大きさだけじゃない!巨大な「空港の消防車」は機能も性能も、桁違いだった

ポンプ車、はしご車、救助工作車……と、活動する場所や用途に合わせていろいろな種類がある消防車。中には、街の消防署では見られない、特殊なものもあります。そのひとつが「空港用化学消防車」。

その名のとおり、空港で火災が発生した場合に活動する消防車ですが、そこには私たちの身近にある消防車とは、まったく別の世界がありました。今回は、この空港用化学消防車の世界を覗いてみましょう。

■「3分以内に現場へ到着」が必須

空港用化学消防車について教えてくれたのは、消防車を始めとした特殊車両の製造・販売を行う株式会社モリタ(以下:モリタ)。まずは、消防車の製造方法から教えてもらいました。

「一般的な消防車は、車両に(必要な機器を)架装したものです。空港用の消防車の場合は、ICAOという略称で呼ばれる国際民間航空機関が定めた車両の規格があり、さらに日本の法律や交通事情にも合致させる必要があります」

  • MAF-100Cは全長およそ11m。全長は大型バスと同等

    MAF-100Cは全長およそ11m。全長は大型バスと同等

空港用化学消防車は大型バスよりも全体的に大きく、見た目からも特殊性を感じます。具体的に、どんな機能や性能を持っているのでしょうか?

「空港内のどこで火災が発生しても、消防車両は3分以内に現場へ到着しなければならない、というルールがあります。そのため弊社のMAF-100Cは35トンという重量にも関わらず最高時速は100km、時速80kmに加速するまでの所要時間は40秒以内、という高出力のエンジンを備えています」

私たちが乗る乗用車が1~2トン、大型バスでも10トンですから、35トンとは相当な重量です。ただ大きくて重いのではなく、“空港“という特殊な環境であることがこの大きさと重量に繋がっています。

実は、空港には消火栓がなく、消防車が消火のための水を運ばなくてはならないのだそうです。

  • MAF-100Cの放水の様子

    MAF-100Cの放水の様子

■もっとも違うのは「車内から操作して、走りながら消火」すること

「空港内で消火活動を行うため、車両に1万リットルの水タンクや、消火薬剤用のタンクを備えています。また、ほかの消防車と大きく違うのが、車外に人員が降りて消火活動をするのではなく、車内にいる状態で、車両を動かしながらノズルを使って消火活動を行うことです。

モリタの空港用化学消防車は車内に3名が乗れるようになっており、それぞれ運転手、ノズル操作員、補助員という役割です。ノズル操作員は車内から放水操作を行い、メインのノズルから大量の水を放射し、消火活動を行います。

航空機の燃料は左右の主翼内にある為、航空機火災の際には車両を動かしながらノズルを使って消火活動を行った方が、安全に、効率よく消火できます。そのため、クルマが動いている状態でも、消火能力を100%発揮できるようになっています」

また、状況によっては航空機内に入って消火活動をすることもあり、その場合は運転手以外の2名がハンドラインノズルを用いて消火を担当します。こうした乗組員がいることも、空港用化学消防車の特徴です。

  • MAF-100Cの運転席まわり

    MAF-100Cの運転席まわり

空港用化学消防車の車体そのものの耐火性については、普通の消防車とあまり変わらないそうですが、水の力で車体を守る噴霧装置が若干、違うそう。

「自衛噴霧装置は、霧状の水膜を張って車体を守る機能です。通常の消防車は火に対して側面を見せて消火をするため、車体左右についていますが、航空機の火災の場合、翼内の燃料タンクから漏れて路面に延焼するケースなどが多いため、車体下部を守るように噴霧装置がついています」

■空港用化学消防車は約2億円!

さらに、空港では舗装されていない場所を走る場合もあるため、悪路走破性を高めたタイヤやサスペンションであること、障害物などを乗り越えていきやすいようにボディ形状も斜めになっているなど、車体そのものの設計も、一般的な消防車と大きく異なります。

  • 障害物を乗り越えられるようにボディ前部の形状が斜めになっている。

なお、ナンバープレートを取得すれば公道でも走れるそうですが、一般の火災に対しては性能が過剰であるため、空港以外での運用例はほとんどないとのこと。

ちなみに1台あたりのお値段は、一般的な消防車が3000万円程度なのに対し、空港用化学消防車は約2億円。桁違いの機能と性能を持つ車両だけに、価格も桁違いのようです。

私たちが安心して空港を利用できる裏には、こうした特殊車両の存在があることを忘れずにいたいですね。

株式会社モリタホールディングス

(文:斎藤雅道/写真:モリタホールディングス/編集:木谷宗義type-e+ノオト)

[GAZOO編集部]

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