もしも「トンネルで火災」が起きたら? 首都高の防災設備を見に行ってきた
山間部の多い日本の国土。高速道路を走っていれば、ほぼ確実にトンネルに遭遇します。
では、もしも閉鎖空間であるトンネルで火災が発生したら……?
非常に危険な状況に陥ることは想像できますが、それにはどんな備えがなされているのでしょうか。また、万一、トンネル火災に出くわしたとき、ドライバーはどのように対処すればいいのでしょうか。首都高速道路(首都高)のトンネルを実際に取材して確かめてきました。
防災設備の点検現場へ
取材したのは、首都高・埼玉新都心線(S2)の新都心トンネル。定期的に通行止めにして、トンネル内の防災設備を点検するタイミングで取材することができました。
トンネル内へは、首都高の管理する高速道路への入口からコンクリートの階段を下りて入ります。地下2~3階相当まで下りて出たのは、首都高のトンネル中にある非常口でした。中に入ると、普段はクルマが走る首都高の道路そのもの。そこでは、数多くの人たちが防災設備を点検していました。
天井にあるスプリンクラーのような水噴霧設備から実際に水を噴霧させ、はしご車のような専用車を使って設備をチェック。各部がしっかりと作動するのかを丁寧に確認することで、万一の災害時に備えているのです。
首都高のトンネルにある主な防災設備
首都高のトンネル内にどんな防災設備があるのかを聞いてみたところ、実にたくさんの設備があることがわかりました。
通常時の安全設備
●テレビカメラ
約100mごとに設置され、常時、トンネル内を見張ります。
●トンネル照明設備
走りやすい明るさを確保。合流部は特に明るくなっています。
火災発生時の防災設備
●拡声放送スピーカー
200m以内に設置され、トンネル内のドライバーに情報を伝えます(新都心トンネルには設備されていません)。
●ラジオ再放送設備
火災時に緊急放送を各ラジオ放送に割り込んで発信します。
●自動火災検知器
約25mごとに設置され、火災を感知して管制室に伝えます。
●水噴霧設備
管制室からの操作で約50mの範囲に霧状の水を噴霧します。
●トンネル警報板・信号機
トンネル入口や内部に設置され、火災などの情報を反映して表示します。
●ジェットファン
火災の煙をジェットファンや換気機を使用して排出します。
トンネル側の設備だけではなく、火災時にドライバーが使う設備もありました。
これらはぜひ覚えておきたいところです。
火災時にドライバーが使う設備
●消火器・泡消火栓
簡単に使える消火器や消火栓が約50mおきに設置されています。
●非常電話
約100mごとに設置されており、受話器を取るだけで管制室に繋がります。
●押しボタン式通報装置
約50mごとに設置。火災や非常時にボタンを押すと管制室に通知されます。
●非常口
250mごとに設置されており、避難経路を伝って安全な場所に避難できます。
もしも運転中、火災に遭遇したら?
もしも、トンネルを走行中に火災に遭遇したら、ドライバーとしてどう対応すべきでしょうか? その答えは「状況によって異なる」です。状況ごとの対応方法を見ていきましょう。
トンネルに入る前、入口にいるとき
長いトンネル入口にあるトンネル用信号機が赤信号になっていたら、絶対に進入してはいけません。赤信号を確認したときは、ハザードランプを点灯し安全を確認しながら停車しましょう。
トンネル内の出口の手前にいるとき
トンネル出口付近にいる場合は、そのまま走行して、トンネル出口からトンネルの外にクルマで出ます。
火災現場の手前にいるとき
トンネル内でクルマを停車させます。そのときは消防や警察車両が通れるように、中央をあけて路肩に停めます。また、非常口が使えるように、非常口前を避けて停めてください。
そして、ラジオの割り込み放送や拡声放送スピーカー(2022年7月現在は、山手トンネル、横浜北トンネル、横浜北西トンネルのみ運用中)の案内に注意しましょう。
退避するように呼びかけがあれば、エンジンを停止させて、ドアをロックせず、キーを残して非常口へ向かいます。貴重品を忘れないように。避難先で待機し、火災が納まった後にクルマに戻ります。
火災現場にいたとき
火災を発見したときは、まずは通報。クルマを火災の手前で停車させ、押しボタン式通報装置や非常電話で通報。携帯電話を使うときは「#9910」をダイヤルし、音声ガイダンスに従ってください。その後は、すみやかに非常口へ避難しましょう。安全が確認できて、自力で消火できる場合は、消火器または泡消火栓を使用して、初期消火を行います。
リアルでは、なかなか停まれない
ここまで説明してきたように、首都高のトンネルには数多くの防災設備が用意されています。
しかし、実際の火災が起きると、なかなか想定したとおりにはならないそうです。
「実際にトンネル火災が発生し、赤信号や警報板で“通行止”を表示しても停車してくれないクルマが少なくありません」
と首都高速道路の広報担当者は説明します。
高速道路の中に信号があるのを知らない人や、まわりのクルマが走っているときに「自分が最初に停まるのは怖い」と考える人がいるのでしょう。また、「火災があっても、通りすぎてしまえば大丈夫」と思う人もいるかもしれません。
しかし、「この考えは大間違い」とのこと。
火災の煙は、進行方向に流れており、煙の中に入ると視界がゼロになります。つまり、火災現場の直前までは煙もなく危険を感じなくても、現場を過ぎた瞬間から前が見えなくなるのです。
いきなり前が見えなくなるため、前方の停車車両に追突して死亡事故が起きた例もあるそう。
もちろん火災の煙は有毒ガスですので、煙を吸えば大変なことになります。
また、「避難を呼びかけても、避難しない人」もいるそうです。停車していて煙がなければ、「避難は大げさ。多少の煙ぐらい大丈夫だ」と考えてしまうのでしょう。もちろん、これも間違いです。
前方から有毒ガスである煙が広がってくることもあります。火災現場で爆発が起きる可能性だってありますから、避難指示があればすみやかに避難しなくてはいけません。
なお、首都高では走行中のドライバーに聞こえる「拡声放送」や「避難者情報交換サイト」なども検討中とのことです。今後は、さらに避難がわかりすくなることでしょう。
「かもしれない」と考える大切さ
高速道路などのトンネルで、過去に火災に遭遇したことのある人はごく少数でしょう。しかし、だからといってトンネル火災に遭遇する可能性は、ゼロではありません。誰もが当事者になるかもしれないのです。
「トンネル火災に遭うことはない」ではなく、「遭うかもしれない」と考えることが大切です。
いざというとき、「停車・避難などのアクションを起こす!」と心にとどめておきましょう。
(取材・文・写真:鈴木ケンイチ 編集:木谷宗義 type-e+ノオト)
[GAZOO編集部]
<関連リンク>
首都高ドライバーズサイト
首都高のトンネル防災
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