進化し続ける「アスファルト」最新事情
道路の舗装に使われるアスファルト。一見変わっていないように見えても、さまざまな面で機能が進化しています。「排水性舗装」と呼ばれる高機能なアスファルトをはじめ、日本独自の技術や今後の展望について、一般社団法人 日本アスファルト協会のアスファルトゼミナールに登壇されている、国立研究開発法人 土木研究所 道路技術研究グループ グループ長 久保和幸さんにお話を伺いました。
水はけを工夫したアスファルト舗装の構造はあのお菓子にそっくり!
――「排水性舗装」とはどのような舗装でしょうか?
一般的なアスファルト混合物による舗装は、細かい砂と石を配合し、それをアスファルトでコーティングすることで飛び散らない構造をしています。砂と石がギチッと締め固まるので硬さが増し、水も通しません。これが基本的なアスファルト舗装です。
一方、「排水性舗装」は、中間粒径と呼ばれるサイズの砂や小さめの石を取り除き、基本的には大きめの石だけを使ってアスファルトでコーティングをします。和菓子の「雷おこし」のような構造を想像してもらえるとわかりやすいと思います。
すき間なく固めるのではなく、あえて石と石の間に空域をつくることで、水が通りやすい構造になっているわけですね。
――――昔と今で、アスファルトの構造にどんな違いがありますか?
アスファルトを接着剤として石をくっつけるのがアスファルト舗装ですが、石と水は相性がよく、石とアスファルトの間に水が入ると接着剤役のアスファルトがペリペリと剥がれ、舗装が壊れてしまいますので、舗装には水を入れない。これが30年前の常識でした。
現在の日本では、石のまわりを皮膜するアスファルトの強度を飛躍的に高め、石から剥がれないようにして舗装を壊れにくくしています。いまでは高速道路の90%以上が排水性舗装を採用しているほど、たしかな実績も証明されています。
――――海外との違いはありますか?
アスファルト混合物自体のベースは諸外国と同じですが、日本では添加剤ポリマーと呼ばれる高分子材料をそこにうまく配合することで、とても強度の高いものをつくっています。
日本は世界的に見て、SBS(スチレン・ブタジエン・スチレン)と呼ばれる改質剤をアスファルトの中に均等に混ぜる技術が高く、全体の7%~10%ほど入れているのですが、それを海外の人に説明すると「アスファルトの中でそれほど大量の添加物が均等に混ざるはずがない、クレイジーだ」とよく言われます。
日本では舗装工程以前の、アスファルト混合物をつくる段階で世界の常識から並外れたことをしているとはおどろきですよね。
都市構造にカーボンニュートラル。時代が変われば舗装も変わる
――――今後、アスファルト舗装はどのように進化していくのでしょうか?
東京の話でいえば、歩道には「透水性舗装」が採用されています。排水性舗装の場合は、水がアスファルトの表面に入ってきても、表面の5cmで横方向に排水しますが、透水性舗装はその下層まで水が入っていく構造です。
これにより、街路樹へ水やりができるようになっています。こうした「都市の中で、道路が空間として果たすべき役割」を考え、これからも取り組んでいくことになるでしょう。
またカーボンニュートラルについても避けられない課題です。電気自動車の無線給電するためのパネルを舗装に埋める取り組みが検討されています。舗装について詳しい立場にいるわれわれが「どんな材料ならアスファルトに埋めても大丈夫なのか?」と考えたり、ときには無線給電装置の開発側と一体になり、「パネルの形状をもっと工夫したら耐久性がよくなるのでは?」と意見を交換したりして、より快適で便利な道路をつくるための取り組みをしていきます。
「物流を支える構造物としての舗装」という考え方から、「路面として世の中にどう貢献していくか」という考え方に、舗装技術者の視点を変えていきたいですね。
人々やモノの移動を支える道路は、安全性を高めてつくられているだけでなく、都市構造のなかでも重要な役割を果たしています。今後、地球環境の変化や科学技術の発展によって、アスファルトがさらに進化し、まったく新しい舗装方法が導入される日がくるかもしれません。時代とともに変わりゆく「舗装」にはなかなかに趣深い世界が広がっています。
<参考リンク>
一般社団法人 日本アスファルト協会
(文:吉田奈苗 編集:奥村みよ+ノオト)
[GAZOO編集部]
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