bBにモコ、フローリアン……『車名博物館』の著者にユニークな由来の車名を聞いた

  • いすゞのフローリアン

車種によってデザインやキャラクターがさまざまであるように、“クルマの名前”にもそれぞれの個性があります。また、その意味や由来を調べてみると、そのクルマが生まれた背景や狙いを知ることも。ユニークな由来からつけられた名前も、少なくありません。

そこで、 “クルマの名前”に魅力を感じ、『車名博物館』の著書がある吉川雅幸さんに、特にユニークな由来を持つ車名を厳選して教えてもらいました。

 

トヨタbB

  • トヨタのbB

2000年に発売されたトヨタ「bB」は、コンパクトカーの「ヴィッツ」をベースに作られたハイトワゴンです。小文字と大文字からなるアルファベット2文字の車名もユニークですが、そこにはトヨタのメッセージが込められてました。

「bBにはブラックボックスの意味があり、『未知の可能性を秘めた箱』『トヨタが作り出した新しいジャンルのクルマ』という思いが込められています。2000年の東京オートサロンで初公開されたのですが、トヨタの名を掲げず『bBプロジェクト』として出展され、事前情報の段階から『何が出るんだろう?』と話題を呼びました。bBと頭の文字が小文字になっているのは、未知の雰囲気を伝えるためで、bBというアルファベット2文字は開発時から使用していた社内のニックネームだそうです」(吉川さん)

 

日産 モコ

  • 日産のモコ

2002年に日産ブランド初の量産軽自動車として登場した「モコ」。スズキ「MRワゴン」のOEMモデルでしたが、現在の「デイズ」や「ルークス」へとつながる、日産にとっての大きな意味のある1台となりました。

「モコは日産で販売する初めての軽ワゴンであり、また若い女性をメインターゲットとしたことから、それまでの日産にはないイメージが求められました。そこで選ばれたのが、擬態語のモコモコを由来とするモコという名前です。当初は別の名前の候補に挙がっていたそうですが、当時の社長により却下されたとか。その後、女性の担当者が『このクルマ、モコモコしていてカワイイ!』と言ったことから生まれた案が選ばれて、モコとなりました」(吉川さん)

 

三菱 ミニカトッポ

  • 三菱のミニカトッポ

三菱の軽自動車セダン「ミニカ」の派生車種として「ミニカトッポ」が登場したのが、1990年。見ての通り、軽自動車セダンのルーフをグンと高くした“超ハイルーフ”とも言えるプロポーションがユニークな1台です。

「トッポという名前は、『トップ(屋根)がノッポ=トッポ』から来ています。今でこそ当たり前となった背の高い軽自動車はこの時代まだめずらしく、社内では反対の声もあったそうです。しかし、商品企画を担当した相川哲郎さんは、『これからの軽はスペースが重要になる』と、このクルマを提案しました。トッポという響きは、トールボックスキャビンの愛嬌あるスタイリングを親しみやすく表現していますね。ちなみに、商品企画の相川さんは、のちに三菱自動車の15代目社長となっています」(吉川さん)

 

スバル プレオ ニコット

  • スバルのプレオ ニコット

1998年に登場したスバルの軽ハイトワゴンが「プレオ」で、「ニコット」はプレオのフロントマスクを変更した派生モデルで、どことなく往年の「スバル360」のようにも見えます。

「ニコットは、プレオの発売からおよそ2年後の2000年に追加されました。名前の由来は、ズバリこのデザインにあります。専用に作られたエクステリアデザインは、まるで“ニコッ”と微笑んでいるかのようですよね。メーカーのプレスリリースにも『にこっとした微笑みをイメージしネーミング』と、書かれています。これほどまでに単純明快で個性的なネーミングは今までにないですね」(吉川さん)

 

スズキ ジムニー

  • スズキのジムニー

本格的なオフロード走行ができる軽自動車としてはもちろん、アウトドアギアのような“道具感”ののあるデザインからも人気のスズキ「ジムニー」。1970年から続く、ロングネームです。

「ジムニーの由来は、オフロードカーの代名詞『JEEP』と、“小型の”を意味する『MINI』との造語だというのが、有力な説。MINIではなく、“ちっちゃな”を意味する『TINY』だという説もあります。もともとはホープ自動車が開発し『ホープスターON型』として誕生したクルマでしたが、わずか360㏄のクルマが富士山を登っていく映像を見た若き日の鈴木修前会長が惚れ込み、製造権を買い取って、のちにジムニーとなりました」(吉川さん)

 

日野ポンチョ

  • 日野自動車のポンチョ

2002年に日野自動車から発売された「ポンチョ」は、コミュニティバスなどに使われる小型のバス。現在は、2006年に登場し、さまざまな改良が施された2代目が販売されています。

「ポンチョと聞くと雨具のポンチョをイメージする人が多いかもしれませんが、このクルマの名前の由来に雨具のポンチョは関係ありません。音感や耳馴染みがいいことからこの名前が選ばれた可能性はありますが、ポンチョという名前は“ポンと乗って、チョこっと行く”の略です。市内を循環するようなコミュニティバスとして開発されたポンチョは、まさに『市民がポンと乗って、チョこっと移動する』という、開発コンセプトがそのまま名前に表れたクルマです」(吉川さん)

 

いすゞ フローリアン

  • いすゞのフローリアン

最後に紹介するのは、今回取り上げた中でもっとも古い1960年代の乗用車「フローリアン」。現在、トラック・バスの商用車専門メーカーとなった、いすゞ自動車のクルマです。吉川さんは、フローリアンという車名について「クルマの名前として最高だ」といいます。

「フローリアンは、1967年に上級指向の小型サルーンとして登場したクルマで、高級感と画期的な安全設計が特徴でした。車名の由来は1934年に出版された『白馬フローリアン』という物語にあります。フローリアンは物語の主人公である白馬の名で、聖フローリアンの日に生まれたことにちなんでつけられました。フローリアンはオーストリア皇帝の愛馬として輝かしいときを過ごしますが、第一次世界大戦が勃発。辻馬車を引いたあと、農村で余生を過ごします。しかし、そんな中でもフローリアンは、毅然と気高く生き続けたのです」(吉川さん)

まさに上級サルーンにふさわしい高貴なネーミング……と思ったら、話はそれだけではありませんでした。

「白馬の名前の由来である聖フローリアンは、キリスト教において厄除けや安全の守護神としてあがめられていたんです。先に、フローリアンは『画期的な安全設計が特徴』とお伝えしましたが、まさに安全の守護神でもあったわけです」(吉川さん)

  • 「車名博物館」著者の吉川雅幸さん

普段、音の響きだけで「カッコいい」や「かわいい」と判断しているクルマの名前。こうしてその意味や由来を紐解いてみると、実にいろいろなメッセージが込められているのですね。

(取材・文:西川昇吾/取材協力:吉川雅幸/写真:トヨタ自動車・日産自動車・三菱自動車・スバル・スズキ株式会社・いすゞ自動車・日野自動車・西川昇吾・八重洲出版/編集:木谷宗義 type-e+ノオト)

[GAZOO編集部]

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