「タイヤ」の起源はメソポタミア文明に? 誕生と進化の歴史を紐解く

数あるクルマのパーツの中で唯一、地面と接しているタイヤ。走行安定性、安全性、快適性のすべてをつかさどる重要なパーツであるだけに、実にさまざまな進化を遂げてきました。

では、その起源はどこにあるのでしょうか? そして、どのようにして現在の形に行き着いたのでしょうか?

タイヤの進化の歴史を株式会社ブリヂストンで技術スポークスパーソンを務める、川本伸司さんに聞いてみました。

ガソリン自動車“誕生以前”のタイヤ

まずは、タイヤの起源から。ガソリンエンジンが発明される以前から、馬車などで使われていたことは想像できますが、一体いつごろ生まれたのでしょうか?

「メソポタミア文明の壁画に車輪が描かれており、これがタイヤの起源だと考えられています。現在のようにゴムを用いたタイヤの誕生は、1800年代です。

天然ゴム自体は1400年代末にコロンブスによって発見され、ヨーロッパに伝わっていますが、このころゴムは柔らかすぎて、タイヤの材料としては考えられていなかったようです」(川本さん)

  • 天然ゴム素材の例

世界初のガソリンエンジン自動車誕生は1886年だと言われていますから、1800年代はまだまだ“自動車誕生以前”の時代です。なぜ、この時代にゴムのタイヤが生まれているのでしょうか?

「1800年代中ごろに、加硫(かりゅう)という天然ゴムと硫黄を混ぜて、耐久性を向上させる技術ができたことが理由です。

しかし、ゴムのタイヤといっても、まだ現在のような空気入りタイヤではなく、馬車の車輪(ホイール)の外周にゴムを貼り付ける“ソリッドタイヤ”と呼ばれるものでした。対応できる速度も、30~35km/h程度だったと言います」(川本さん)

  • ソリッドタイヤが装着された19世紀のダイムラー(現メルセデス・ベンツ)のトラック(写真:メルセデスベンツ)

そうなると、空気入りタイヤの誕生までは、まだまだ時間がかかりそうですね。

「そうでもありません。実は、ソリッドタイヤの誕生から10年後くらいに空気入りタイヤの特許が取られているのです。

でも、すぐには普及に至りませんでした。現代のタイヤには“ビード”と呼ばれる部材がホイールと接する部分に組み込まれているのですが、当時はこれがなかったため、タイヤをホイールに装着するのが難しく、普及しなかったのです。

ビード入りタイヤは、1800年代の末頃誕生しました。これにより空気入りタイヤの普及が始まり、乗り心地が向上します」(川本さん)

チューブレス化やラジアル化で現代的な構造へ

まるで、ガソリンエンジン自動車の誕生と合わせたかのように、空気入りタイヤの普及も始まったように思えますが、ここからはどのような進化があったのでしょうか?

「1910年ごろにタイヤにカーボンブラック(炭素微粒子)を配合するようになり、耐久性が約10倍にまで向上して、ゴム製タイヤの普及が加速していきます。

また、それまではコードを平織した生地を骨格として使用していましたが、すだれ織を採用する事で耐久性が3~5倍に向上していきます。

そして、1900年ごろは木綿だったコードも、1930年代後半にはレーヨン、1940年代にはナイロン、1970年代にはアラミド……と、コードの素材も変化し、強度と耐久性を増していきました」(川本さん)

  • タイヤの素材に添加されるカーボンブラック

そういえば、昔のタイヤは内部のチューブで空気圧を保つチューブタイヤですよね。今のようなチューブレスタイヤになるのは、いつごろでしょうか?

「チューブレスタイヤの誕生は、1940年代中ごろです。

それまでは、タイヤ内部に空気を蓄えているチューブがあったのですが、チューブに代わってタイヤの内側にインナーライナーというゴムのシートを張り付けたチューブレス構造のタイヤが生まれました。

これにより部品点数を削減できたほか、釘が刺さるなどパンクの種類によっては急激に空気が抜けることなく、放熱効果も高まりました。そして、1950年ごろには、それまでのバイアスタイヤに変わり、現代まで続くラジアルタイヤが登場します」

バイアスタイヤからラジアルタイヤへ。構造上はどんな進化をしたのでしょうか?

「タイヤはゴムだけでできているのではなく、カーカスと呼んでいる、先に説明したコードを重ね合わせた層が骨格を形成し、荷重・衝撃・空気圧に耐える役割を担っています。

バイアス構造は回転方向に対して斜め(バイアス)に配置されたカーカスを何層か重ねることで骨格を形成します。

一方、ラジアル構造とはカーカスが回転方向に対して直角、つまり真横から見ると円の中心から放射状(ラジアル)に配列され、タイヤが地面と接地する部分はベルトと呼ばれるスチールで絞め付ける構造となっています」」(川本さん)

  • ラジアルタイヤの構造

バイアスタイヤからラジアルタイヤになり、性能面ではどのように変わりましたか?

「バイアスタイヤは低速域での乗り心地や悪路に適している点で優れていた反面、高速走行は苦手で、高速化する自動車や交通事情には対応が難しくなってきました。

ラジアルタイヤの登場により、タイヤと路面の接地性が向上したことで、コーナーや発進加速でのグリップ性能が上がり、また転がり抵抗も低減することができました」(川本さん)

タイヤの“伸びしろ”はまだあるの?

グリップ性能や燃費性能の向上は、タイヤの新製品が登場するたびに謳われる部分ですが、チューブタイヤやラジアルタイヤが登場したときのような、まったく構造が異なるような進化ではありません。もう、タイヤの構造が大きく変わることはないのでしょうか?

「サステナブルマテリアル(持続可能な素材)を活用するなど環境への対応や、タイヤそのものをデバイスとする「繋がる」機能をタイヤに付与するといった検討も進めていますが、もちろん新しい構造のタイヤの開発も行っています。

ブリヂストンでは、未来に向けて空気抜けやパンクの心配がない、空気のいらない“エアレスタイヤ”の開発を進めています。これは空気の代わりに樹脂スポークが変形することで重量を支えたり、衝撃を吸収したりします」(川本さん)

  • エアレスタイヤを装着したパーソナルモビリティ

エアレスタイヤが普及すれば、パンクやバーストによる事故も減らせるでしょうし、写真を見る限り、デザイン面でも新しい形が生まれる予感もします。これからも自動車と地面を結ぶ唯一のパーツとして、自動車があるかぎり進化し続けていくことでしょう。

(取材・文:西川昇吾/写真:ブリヂストン/編集:木谷宗義 type-e+ノオト)

[ガズー編集部]

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