SDGsとどう向き合うべき? クルマと “エシカル”に付き合うには

  • 貧困や飢餓、ジェンダーなど17の目標を表したSDGsアイコン

2030年までに達成すべき17の目標が決められているSDGs。昨今話題になっており、気にはなっているけれど、「なんとなくつかめていない」「今さら聞けない」「自分には関係ないこと」……と思っている人も多いかもしれません。いち消費者として、私たちはどんなことに取り組めば良いのでしょうか?

今回は、SDGsの基本的な考え方やクルマとの付き合い方について、日本エシカル推進協議会副会長の足立直樹さんに伺います。

  • 日本エシカル推進協議会副会長の足立直樹さん

    日本エシカル推進協議会副会長の足立直樹さん

最近よく聞く「SDGs」や「エシカル」って何?

―小学校の授業でも教えられるようになったSDGsですが、わかっていないところが多々あります。改めて、「SDGs」や「エシカル」の意味を教えていただけますか?

SDGsとは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」のこと。2015年の国連サミットで採択され、2030年までに世界が達成すべき17の目標を掲げたものです。

エシカル(ethical)とは、「倫理的な」という意味を持つ英単語。そして、社会的課題の解決を考慮したり、課題に取り組む事業者を応援したりしながら消費することを「エシカル消費」と呼びます。SDGsを達成するためにも大切な考え方のひとつでしょう。

例えば、非常にリーズナブルに洋服を購入できるようになりましたが、その洋服はどこで誰がどんな風に作っているのかご存じでしょうか? 安さの裏には倫理的ではないナニカが隠されている場合があります。洋服や食べ物、家電、家具、ひとつひとつの購入を価格面だけで考えるのではなく、エシカルな視点でジャッジすることが、SDGsの達成には重要でしょう。

―今までモノを消費しまくってきたので、正直SDGsやエシカルと言われても生活を変えたり、思考を変えたりするのは難しくて……。

そうした方に知ってほしいことがあります。先ほど述べた洋服で実例をあげると、日本人にはあまり知られていませんが、2013年にバングラディシュ人民共和国で、縫製工場が入った商業ビルが突如崩壊する事故が起こりました。死傷者・行方不明者合わせて4000人近くにもなった「ラナ・プラザの悲劇」です。

―バングラディシュでそんな事故が起きていたんですね。たしかに、知りませんでした……。

バングラディシュは、世界でも有数の衣料品輸出国でした。そのビルは、ミシンと発電機の振動によって崩壊したと言われています。違法に増築された劣悪な労働環境の中、低賃金で従業員を雇い、低価格な衣服を作っていたのです。

このような背景を考えると、私たちが「安くてオシャレ」だからと着てよい服なのでしょうか? 洋服を手に取る前に「誰が、どう作ったか?」を考えてみると、エシカルな選択ができるようになりますよ。

―便利だからというだけでなく、その背景も知った上で商品を選ぶことが大切なのですね。

ちなみにSDGsは17個の目標をすべての国、すべての人々が達成し、「誰一人取り残さない」ことを前提にしています。そのため、「これだけやればいい」「誰かががんばればいい」ものではありません。ひとりひとりがエシカルな視点を持つことが大切です。

日本は世界で19位 目標達成のために超えるべき壁とは?

―ここ1〜2年で盛んに「SDGs」と聞くようになりましたが、世界的に見て、日本はどれくらい達成できているのでしょうか?

2022年発表のデータで、日本は163カ国中現在19位。達成率のスコアは79.6ですが、3年連続スコアダウンしています。

―想像よりは高い印象です。もっと達成できていないと思っていました(笑)。

日本の場合、SDGsは総理大臣直下のプロジェクト。よくも悪くもトップダウンで“やらざるを得ない”状況のため、他国より率先して動いている様子も伺えます。しかし、17の目標を一つひとつ見ると、いいところと悪いところが明確です。

  • 日本のSDGsの現状を示した図。緑→黄色→オレンジ→赤の順で達成度の高さを表している(出典:Sustainable Development Report 2022)

    日本のSDGsの現状を示した図。緑→黄色→オレンジ→赤の順で達成度の高さを表している(出典:Sustainable Development Report 2022)

いい部分にスポットを当ててみると、17の目標のうち、緑色で示されている「4.質の高い教育をみんなに」「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」「16.平和と公正をすべての人に」の3つが達成率の高いテーマです。

逆に、世界的に遅れをとっているのが、赤色で示されている「5.ジェンダー平等を実現しよう」「12.つくる責任つかう責任」「13.気候変動に具体的な対策を」「14.海の豊かさを守ろう」「15.陸の豊かさも守ろう」「17.パートナーシップで目標を達成しよう」です。

―福祉や産業は充実していますが、人権や第一次産業に関わる部分は課題が多そうですね。島国なのに「14.海の豊かさを守ろう」ができていないのは、ちょっと気になりました。

プラスチックごみの問題や貴重な水産資源が年々減少していること、温暖化による海水温の変動など、さまざまな要因があります。また、食べられるのに規格外というだけで、市場に出回らない「未利用魚」の問題もあります。

20年後、50年後も日本の食卓に魚が当たり前にあるようにしたいですよね。魚をはじめとする食料もエシカルな視点で選ぶことが求められているのです。

―世界的には食糧危機なのに、日本のフードロス問題は解決できていない部分も多くありますよね。2030年までに達成はできるのでしょうか?

まず、2030年に達成できるかどうかではなく、「ここまでに達成しないと挽回できなくなる年」として設定されていることを認識していただきたいですね。そして、SDGsに対する国内の関心は高まりつつあるものの、まだまだ実行に移せていないのが現状です。

さらに言うと、「達成できない、今からやっても無駄だ」と思わず、子どもたちに今の自分たちが暮らしている環境・社会を残せるよう、できることを全力で実行していきたいところです。

SDGsは子どもたちからの宿題

―SDGsの目標達成に向けて、具体的に取り組めることを教えてください。

とてもシンプルです。どんなものでも、「なるべく長く使う」ことです。

―それだけでいいんですか?

「ま、いっか」で捨てていたものを、なるべく長く使うだけでいいのです。

例えば、洋服も流行が過ぎたから捨てるではなく、長く着られるものを選んだり、流行に捉われないデザインを選んだり、古着を楽しんだり、使い続けたことに“価値がある”と感じられるようになるといいですよね。家具や家電も修理して使う、既にあるものを大事に使う、使い続けられるものを選ぶ、それだけでも大きな一歩です。

―クルマも同じことが言えるかもしれませんね。

そうですね。愛車に長く乗り続けることも大事です。飽きたから次と消費するのではなく、愛着を持って大切に乗り続けることに価値がありますよね。またEVなどCO2を出さないクルマに切り替えることも地球環境に優しい選択になります。

また自動車は、動いている時間よりも止まっている時間のほうが長いため、所有するよりもカーシェアリングを活用するほうが、SDGsにつながります。

―1台のクルマをシェアして利用するということですね! 駐車場も一台分で済み、道路や駐車場の利用方法も変わってくるような気がしますね。

カーシェアリングが主流になれば、メーカーもシェアを目的とした「長く乗れるクルマ」の開発を進めるようになるでしょう。利用者もいろんな車種に乗れる楽しさを感じられます。エシカルな視点で考えると、カーシェアリングはとても明るいクルマの利用方法、そしてビジネスモデルになると感じています。

―日本のクルマ産業は最先端技術を取り入れて、どんどん進化しているので、利用する私たちがしっかりエシカルな視点で判断することで、より安心・安全なクルマを選び楽しむことができますね。

日本の場合、自動運転や環境負荷の少ないなど技術面での開発が進んでいますが、世界に目を向けると、シートに本革を使った高級車が人気という状況があります。動物福祉の観点からみると「本当に必要なの?」「エシカルかな?」と感じる部分であるので、技術だけでない部分にも目を配る必要はあります。

―なるほど。とても勉強になりました! 子どもたちから「SDGsってなに?」と聞かれても説明できそうな気がします。

よかったです。いま15歳の子どもは、2030年には23歳、2050年には43歳になります。子どもたちが大人に、そして親世代になった時、今と同じ社会や環境が残っているかどうか、私たちは子どもたちからの宿題を出されていると考えれば良いかもしれません。

お子さんが、お父さんやお母さんと同じ年になった時に、今より豊かで安心した生活ができるためにがんばること、それがSDGsではないでしょうか。そのためにも何気ないことでもエシカルな視点を持ち、2050年に生きる大人たちから「100点満点」をもらえるよう取り組んでいきたいですね。

(文:つるたちかこ/編集:ノオト)

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