日本でたった3本の「100m道路」 名古屋市・久屋大通と若宮大通の歴史と今
中央分離帯が公園として活用されている道路
全国に3本ある100m道路の2本が名古屋市にある「若宮大通(わかみやおおどおり)」と「久屋大通(ひさやおおどおり)」。もう1本は、広島市にある「平和大通り」です。
「幅員100mだなんて、何車線あるの?」と思うかもしれませんが、片側3、4車線の道路です。では1車線の道幅がものすごく広い……わけでもありません。名古屋市の100m道路は「中央分離帯」が大規模な公園になっているのです。
「公園部分である中央分離帯が大きいため、市の職員になるまでは“幅100mの道路”とは知りませんでした」(担当者)
市の担当者がこう話すのも納得。名古屋市の住民でも、100m道路を知らない人がいるのでは。では、どこからどこまでが「100m」なのか。各大通の写真を交えて解説します。
名古屋のランドマーク・テレビ塔のある「久屋大通」
イチョウ並木が美しい、東西に走る「若宮大通」
幅100mの理由は、「キリがいい」から?!
では、なぜ100m道路が名古屋に2本整備されたのか歴史を振り返ってみましょう。
道幅100mという規格外の道路が生まれたのは、戦後まもない頃。名古屋市内は戦争で大きな被害を受け、東区や中区など中心部は空襲で区域の50〜60%が焼失したそうです。市は戦災復興計画の一環として、火災発生時の延焼防止、市民の避難場所確保、クルマ社会の適応のために計画されたのが100m道路の建設でした。
100m道路を発案したのは、かつて内務省名古屋土木出張所長だった田淵壽郎(たぶちじゅろう)という土木工学者。計画に対し、市民からは「飛行場でもつくるつもりか」「そんな広い道路はいらない」という声や、道路をつくるために墓地を集団移転させることへの批判が出ていたそうです。
ちなみに、なぜ「100m」だったのか? 実は「100という数がきりがよい」からなのだとか。これは名古屋計画局『戦災復興誌』の座談会に書かれている記述ですが、今のような交通量調査や資料もなく、勘で決めたというから驚きです。
全国7都市で計画されていた100m道路
当初は東京、川崎、横浜、名古屋、大阪、神戸、広島の7都市、合計16本建設される予定だった100m道路。しかし、国の財政などの変化を受けて戦後復興計画は見直され、計画は大幅に縮小。名古屋市は戦後早い段階から復興計画の策定に着手していたことが影響し、100m道路は1964年に完成。最終的に計画が実現したのは広島市を含めた3本のみでした。
田淵氏は、100m道路と同時に「主要幹線道路の幅員を50m以上にする」という計画も打ち出しました。戦前は大都市で36m、中小都市で25m程度が平均的な道幅だったので、大規模な計画かつ大胆なアイデアだったことが分かります。今日の名古屋市を象徴する「道幅の広さ」は、戦後復興下のまちづくりによって生まれたもののようです。
100m道路を主導した田淵氏は、最終的に名古屋市助役(現在の副市長)を務め、退任後も中部圏を中心とする地域社会の発展に貢献し続け、1966年に名古屋市名誉市民の称号が与えられるなど功績を讃えられました。
クルマの運行だけでなく、人が集う公園として活かされる道路
100m道路は見事に公園と融合し、街の憩いのスペースとなっています。復興計画を主導した田淵氏が見たら、きっと喜ぶ光景となっているのではないでしょうか。
「元々、防災道路としての目的を持って生まれたこともあり、今では公園付近にある民間企業や学校法人が、避難訓練の避難先として利用している実績が年に数回あります。クルマ通行のための道路というだけでなく、公園があるおかげで人が集い、名古屋市・栄地区のにぎわいづくりの一端を担っていると思います」(同)
一つ難点があるとすれば、歩行者は100m道路をのんびり歩くと一度に渡り切れない点でしょうか。最初の横断歩道は渡って公園を横切り、次の横断歩道に差し掛かる前に信号が点滅し始めてしまいます。事情を知っている名古屋人は、100m道路の横断歩道が青になると足早に歩き始めます。もしくは、2本目の横断歩道の手前でダッシュをして渡り切る人も……。名古屋を訪れた際は、ぜひそんな光景にも注目してみてください。
<関連リンク>
名古屋都市計画史
https://www.nup.or.jp/nui/information/toshikeikakushi/index.html
久屋大通公園(名古屋市ホームページ)
https://www.city.nagoya.jp/ryokuseidoboku/page/0000005015.html
若宮大通公園(名古屋市ホームページ)
https://www.city.nagoya.jp/ryokuseidoboku/page/0000058554.html
(取材・文・写真:笹田理恵/編集:奥村みよ+ノオト)
[ガズー編集部]
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