サスペンションにデファレンシャル…「RCカー」で実車のメカニズムは学べるか?
楽しく快適に、そして安全に走行するため、クルマには多くのメカニズムが備わっています。けれど、クルマの内部を目にする機会は少なく、どのような機構があってどのような働きをしているのか、知らないことも多いもの。
そこで、ひらめきました。「ラジオコントロールカー(以下、RCカー)で実車のメカニズムを知れるのでは?」と……。
タミヤのRCカーの歴史は40年以上!
さて、このひらめきが実証できるのかどうか。RCカーのみならず、プラモデルにミニ四駆、楽しい工作シリーズ……と、ホビー好きなら一度は手に取ったであろう、1976年からRCカーを販売する模型メーカーのタミヤに取材しました。
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1980年代に訪れたRCカーブームの時に、遊んだユーザーもいると思う。現在、往年の人気モデルの復刻版が販売されている
RCカーのメカニズムを知ることで、実車のメカニズムを理解することはできるのか。タミヤ広報担当の山本暁さんの答えは、「理解できるところもあれば、RCカー特有の部分もあります」というものでした。
同じ「人が操作するクルマ」でもやはり実車とRCカーは別物で、RCカーのサイズや重量だからこそ実現できることや、パフォーマンスを追求できることもあるそう。
ここからは、実車と同様のメカニズムを持った部分に注目して、解説していきます。
高性能なクルマで求められるメカニズムも採用
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最初から完成されたモデルもあるが、ほとんどのRCカーはユーザーが組み立てるため、各メカニズムの構造や動きがより深く理解できる
①足回り編
多くのRCカーに採用されているサスペンションは、上下2本のアーム(アッパーアームとロアアーム)を持つ「ダブルウィッシュボーン」方式。実車でもスポーツカーを中心とした、高性能なクルマに多く見られる方式です。
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後輪駆動モデル「M-06シャーシ」の足回り(前輪)。タイヤが上下に動いた際、キャンバー角(路面との角度)の変化が少なく、操作性にすぐれる方式だ
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実車の場合もダブルウィッシュボーンは操作性にすぐれる方式だが、車体の設計が難しい、車両価格が高くなるといったデメリットもあり、高い性能が求められる車種に採用される
RCカーも車種によっては「ストラット」や「スイングアクスル」「トレーリングアーム」「リジットアクスル(車軸懸架方式)」といった方式のサスペンションが採用されています。いずれも実車で採用されている方式で、RCカーと同様にクルマの使用目的や用途で使いわけられています。
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「グラスホッパーⅡブラックエディション」に採用されている「スイングアクスル方式」のサスペンション。実車ではフォルクスワーゲン「ビートル」など、古い時代によく使われていた
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「ワイルドワンオフローダー BLOCKHEAD MOTORS」の「トレーリングアーム方式」。スイングアクスルと同様に古い時代のクルマに採用され、時代とともにダブルウィッシュボーンやマルチリンクへと移行した
RCカーでは、ダンパー(ショックアブソーバー)も、「単筒式」と呼ばれる実車と同じメカニズムの凝ったもの。自分で組み立てることで、実車では見ることのできないダンパーの中身がどうなっているのかを知ることができます。
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RCカーのダンパーも実車と同じようにオイルが封入され、スプリングの力を制御している
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シャフトドライブによる四輪駆動RCカー「TC-01シャーシ」。フォーミュラマシンのように「インボードサスペンション」方式でダンパーを装着する
②デファレンシャルギア編
左右の駆動輪の間に設置される「デファレンシャルギア(略称、デフ)」。カーブや交差点を曲がるときに生じる、左右のタイヤの回転差を吸収するこの機構も、ほとんどのRCカーに装備されています。
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RCカー(「TT-02シャーシ」)に採用されているデフ。実車のデフも基本的には同じ造りをしている
通常のデフは、片方のタイヤが滑ると、もう片方のタイヤから駆動力から失われ、クルマが進まなくなってしまう特性を持っています。そこで、用いられるのが回転差を吸収する働きに制限を加えた「リミテッド・スリップ・デファレンシャルギア(略称、LSD)」。競技車を中心に採用される機構です。
RCカーでも、高性能モデルではLSDと同じ働きをするデフが採用されています。現在、主流なのは「オイル封入式」のデフです。封入されたオイルの粘度で歯車の動きを制限し、タイヤの空転を抑えます。構造は異なりますが、オイルの粘度で制限するという方法は、実車でも「ビスカスカップリングLSD」で採用されています。
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画像は「OP.1875 TT-02 オイル注入式ギヤデフユニット」。注入するオイルの粘度を変更することで、デフの動きを制限する強さが変化する
モーターで生まれた力(駆動力)は、デフからドライブシャフトを介して、左右のタイヤに伝わります。RCカーのドライブシャフトはシンプルな造りながら、基本的な構造は実車と一緒。どちらもサスペンションの動きによる駆動力の損失を、最小限にとどめます。
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「TT-02RR シャーシキット」の駆動輪回り。実車の場合、可動部を保護するため、ドライブシャフトの両端がブーツで覆われている
③トランスミッション編
エンジンで生まれた力を、多くのギアで適正な力に変換するトランスミッション(変速機)。
モーター駆動のRCカーでは必要のないメカニズムですが、実車の機構を再現するために採用しているRCカーもあります。
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3速とシンプルながら実車のトランスミッションに即した構造を持っている。実際にトランスミッションの中身を見ると、よく考えられた簡略化と構造の再現ぶりに驚かされる
大型トラックのRCカー「スカニア 770 S 6x4 フルオペレーションセット」などに搭載される3速トランスミッションは、走行しながら変速ができるすぐれもの。また、同モデルではサスペンションも、トレーラーなど大型車で使用されるリーフスプリングを用いた「トラニオン方式」を採用しています。
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リーフスプリングは金属製。上を向いて弧を描くように設置される「逆バネ」型
時代の変化で、実車が近寄ってきた一面も
実車では、いよいよ普及が本格化してきたBEV(電気自動車)。内燃機関のエンジンを持たず、モーターの出力調整で加速と減速(ブレーキ)を行うBEVは、やはりモーターの調整で加減速を行うRCカーの操作に近いものになっています。時代により、実車の方がRCカーに近寄ってきた一面もあるのです。
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完成済みモデルRCカー「タムテックギア グラスホッパーミニ」。BEVのワンペダル操作のように、プロポのトリガー(人差し指で操作するレバー)で加速と減速を行う
多くのメカニズムが実車に即しているRCカー。
手に取る機会があったら、サスペンションがどう動いて、手で駆動輪を空転させるとデフはどう働くのかなど、実車を思い浮かべながらメカニズムを観察してみてください。体感的に学べると同時に、そのメカニズムに感心させられます!
<関連リンク>
株式会社タミヤ
(取材・文:糸井賢一/取材協力・写真提供:株式会社タミヤ/編集:木谷宗義type-e+ノオト)
[GAZOO編集部]