歴史ある会社のシンボル。カバヤ食品の「カバ車」
会社にシンボルがあるというのは、企業にとって大事な「顔」がある、ということ。今から半世紀以上も前、戦後すぐにカバヤこと「カバヤ食品」に「カバ車」というシンボルが生まれました。
戦後、話題になった宣伝車
1946年12月、カバヤ食品はキャラメル製造で創業しました。「カバヤ」という名称は、動物のカバに平和なイメージがあり、大きな口でたくさんものが食べられるから。戦後、これからの未来に平和を託す名称です。
そんなカバヤ食品のキャラメル、大人気商品となりましたが、その一助がカバ車の存在です。
カバ車が生まれた背景には、当時の会長の子どもたちへの優しさがあります。戦後、動物園といっても動物は少なく、本物を見る機会が少なかったそうです。そのため、1952年3月、あえて本物のカバそっくりな形の宣伝カーを作りました。
シャシ―はトヨタ「トヨペットトラック1000㏄」、当時の価格で1台125万円。広島県にいた高い板金技術を誇る職人が、カバの写真を参考に鉄板を打ち出したそうです。1台ずつ手作りのため、骨組みは同じでも顔のしわや尻の凹凸などが違っています。
1953年には、1頭の子カバをドイツから購入。「カバ子」と名付け、水槽付きのトラックに乗せて西日本の動物園を中心に周遊。本物のカバはとても珍しく、カバ子はすぐに人気者になりました。このカバ子の旅はカバ子の成長とともに1955年に終了。カバ子はその後、池田動物園(岡山市)に預けられ、1956年11月に到津遊園へ引っ越し、さらに1962年3月には金沢動物園へ移動、最後はいしかわ動物園へ移り2010年まで生きました。
一方カバ車ですが、こちらは15台ほど製造され、キャラメルの宣伝活動で北海道から鹿児島県まで周りました。1955年頃には、商品の形をしたスピーカーからオリジナルソングを流し、当時の人気コンテンツだったそうです。
また、最後に製作した5台は、カバの口が開くようになり、太くて長い前歯、下上のあごの内側の造作にも工夫をしました。
しかし、テレビの普及により、広告の主流が宣伝カーよりテレビCMに移り、カバ車も1959年頃には姿を消してしまいました。
ある校長先生の提案で復活!
カバ車の復活は、2006年、尼崎市立工業高校の当時の校長・内藤先生からの一通のメールがきっかけでした。その内容は、「インターンシップによって、カバ車を復刻させたい。設計図があれば送ってほしい」というもの。ちょうどカバヤ食品の60周年という節目でもありました。
「いつかはカバ車を復刻させたい」という思いも社内にあったことから、記念事業の一環として、尼崎市立高等学校の校長会により組織された「尼っ子自立・NOニート推進協議会」と連携し、産学協同の製作プロジェクト「ドリームカー復刻プロジェクト」が発足。
2代目のカバ車は、トヨタ「エスティマ」(1997年式)をベースに、目、耳が動き、口が開くというもの。カバヤ食品のオフィシャルカラーである赤色を採用。デザインは、尼崎市立の高等学校の生徒から募集したそうです。
2010年には「カバ車・ガールフレンド製作実行委員会」が立ち上がり、全国の高校生を対象にデザインコンクールを実施。リボンをつけたデザインが採用され、トヨタ「エスティマハイブリッド」(2001年式)をベースに、翌年の4月に完成しました。
そして全国に向けて「復刻カバ車」と「カバ車ガールフレンド」の名称を募集。2011年6月に、「クッキーくん(復刻カバ車)」、「チョコちゃん(カバ車ガールフレンド)」と名称が決まりました。
「歴史の象徴であり、企業理念を思い起こすもの」
カバヤ食品にとってカバ車とは、「歴史の象徴で、カバヤ食品の理念を思い起こすもの」だそうです。
「終戦の翌年に設立されたカバヤ食品。物不足の時代とはいえ、『カバヤキャラメル』が爆発的にヒットしたのは、カバ車や「カバ子」を乗せたトラックのほか、箱の中のカードを集めてもらえる『カバヤ児童文庫』など、子どもたちがわくわくするような夢と希望を届けてきたから。復刻したカバ車も展示すると多くの人が笑顔になります。これからも設立時から変わらぬ子どもたちを思う気持ちを大切に、豊かさを届けるモノづくりを進めたいです」(カバヤ食品・広報)
子どもたちを笑顔に。半世紀以上経ってもカバの形をしたクルマにはそんな思いが込められています。
<取材協力>
カバヤ食品株式会社
https://www.kabaya.co.jp/
(取材・文:別役ちひろ/写真:カバヤ食品株式会社/編集:奥村みよ+ノオト)
[ガズー編集部]
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