「ひっかかる」標語を検証 東名高速の横断幕、その真意とは?

ここ数年、ネットでもたびたび話題になっている、東名高速道路にかかる神奈川県大和市・綾瀬市の横断幕。「70代を高齢者と言わない街 大和市」や「神奈川県のほぼ真ん中 綾瀬市」など、思わず「今の横断幕、見た?」と話題にしてしまうような標語が掲げられています。今回は各行政にその標語の真意や掲出の意図について伺いました。

<大和市>健康増進活動をドライバーにもアピール

  • 大和市の横断幕「70代編」

    大和市の横断幕「70代編」

大和市が「70代を〜」という横断幕を掲げたのは2018年7月。2009年に、人・まち・社会の3つで健康づくりを進めるという「健康都市」の宣言に端を発します。健康意識の普及・啓発に力を入れ、市の事業すべてを健康都市実現に紐づけて計画し、実施。チーム対抗で月間の平均歩数を競う「ウォーキンピック」や、がんのリスクチェックや健診案内などを提供するウェブサービスなどがあります。国内外からもこうした取り組みは高く評価され、WHOの国際会議でも市の取り組みを発表したことがあるそうです。

「70代を〜」というインパクトある標語は、2014年4月に行った「60歳代を高齢者と言わない都市 やまと」宣言を発展させたもの。あくまでこの世代の人々を「高齢者」と言わないというポジティブなメッセージで、「高齢者」に代わる呼称や何歳からが高齢者か、などは定めていないとのこと。この宣言は、多くの反応を呼び、特に東名高速道路の横断幕に関しては市も有効な媒体と考えていたようで、メディア・一般問わず多くの問い合わせがあったそうです。

<大和市>高速道路を降りて行ってみたくなる図書館

大和市内の東名高速道路には、もう一つ「年300万人来館 シリウス大和市図書館」(2019年12月25日から掲出)という、「図書館?」と引っかかる横断幕が掲げられています。以前は「日本一の図書館の街 大和市」という標語でした(掲出期間:2017年8月1日から2018年7月2日まで)。

  • 横断幕「図書館編」。赤く大きな文字で書かれた「図書館」が印象的

    横断幕「図書館編」。赤く大きな文字で書かれた「図書館」が印象的

2016年11月に開館した「大和市文化創造拠点 シリウス」は、図書館をはじめ、芸術文化ホール、生涯学習センター、屋内こども広場で構成されています。地下 1階から地上6階。西側 1~ 5階が図書館で、座席数はなんと951席! 図書館の本を館内どこでも自由に読むことができます。

  • 「大和市文化創造拠点 シリウス」の外観(写真:大和市)

    「大和市文化創造拠点 シリウス」の外観(写真:大和市)

開館後の1年ほどで累計来館者数が約300万人に到達。これを機に、東名高速の標語も刷新。2020年1月21日には累計1,000万人の来館を達成したそうです。他にも図書館施策に力を入れていて、最近では「図書館城下町 大和市」というキャッチフレーズも打ち出しています。

<綾瀬市>「この街を知ってもらいたい」という想いを凝縮

  • 綾瀬市の横断幕「子育て編」

    綾瀬市の横断幕「子育て編」

東名高速道路が綾瀬市に差し掛かるとそれぞれ標語が異なる横断幕を5種類見かけます。ちなみに横断幕の掲出は2015年10月から。一度標語が更新され、現バージョンになったのは2018年11月15日からです。

  • 綾瀬市の横断幕「ものづくり編」

    綾瀬市の横断幕「ものづくり編」

さまざまな調査から「知名度が低い」という結果が出てしまった綾瀬市。この課題を克服するため、何をアピールするかにポイントを置き標語を決定したそうです。

  • 綾瀬市の横断幕「朝採り野菜編」

    綾瀬市の横断幕「朝採り野菜編」

交通量の多い東名高速に横断幕を掲げることで、現在地が綾瀬市であることや、市の魅力を文字で見て意識付けする。そして、関東近県、ひいては全国の人へ綾瀬市の認知度を向上させることを目的に行われています。やはり気になるドライバーも多いのでしょう。SNSなどの反響も多く、綾瀬市としては一定の効果がある、と考えているようです。

<綾瀬市>市が誇る標語になった5つのポイント

・神奈川県のほぼ真ん中
神奈川県を地域別で表したとき、綾瀬市は「県央地域」に位置しています。市の位置がイメージしやすくなるのではないか、とこの標語が生まれたそうです。

・子育てしやすいまち

  • 幼児と乗れるレンタル自転車(写真:綾瀬市)

    幼児と乗れるレンタル自転車(写真:綾瀬市)

綾瀬市では、第1子を出産した人に対する子育て用品の購入費助成をはじめ、子育て世代をバックアップする事業が盛ん。幼児2人が同乗できる自転車のレンタルも行っています。

・ものづくりのまち

  • ものづくりでも特に自動車産業が有名(写真:綾瀬市)

    ものづくりでも特に自動車産業が有名(写真:綾瀬市)

綾瀬市は小規模ながら、自動車関連事業の企業が多く、その事業所数は県内4位。将来の市の工業の姿を「持続可能な社会を支える創造的ものづくりネットワーク都市」と設定し、ネットワークづくりや、産業の高度化と新産業の創出、人材育成、企業誘致に力を入れているそうです。

・朝採り野菜のまち

  • 「菜速 あやせコーン®️」(写真:綾瀬市)

    「菜速 あやせコーン®️」(写真:綾瀬市)

「菜速 あやせコーン®️」として販売しているトウモロコシやレタスは、夜明け前から収穫を始め、開店前の店頭に商品を並べる取り組みをしています。「菜速 あやせコーン®️」はなんと北海道からも出荷の要望があるとか。

・ロケのまち

  • 綾瀬市の横断幕「ロケ編」

    綾瀬市の横断幕「ロケ編」

上白石萌音さんと佐藤健さんが出演したドラマ「恋はつづくよどこまでも」 では、市役所敷地内にある中庭などがロケ地として使用されました。また、長瀬智也さんが主演した映画「空飛ぶタイヤ」でも、同じく市役所正面玄関が使用されるなど、ロケ地誘致に積極的に取り組んでいるそうです。「聖地巡礼」用の看板なども用意されています。

健康都市と図書館事業という二大柱でアピールする大和市。知名度アップを念頭に、市の魅力をどんどん打ち出す綾瀬市。どちらも交通量の多い東名高速道路を利用して、市政アピールに積極的に取り組んでいます。

<取材協力>
大和市政策総務課
大和市図書・学び交流課
http://www.city.yamato.lg.jp/

綾瀬市秘書広報課
https://www.city.ayase.kanagawa.jp/

(取材・文・写真:別役ちひろ/編集:奥村みよ+ノオト)

[ガズー編集部]

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