴(写真:鈴木ケンイチ)

    ヘッドライトの開閉で印象が変わるのもリトラクタブルヘッドライトの特徴(写真:鈴木ケンイチ)

1960~1990年代にかけて、スポーツカーを中心に大いに流行りました。ところが、歩行者保護の規制が厳しくなったことや、日中もヘッドライトを点灯するデイライトランニングが導入されるなど、リトラクタブルヘッドライトを取り巻く状況が悪化。もともとコストの高い機構ということもあったためか、2000年代になると、あっという間に消え失せてしまいました。

また、2000年代の日本は国を挙げて禁煙に力を入れた時期でもあります。それに伴い車内でタバコに火をつけるための「シガーライター」は、徐々に数を減らすように。

  • シガーライターを押し込んで一定時間が経つと熱せられてタバコに火を付けることができるように

    シガーライターを押し込んで一定時間が経つと熱せられてタバコに火を付けることができるように

今では12Vの電源供給用にアクセサリーソケットは存在しますが、そこにはめ込むシガーライターは、ほぼ絶滅危惧種になっています。大多数の車種で、オプション扱いになりました。

時代が変われば機能や装備も変わる

今回、紹介した機能や装備は、歴史の波に消えたモノとして言えば、ごく一部でしょう。また、現在ある機能や装備も、時の流れとともに、やはりいくつもが消えていくはずです。そして、一方でこれまでになかった新たな機能や装備が生まれています。消えるものがあれば、追加されるものもある。だからこそ、クルマの機能や装備は、いつでもフレッシュで興味深いのかもしれません。

(文:鈴木ケンイチ 編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

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