昭和の大衆車に会える! 岐阜県土岐市の「駄知旧車館」

1950年代から90年代の車を完全復元して展示する「駄知(だち)旧車館」。この施設は、岐阜県土岐市と多治見市でダイハツやマツダ、ボルボのディーラーを展開し、自動車整備を行う中根モータースが作った私設博物館です。板金・整備スタッフの技術向上の一環としてレストア(旧車を復元)した車両を室内で展示し、一般公開しています。館長の中根眞人(まひと)さんに駄知旧車館ができるまでの経緯や思い、整備の工場長・正村勇毅(ゆうき)さんにレストアのエピソードを伺いました。

スタッフの修理訓練の一環としてスタート

岐阜県土岐市の駄知地区は、陶磁器の産地として丼食器の生産が盛んな山間の街です。その地で1956年に創業した中根モータースは、約20年前から業務で行う修理訓練の一環として、古い自動車の復元整備を始めました。旧車整備は、商売としては受注しておらず、全て研修のために引き取られています。経験の浅い若手スタッフが仕事の合間に修理を進め、年間2~3台ほどのペースでレストアしています。

「板金・塗装の技術の高い人を育てよう、という思いから始めました。旧車の修理は技術を伸ばせるので、定年退職者を含む先輩たちが若いスタッフを養成しています。やっぱりクルマを好きな人が入社してくれているから、若い人はみんな楽しいと言っていますよ」(中根館長)

廃車レベルの旧車ばかりですが、新車を目指して一から造り直します。塗装を剥がし、すべて分解してみないとどこが悪いのか分からない状態なのだとか。入手困難なパーツは型から自作するなど高い技術レベルがあってこそ成し得る復元レベルなのです。

「旧車だから現状では手に入らないパーツがほとんど。合うパーツを探したり、工夫して作ったり、知恵を使うことが研修。それが面白い。整備士の技術は確実に伸びましたね」(中根館長)

現在も、若い人へ技術が受け継がれている中根モータース。工場長として長年現場で整備に携わる正村さんは、「クルマは文化財」だと話します。

「庶民の足として使われていたクルマを直しているので、懐かしい車種が多いですね。若い頃を思い出したり、父親が乗っていたり、クルマは流行歌と一緒でタイムスリップする道標。売る目的ではなく研修のためなので、ひどい状態のクルマにもチャレンジし続けています」(正村工場長)

ベースとなるクルマの多くは、地域の人や元オーナーから協力を得て寄贈されたもので、昔はごく普通に街を走っていた車体ばかり。愛着を持って大切にされてきたクルマたちを、整備スタッフの作業によって生まれ変わらせています。

昭和の風景がよみがえる 懐かしの名車たち

駄知旧車館では、20年近く続けた研修の成果として新車さながらに生まれかわった約60台の旧車がお披露目されています。元は陶器倉庫だった建物で、ボーリング場のレーンの床を使用するなどできるだけ古材を利用してリノベーションされました。入館料は無料。開館日は月に一度(原則第1日曜、1月、8月は休館)ですが、クルマ好きの名所として、全国からここを目指して足を運ぶ人がいるのだとか。訪れる人それぞれに歴史があるように、懐かしみ感動する車種は異なるのだと、館長は話します。

では、館内で展示されているクルマをいくつか紹介します。

  • トヨタ クラウン(RS31型、1961年式)

トヨタ自動車が、1955年に送り出した初代クラウンRS30の後期型。国外メーカーとは提携せず、米国車のコンポーネントを手本としながら、純国産設計で開発されています。後部座席の乗り降りのしやすさを重視した「観音開き」のサイドドアが車体構造上の特徴です。排気量は1453cc、出力は48ps。

  • ダットサン・ブルーバード(P311型、1961年式)

ダットサン系の本格的な量産型乗用車として、乗り心地、操縦性ともに著しく向上して人気車種となった初代「青い鳥」。ボディタイプは、4ドアセダンのみ。展示車は、デビュー翌年のマイナーチェンジ後のモデルです。レストア前は腐食がひどく、バンパーすら無い状態でした。型取りしてパーツ複製などほとんどを作り直したことで工場長・正村さんにとっても印象に残る一台なのだとか。

  • 日産・ローレル 2000SGX(KHC130型、1972年式)

法人ターゲットの高級車ではなく大衆車でもない、ハイオーナーカーという新ジャンルを開拓したローレル。ボディバリエーションは、4ドアセダンと2ドアハードトップ。プラットフォームはC110型スカイラインと共通ですが、独特のリアビューはユニークな形状。展示車は、直列6気筒SOHCツインキャプ付L20型エンジンを積む最上級グレードの車体です。

庶民の生活に寄り添ってきた商用車と軽自動車

世代によっては、映画の中でしか見たことがないような車体も並ぶ館内。昭和の時代に、庶民の足となり生活を支えてきたクルマたちです。

  • ダイハツ 三輪トラック(CM8型、1966年式)

今や見かけることがない三輪トラック。1950〜60年代は、ダイハツ、マツダ、くろがね、オリエントなどさまざまなメーカーで販売され、1957年頃には10万台以上が生産されていました。しかし、安定性や乗り心地などの面で四輪トラックに移行。CM8型は、全長4475mm、全幅1700mm、最高速度は時速100km、最大積載量は1500kg。総排気量は、1490ccのモデルです。

  • ダイハツ ミラパルコ(L70型、1989年式)

  • 80~90年代を彷彿とさせるシートデザイン

商業施設のパルコとコラボレーションして、女性向け仕様の車種が登場しました。シートに「PARCO」 のロゴが入っており、内装デザインもスタイリッシュに。エアコン、パワーステアリング、サンルーフ、ATなど、当時の軽自動車では不要と考えられていた装備が搭載された仕様も登場。まだまだ女性が一人一台の車を持つのが珍しい時代に発売され人気となった車種です。

  • 館長の中根眞人さん

昭和の国産車のアーカイブとして貴重なミュージアムとなっている駄知旧車館。現在も次々と名車たちが復活を遂げているため、今後も展示車は増えていく予定です。昭和の街を走っていたクルマたちに会いたくなったら、一度足を運んでみてください。

<関連リンク>
駄知旧車館
https://kyushakan.com/

(取材・文・写真:笹田理恵/編集:奥村みよ+ノオト)

 [ガズー編集部]

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