形はいくつある? 使いわけは? 意外と知らない「車止め」の種類と役割
飛び出してきたクルマを受け止めたり進入を防ぐ目印となったりする安全装置、「車止め」。公園や駐車場、サービスエリアなどでよく見かけますが、アーチ状やポール型など、形は千差万別です。では、その形の違いに意味はあるのでしょうか?
そこで、さまざまな車止めを製造・販売している株式会社サンポールの広報担当者に、車止めの種類や特徴、ドライバーに対する安全性についてお聞きしました。
アーチ型から擬石、和モダンまで 多彩なバリエーション
――「車止め」にはいろんな形状があります。全部で何種類ぐらいあるのでしょうか? また、その違いは?
当社で取り扱っている車止めは、下記の6種類です。
名前は聞き慣れないかもしれませんが、写真をみればきっと見たことがあると思います。それぞれの形や特徴を説明しましょう。
●リフター
本体を地中に収納できる製品で、「上下式車止め」とも呼ばれています。リフター同士を繋げるチェーン内蔵タイプもあります。設置場所は、主に駐車場や敷地の境界など。
店舗では、営業中は地中に収納して、閉店後に本体を引き上げるという使い方をされています。普段は引き上げたままにしておき、イベントや緊急時のみ下に収納するケースもあります。
●ピラー
地中に収納できない固定式・単柱タイプの車止めで、駐車場や敷地の境界、歩道と車道の境界などに設置されています。
鉄製のピラーは黄色や白色、茶色で塗装されるケースが多く、とくに大型のピラーは工場や倉庫の搬入口によく設置されます。フォークリフトや出入りする車両が建物を傷つけないよう、ガードするためです。
最近たびたびニュースで目にする、アクセルとブレーキの“踏み間違い事故”から守るため、店舗と駐車場の間にピラーを設置する例も増えてきています。
●アーチ
名前の通りアーチ型の車止めで、「門型」や「U字型」とも呼ばれています。
この形は、きっと公園の入口で見かけたことがあるでしょう。ピラーと同様、事故対策として商業施設と駐車場の境界に設置するケースも増えています。
●ボラード
意匠にこだわった単柱タイプの車止めです。
よく設置されるのは、建築物の外構や駅前広場、歩道と車道の境界など。設置される場所から、ブラウンやシルバー、グレーといった、景観に溶け込む色に塗られることが多い製品です。
太陽光で蓄電して、LEDを発光させる「ソーラーLEDボラード」もあります。
●ガードコーン
柔らかいウレタン素材の車止めで、人やクルマが衝突してもダメージを与えにくい仕様になっています。
主に車線誘導標として使われており、色はオレンジとグリーン、茶色の3種類です。
●擬石ボラード
石のように見える車止めで、実際にはコンクリートと天然石を混ぜて作っています。
公園や高速道路のサービスエリアに設置されることが多いタイプです。リサイクルプラスチックを使用している「擬石風プラスチックボラード」もあります。
――どれも街中でよく見る車止めですね。この中で一番よく使われているのはどれでしょうか?
当社でよく売れているのは、鉄製のアーチやピラーです。
アクセルとブレーキの踏み間違いによる事故が社会問題化し、その対策として設置する例が増えています。地中に収納できるリフターも安定的に売れていますね。
――なるほど。ほかに変わった形状の車止めはありますか?
擬石とステンレスのアーチを組み合わせた「エリアアーチ」があります。
通常、車止めは施工が必要ですが、エリアアーチは置くだけで設置できるため、利便性が高い製品です。中央にプランターを入れ、植物を植えることもできます。
また、和モダンデザインの車止めもあります。組子模様を施したパネルを取りつけており、光が当たると美しいシルエットが映ります。
――ちなみに、車止めの値段って、どれくらいなのでしょうか?
もっとも安いものだと、細い鉄製ピラーで5000円程度、高い製品だと軽操作リフターの約38万円です。よく売れているのは3~4万円前後の製品です。ただし、これは製品本体の値段で、施工費用は含まれていません。
――個人でも買えるのでしょうか?
個人のお客さまでももちろんご購入いただけますが、弊社では直接販売はしておりません。
全国に代理店・販売店がありますので、そちらでご購入いただく形になります。
個人の方からは、「違法駐車防止のため、自宅の駐車場にリフターを設置したい」という要望が少なくありません。また、「設置済みの車止めが曲がってしまったので、交換したい」という問い合わせもあります。
なぜ車止めの上に小鳥を? 「ピコリーノ」誕生のきっかけ
――小鳥が乗っている車止めも御社の製品だと聞きました。なぜ小鳥を乗せたのか、開発の経緯について教えてください。
小鳥が乗っているアーチは、「ピコリーノ」という名前で弊社が製品化したものです。
車止め業界参入に向けてアイデアを練っていたとき、公園管理者から「入口に車止めを設置しているのだが、子どもが飛び乗って座るなどして転倒する事故が多く、困っている」という声を聞きました。そこから着想を得て開発したのです。
ピコリーノは、子どもの遊び場に添うデザインと、飛び乗れないようにする機能がマッチしているということで人気の製品となり、今では全国各地に設置されています。街でピコリーノを見かけて、「どうしても自宅に欲しい」と個人で購入された方もいらっしゃいます。
歩行者はもちろん、ドライバーへの安全性も考慮
――最近はどのような車止めが求められていますか?
近年は、物理的に車を止める頑丈な製品のニーズが高まってきました。そこで、2018年ごろから車両の進入を防止する社内基準を設け、実車衝突を含めた強度試験を行って製品化をしています。
2020年には、時速40kmでの衝突を受け止める「インパクトボラード」を開発しました。
――車止めは、基本的には歩行者を守るための製品ですが、一方で「ドライバーを守る」という視点もあるそうですね。
はい、令和3年3月、日本道路協会発行『防護柵の設置基準・同解説/ボラードの設置便覧』にて、耐衝撃性ボラードの基準が定められました。防護柵とは、進行方向を誤った車両が路外、対向車線または歩道などに逸脱するのを防ぐとともに、ドライバーの傷害および車両の破損を最小限にとどめ、正常な進行方向に復元させることを目的としたものです。
防護柵は、衝突時に車両が受ける加速度を20G未満に抑えるよう定められています。当社の「インパクトシリーズ」も、その基準に合わせて設計しています。
車止めの径を太くすればするほど強度は高まりますが、その分、ドライバーへの衝撃が大きくなって危険性も高まってしまうものです。当社では、ドライバーへの安全性も考慮した太さに設計しています。
――最後に、ドライバーへのメッセージがあればお願いします。
私もクルマを運転します。いつも安全には十分気を付けていますが、偶発的な事故により、歩道にクルマが乗り上げてしまう可能性も、絶対にないとは言い切れません。
もしそうなった場合でも、車止めが設置されていれば、加害者になるリスクを下げられます。車止めによって、歩行者もドライバーも安心・安全に暮らせる街が増えていくことを願ってやみません。
今後はインパクトシリーズをさらに改良し、クルマの安全装置や運転支援システムに使われるセンサーと連携して交通事故を防ぐような車止めを開発したいと考えています。
「車止め=歩行者を守るためのもの」というイメージが強かったのですが、ドライバーを守る配慮も加味されているのは意外な発見でした。
クルマの安全性能や運転支援システムが日々進化している一方で、交通事故のニュースもまだまだ多く目にします。車止めは、実は重要な役割を担っているのです。ドライバーの皆さんも、身の回りにある車止めをチェックしてみてください。
<取材協力>
株式会社サンポール
(取材・文:村中貴士/写真提供:株式会社サンポール/編集:木谷宗義 type-e+ノオト)
[GAZOO編集部]
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