ブレーキランプはなぜ赤い? クルマの灯火の色のワケ

ブレーキランプは赤、ヘッドライトは白。保安基準に則った灯火色として当たり前に受け入れられていますが、なぜこれらの色が使われるようになったのでしょうか? 灯火色のルーツや、ランプを見やすく光らせる技術について、市光工業株式会社マーケティング部の方にお話を伺いました。

——クルマの灯火色はどのように決められたのでしょうか?

「自動車用ランプの使用色については、1858年3月にスイス・ジュネーブの条約で初めて決まりができました。『前方ランプは白色または黄色、後方ランプは赤色を使用しましょう』という、統一されたルールがそこから世界中に広まりました。さらにさかのぼって、クルマに色のついたランプが使われるようになった起源は、諸説ありますが、鉄道車両からきているのではないかといわれています。長い列車を思い浮かべてみると、どちらが前で、どちらが後ろなのかわかりにくいですよね。遠くから見た場合はなおさらです。

そこで1830年代頃から、列車がこちらに近づいているのか遠ざかっているのかをわかりやすくし、周囲の人々に危険を知らせるため、前方は白色、後方に赤色のランプが付けられるようになりました。その流れがクルマにもつながったといわれています」

例えば、もしクルマのランプが全て白色だったら……夜道でどちらを向いているのか、ブレーキを踏んでいるのか、どちらに曲がるのかといったことが周囲に伝わらず危険ですよね。クルマのランプに色がついているのは、先人の知恵が今日まで継承されてきた証といえるでしょう。

——なぜブレーキランプは赤色なのでしょうか?

「その理由についてはさまざまな研究があり、『赤色は光の波長が長いため目立ちやすい』あるいは、『人間に備わっている“赤色を認識する遺伝子”が、ほかの色を認識する遺伝子より多い』などの説が明らかになっています。ですが、鉄道車両に赤色のランプが付けられた当時は、その時代に生きる人々が実体験のなかで『赤色がいちばん目立つ』と結論付けていました。つまり、光の波長や遺伝子の研究結果ありきで赤色が選ばれたわけではなさそうだということです」

危険を知らせる灯火色として本能的に「赤」が選ばれ、のちに科学的な根拠が示されたとは、なんとも興味深いエピソードではないでしょうか。

また現在、「道路運送車両の保安基準」には「制動灯(ブレーキランプ)の灯光の色は、赤色であること」という項目が定められているほか、ヘッドライトやウィンカーなどの色も法令でこまかに指定されています。国の基準を満たさないランプがクルマに取り付けられている場合、法令違反に該当するため注意が必要です。

ランプの色でクルマの個性を主張するのは難しいですが、近年ではデザイン性を高めた「リアコンビネーションランプ」を採用する車種が増えています。保安基準の範囲内かつ、洗練された外観を実現する技術が気になるところです。

——「リアコンビネーションランプ」にはどのような技術が使われているのでしょうか?

「自動車用ランプはクルマを安全に走らせるための『機能部品』と呼ばれるものですが、近年ではヘッドライトやリアコンビネーションランプの形状、あるいは光り方そのものがクルマのデザインの一部として大きな役割を担っています。

自動車用ランプを設計する上で、まず重要になるのが『光源』の種類です。リアランプの光源はタングステンバルブが長らく主流となっていましたが、最近はLEDに移り変わってきています。光源から出た光を、物理の現象を使って屈折させたり反射させたりするのが、ランプをつくる技術の基本です。

現在のトレンドは、キラキラとした光り方をするものより、マットで均一な光り方をするランプ。キラキラとした光り方のランプは『プリズム』と呼ばれる技術を使って光をコントロールするのに対し、マットな光り方をするランプはすりガラスのようなシボレンズや乳白色レンズを使うことで光が多方面に飛ぶため、あらゆる角度から同じような見え方をします。ただし、光の量が多く必要となるため、光源の数も多くなります」

  • マットで均一な光り方をするリアランプ。デザイン性に優れながら、後続車からの視認性も向上させている

    マットで均一な光り方をするリアランプ。デザイン性に優れながら、後続車からの視認性も向上させている

——光の量を増やすために光源を多くすると、そのぶん消費電力も増えませんか?

「もちろん増えます。機能性とデザイン性を両立しながら、いかに電力を抑えられるかが、ランプを設計するうえで重要なポイントのひとつでもあります。そこで現在は『導光(ライトガイド)』を利用したランプも登場しています。

これは光ファイバーの仕組みを使ったもので、ガラスや樹脂でできたチューブの一端から光を入れると、内部で『内面反射』という現象が起こります。するとチューブの外へ光が逃げないため、光源側の入り口から反対側の出口まで光が届く仕組みです。たとえば、長い形状のランプなどで光らせたい範囲が広い場合、光源を増やさず効率的に点灯させることができるわけです」

  • 写真左側にあるLEDを光源として、ライトガイド(導光棒)の内部で光の反射が起こる

    写真左側にあるLEDを光源として、ライトガイド(導光棒)の内部で光の反射が起こる

科学技術の進歩とともに、ランプの色や光り方も進化

先に紹介した「導光(ライトガイド)」は、光源としてタングステンが主流の頃には樹脂製のチューブが熱に耐えられず実現が難しかったそう。光源の進化に伴ってランプの新たな光らせ方も開発されていくため、最近では「有機EL」を使った自動車用ランプも実用化されているといいます。さらに話題を灯火色に戻すと、将来的な自動運転車の普及に合わせて「自動運転中であることを周囲に知らせるランプ」の搭載についても国際的な検討が始まっているとのことで、ランプの光り方や色の展望に今後も注目したいところです。

<取材協力>
市光工業株式会社
https://www.ichikoh.com

<関連リンク>
国土交通省
https://www.mlit.go.jp/index.html

(取材・文:吉田奈苗/写真:市光工業株式会社/編集:奥村みよ+ノオト)

[ガズー編集部]

コラムトップ

MORIZO on the Road