「タイヤに窒素ガス」ってどんな効果があるの? ホントのところを聞いてみた

日常点検項目である空気圧チェックについて、ガソリンスタンドで「空気圧チェックしましょうか?」と聞かれた方も多いのではないでしょうか? 同時に「窒素ガス充填」を勧められた方もいるはず。窒素ガスは、空気と違って“抜けにくい”というのが売りですが、その効果のほどは?

そこで、窒素ガス充填にまつわる疑問を、株式会社ブリヂストンでグローバル技術スポークスパーソンを務める川本伸司さんに聞いてみました。

「窒素は抜けにくい」と言われるワケ

窒素ガスをタイヤに利用するメリットの前に、空気と窒素ガスのそもそもの違いについて説明していただきました。

「小中学校の理科の教材にもありますが、通常の空気にも窒素は含まれています。空気は窒素(N2)が約78%、酸素(O2)が約20%、そのほかにアルゴン(Ar)や二酸化炭素(CO2)などで構成されています。窒素は不活性ガスで分子の動きが遅いため、気体が膜状の物質をどれくらい通り抜けるかを表した透過係数が小さくなります。また、空気中には水分も含まれており、その水分は温度などの環境変化によって大きく膨張または収縮する(体積が変化する)特徴があります」(川本さん)

こうした特徴の違いから、空気ではなく窒素ガスのみをタイヤに充填するアイデアが生まれたというわけです。

「空気と違い、窒素ガスは透過係数が小さいので、空気圧が下がることを抑制できます。また、水分も含んでいないため熱による体積変化も小さく、タイヤ内の空気圧変化を抑えることができます」(川本さん)

空気圧変化が小さいためタイヤ特性の変化が少ない、またメンテナンスが楽になるということから、空気よりも窒素ガスの方がメリットは大きいわけですが、だからといってメンテナンスをおろそかにしてはいけません。

「窒素ガスを充填していても、タイヤ内部のガスは抜けていきますから、定期的な内圧チェックは欠かせません。具体的には通常の空気は1カ月で、タイヤ全体のガスの3〜5%が抜けていきます。それに対して窒素ガスを使用した場合、抜けていくのは空気の1/2〜1/3といったレベルです」(川本さん)

窒素ガスは抜けていく時間が遅いので、定期的にチェックすればタイヤの内圧が低い期間が短くてすみ、偏摩耗や燃費の悪化を防ぐことができるそう。窒素ガスを充填していても、2カ月に一度程度は、内圧チェックをしておきたいですね。ちなみに、窒素ガスでも内圧は空気のときと同じでいいそうです。

窒素充填は500円/本程度のお金がかかる

ここまで窒素ガスを充填するメリットを聞いてきましたが、デメリットはないのでしょうか?

「タイヤやクルマにとってのデメリットは、ほぼないといっていいでしょう。窒素ガス充填で唯一、デメリットといえるのは、充填にお金がかかることですね。窒素ガスは、タイヤショップやガソリンスタンド、カー用品店などで充填できます。店舗によって料金は異なりますが、タイヤ1本につき約500円程度の料金がかかります。クルマ1台分だと約2,000円程度ですね。空気は無料の場合が多いですから、この金額をどう考えるかです」(川本さん)

1本あたり約500円を高いと見るか安いと見るかは、それぞれの価値観によりますが、2回目以降は安くなる店舗もあるかと思いますので、確認が必要ですね。

窒素ガスの利用は航空機からだった

川本さんにお話を聞いていると、タイヤに窒素ガスを充填するようになったのはクルマが最初ではないことがわかりました。航空機のタイヤでは、古くから窒素ガスが使用されていたそうです。

「航空機のタイヤに窒素が使用されている理由は3つあります。1つ目は、航空機のタイヤは、温度変化が激しいためです。地上では時速300キロ以上の摩擦熱に耐えつつ、上空ではマイナス50度まで気温は低下します。温度の変化が大きいため、通常の空気では内圧を一定に保つことができないのです。2つ目は、空気中の酸素によって発生するサビを防ぐこと。航空機のタイヤは、摩耗したあとに表面だけを張り替える“リトレッド”を行うため、タイヤの構造材に使用されている金属やホイールを長持ちさせる点からも窒素ガスが使われています。3つ目は、不慮の事故が発生したときに『酸素がないと火元とならない』という安全面もあります」(川本さん)

また窒素ガスは、自動車の世界で私たちが乗る乗用車だけでなく、モータースポーツ(SUPER GTなど)でも使われているとのこと。

  • (写真:株式会社ブリヂストン)

「モータースポーツの世界は、内圧管理が非常にシビアです。そのため高温による内圧の変動が少ない窒素ガスが用いられています。」(川本さん)

今まで何となく、「ガスが抜けにくい」という認識でしかなかった窒素ガス。こうした科学的な面から考えてみると、そのメリットがよりありがたく感じられそうです。空気と違って充填に少々お金はかかりますが、まだ充填したことがない方は、一度試してみてはいかがでしょうか?

(取材・文:西川昇吾/写真:株式会社ブリヂストン、西川昇吾/編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

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