ショッピングセンター内でクルマが買える「オートモール」って? カラフルタウン岐阜をレポート

岐阜県岐阜市の「カラフルタウン岐阜」は、日本では珍しいクルマの販売形態「オートモール型」を取り入れているショッピングセンターです。洋服店や飲食店の向かいに新車をずらりと並べ販売する珍しい光景が広がっています。しかも、施設内にクルマの整備工場が併設されているため、買い物や映画を見ている間に、クルマのアフターサービスが利用できる便利さも。カラフルタウン岐阜の成り立ちやオートモールについて同施設を運営するトヨタオートモールクリエイトの代表取締役社長の河合利夫さんと、オートモール企画部の西村進さんにお話を伺いました。

「クルマのある暮らしの楽しさ」を発信する大型商業施設

約13万㎡の敷地にトヨタ・ダイハツの新車販売店5店舗と衣料・雑貨・飲食の専門店が約130店舗入るカラフルタウン岐阜。元々この場所は、トヨタ紡織工場跡の遊休地でした。活用方法でさまざまな議論が行われた末に決定したのは、トヨタ自動車らしさを生かし、「クルマのある暮らしの楽しさ」を発信できる、自動車販売店を併設した大型ショッピングセンターの開発。施設の企画・運営・管理を担う会社として99年にトヨタオートモールクリエイトが設立され、2000年にカラフルタウン岐阜がオープンしました。

販売店チャンネルの枠組みを超えてトヨタとダイハツのクルマが勢揃いし、買い物のついでにクルマを見られるという新しい販売スタイル「オートモール」の形態は、カラフルタウン岐阜が日本初の試みでした。

「1990年代、クルマの販売店の多くはロードサイドにあり、お客さまにとっては敷居が高く入りにくい場所で、“入ったらクルマを買わされてしまいそう”といったイメージをどう是正していくかの課題を販売店が感じていた頃でした。インターネットが生まれ、クルマの販売環境が変わりゆく中で、クルマを気軽に見て、触って、購入できる施設として生まれたカラフルタウン岐阜。当時は、販売チャンネルごとに取り扱う車種が異なっていたため、トヨタのクルマが一堂に会する貴重な場所となりました」(河合社長)

当時は、大規模小売店舗法(大店法)が廃止される前でモール型の大型商業施設が珍しい時期でしたが、2000年の初年度には計画を大きく上回る810万人の来場を達成し、新車受注台数は1,600台強を記録しました。その後、07年に横浜市でトヨタ自動車が物流拠点として使用していた遊休地を活用した大型ショッピングセンター「トレッサ横浜」がオープン。06年には大阪府八尾市の「アリオ八尾」内に大阪オートモール(現・大阪トヨタ)、08年には埼玉県越谷市の「イオンレイクタウン」内に埼玉オートモールをオープン。すべて買い物のついでにクルマに見て、触れて、購入できるオートモール形式を取り入れた施設です。

4つのオートモールの累計販売台数は、約10万台。カラフルタウンは、年間平均約1,500台、トレッサ横浜は年間平均約2,000台とロードサイドの販売店と比較しても売上規模は格段に大きい状況で、売上推移も安定しているそうです。

「2000年以降は大店法の廃止によりショッピングモールが増え、リーマンショックの影響もあり、商業施設の売上や来場者数は一時期落ち込みました。しかし、クルマの販売台数は落ちることなく、安定的な売上を保てています」(河合社長)

ロードサイドの販売店とは異なり、顧客に対する個別の営業活動を行わないのも特長。プレッシャーなくクルマを見られる環境は好評で、いずれクルマを買いたいが予定を立てられない人や新型モデルが気になって一度見てみたい人も気軽に足を運べます。

「新規でクルマを買ってくださるお客さまが多いのも特長です。施設の開業時は、新規のお客さまだけでスタートし、2020年実績では4.6割は新規のお客さまにご購入いただいています。初めてクルマを購入する方や他メーカーのお客さまが足を運んで買ってくださることも多いですね」(西村さん)

車検中に映画を見られる「シネマ車検」も人気

  • 各販売店の後ろに並んでいる整備工場

そして、オートモールのさらなる特長は、自動車整備工場を併設している点です。現在、大型ショッピングセンターでクルマを販売する施設は他社にもありますが、大型商業施設一体型で自動車整備のサービス工場があるのは同社の4施設のみ。点検や車検の待ち時間での買い物や、車検時に館内の映画館で使える鑑賞チケットをもらえる「シネマ車検」のサービスも大人気。

「点検に出している間の2~3時間で買い物する方が多いので、“クルマのメンテナンスのために訪れる場所”といった印象は少ないかもしれません。シネマ車検では、映画を見終わったら車検が完了していますし、時間の有効活用ができるのは大きなメリットだと思います」(西村さん)

他にも「クルマのある暮らしの楽しさ」を発信する仕掛けは満載。例えば、各販売店は通路から地続きになっていて仕切りを設けておらず、クルマを眺めながら通路を歩いていたら、自然と販売店に入っているような工夫が。買い物後にカートを押しながら歩く人が自然にふらっと販売店に入るのは日常的な風景になっています。

また、施設内には岐阜トヨタ、岐阜トヨペット、トヨタカローラ岐阜、ネッツトヨタ岐阜、岐阜ダイハツの5店が並んでいますが、各販売店の垣根がないのも特長です。

「販売店同士は互いに競い合うだけではなく、お客さまが違う色やモデルを見たい場合には他の店舗へお連れして紹介しています。現在はトヨタ自動車が全社併売するスタイルなので、ロードサイドの店舗でもさまざまな車種が見られますが。販売店ごとに色やモデル違いを揃えていますし、ほとんどのトヨタのクルマを幅広く見られるのではないでしょうか」(西村さん)

  • 1周200mの試乗コースも完備。営業スタッフが同乗しなくても試乗可能(写真はリニューアル工事中)

また、子どもがクルマに親しむ仕掛けも。1階の「みんなのトイレ」には、クルマ型の子ども用トイレを設置。便器の前にハンドルがあり、子どものトイレ時間が楽しくなりそうですね。

地域貢献のためにモビリティサービスを提供する

オートモールや商業施設としてのニーズにとどまらず、地域貢献に対する働き掛けも積極的に行うカラフルタウン岐阜。地域社会の形成や市民のより良い生活を実現させるための取り組みを行っています。

同施設内の移動手段として活用されているのは、アイシン精機の移動パートナーモビリティ「ILY-A(アイリ―エーアイ)」。広大な施設を歩くのが大変なシニア層だけでなく、1.5人乗りのため子ども連れの家族にも大人気。押して使うカートモードでは、一度にたくさんの荷物を運ぶこともできます。

また、同社が運営する「チョイソコカラタン」は、地域住民の外出を応援する新しい移動手段として、指定停留所で乗降する乗り合い送迎サービスです。市内では高齢化や運転士不足を背景に、持続可能な地域公共交通の構築が急務となっているという背景があり、実証実験の一環として貢献しています。運賃は、乗車ごとに250円(小学生以下100円、1歳未満の乳児無料)で、会員登録は無料。地域の医療機関の停留所もあり、利用者が医療機関を受診する際は先行して予約ができます。

「商業施設の超小型モビリティは20年3月から、地域の乗り合い送迎サービス・チョイソコカラタンは21年4月から運行がスタート。私たちは地域のお役に立つという、トヨタのスピリットそのものを受け継ぎながらやってきました。開業当初とクルマの販売形態や商業施設の様相は変わっている状況ですが、これからはモビリティで地域の人のお役に立ちながら個性を出していきたいですね」(河合社長)

「クルマのある暮らしの楽しさ」の発信は、単なるクルマの販売だけではなく、地域住民の足となり、生活を豊かにするモビリティサービスに発展しています。これからもカーライフの楽しさを伝えながら、新しいモビリティサービスの提案を続けていくカラフルタウン岐阜。ぜひ一度足を運んでみませんか。

<取材協力>
カラフルタウン岐阜
トヨタオートモールクリエイト

(取材・文・写真:笹田理恵/編集:奥村みよ+ノオト)

[ガズー編集部]

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