その歴史100年以上!? 「スタッドレスタイヤ」の歴史をミシュランに聞いてみた
1980年代から~90年代にかけてのクルマ事情を知っている人なら、スパイクタイヤからスタッドレスタイヤへと変化していったという記憶があるかもしれません。
その記憶は、正解。スタッドレスタイヤの原型といえるタイヤの誕生は、1982年のことだったのです。でも、「冬の道」を安全に走るための取り組みは、なんと1910年代から行っていたそう!
では、スタッドレスタイヤの誕生までには、どんな背景や進化があったのでしょうか? 日本ミシュランタイヤ広報部にお聞きしました。
■もともと「冬用」ではなかった!
まずは、1910年代から行っていたという、「冬の道」への取り組みから。
「ミシュランは、『クルマは道を選べない、だからあらゆるシチュエーションでの安全性を高めなければいけない』という設計思想のもと、自動車の黎明期からタイヤを開発しています。その思想は、冬場でも同じです。
1912年にタイヤチェーンの原型として、革にリベット(金属の細い円柱型のもの)を打ち込んだアイテムを誕生させましたし、1933年には深雪でも走れるよう、雪を排出しやすいラグ形状(=出っ張りのある形状)のトレッドデザイン(タイヤ接地面の形状)を採用した『MICHELIN Neige』といったタイヤを製品化していました。Neige(ネージュ)は、フランス語で“雪”という意味です」
なんと、スタッドレスタイヤの特徴のひとつである溝が刻まれたと表現するよりも、1つ1つのブロックが付けられたような形状のトレッドデザインは、約90年も前にすでに誕生していたのです。
さらに、もうひとつの特徴である細かな溝「サイプ」も1930年代に登場したと言います。しかし、最初は雪や氷上をターゲットにした技術ではなかったそうです。
「ミシュランからサイプが用いられたタイヤが登場したのは、1934年です。
当初、細かな溝を掘ることで水膜を吸い上げる役割を果たすサイプは、濡れた路面での安全性確保のために考案されたものでした。サイプが冬の走行での性能確保に用いられたのは、1968年。ウインタータイヤの『MICHELIN XM+S』という製品でした」
こうして現代のスタッドレスタイヤへとつながる技術が誕生していったわけですが、スタッドレスタイヤとして形となったのは1980年代に入ってから。
「1982年、ミシュランから『MICHELIN XM+S100』というタイヤが登場しました。
このタイヤは、雪を吐き出すブロック形状のトレッドパターン一つひとつに、約900もの傾斜した波形サイプが刻まれた、現代のスタッドレスタイヤの特徴を持った製品でした。
サイプは氷上で滑る原因となる“氷上の水膜を吸い上げる効果”を持っています。
ミシュランが認識している限り、このようなタイヤは当時まだどのメーカーからも販売されておらず、ちょうど40年前に開発された、このXM+S100が現在のスタッドレスタイヤの原型だと考えています」
■スパイクタイヤからスタッドレスタイヤへ
誕生は1982年とはいえ、普及が始まったのはもっとあと。
1980年代は、タイヤに金属製のピン(スパイク)を打ち込んだスパイクタイヤが、冬用タイヤとして一般的でした。
「1980年代中ごろ、粉塵による公害が社会問題となっていました。その原因が、スパイクタイヤのピンが舗装路を削って発生しているものとわかると、スパイクタイヤの禁止が決まります。最終的にスパイクタイヤの一般使用が禁止されたのは、1991年のことでした。この禁止を受けて『冬用タイヤ=スタッドレスタイヤ』という認識が本格化していきました」
スタッドレスタイヤという名称は、「スタッド(=スパイクピン)」が「レス(=無い)」であることに由来しているそうです。1990年代にスタッドレスタイヤの本格普及が始まって現代へ……とはいかず、また新たな問題が発生します。
「スパイクタイヤに比べ、スタッドレスタイヤを履いたクルマは、雪を踏み固めて路面を磨きながら走る格好になります。実はこれがアイスバーンやミラーバーンのような、より滑りやすい路面を生み出す原因のひとつにもなっています。
ここからは、こうした滑りやすく危険な路面でも安全性能を確保できるような進化が求められていきます」
■果てなき進化とたゆまぬ努力
スタッドレスタイヤが雪上や氷上で性能発揮するには、以下の3つの効果が必要で、それらのバランスをとることで、降り始めの雪から踏み固められてできてしまうアイスバーンまで、さまざまなシーンで性能を発揮するそう。
- 雪をかきわける「雪踏み 効果」
- ブロックの角やサイプを起点に路面を捉える「エッジ効果」
- 水の膜を取り除きアイス路面にしっかり密着させる「グリップ効果」
路面に応じてそれぞれの効果が発揮されますが、 どれかひとつの性能が突出していてもダメで、バランスよくなければならないそうです。
「スタッドレスタイヤは、アイスバーンやミラーバーンといった氷上での安全性能を高めることを大きな目標に進化してきました。その方向性は現在でも変わりません。
しかし、コンパウンド(ゴム)の特性も関係しますが、基本的に氷上性能を高めるためにサイプを増やし、エッジ効果やグリップ効果を高めればタイヤトレッドの剛性が無くなってしまい、舗装路での走行時安定性がなくなりますし、耐摩耗性にも影響します。
また、ブロックを減らして接地面効果を求めれば、接地面から水や雪を排出できなくなるためウェット路面や雪上路面では対応できません。氷上性能を高めながら他の性能を落とさないことが大切なのです」
スタッドレスタイヤの歴史は約40年ほどですが、「ブロックパターン+サイプ」というスタッドレスタイヤの原理原則や求める性能は変わりありません。
各社とも、少しでもバランスよく性能を高められるよう、切磋琢磨しているわけです。
「弊社では、縦方向のグリップ(加減速時のグリップ)だけでなく、横方向のグリップ(コーナリング時のグリップ)も高めるよう、ブロックの向きに合わせて多方向にサイプを入れたり、剛性を損なわない、細かく複雑な溝を入れることで氷上の水を素早くより多く吸い上げる効果を持たせて、氷上でのグリップを確保したりといった技術を投入し、絶えず進化を続けています」
積雪路に凍結路、濡れた路面さらに乾いた路面まで、あらゆる場面を走行するスタッドレスタイヤは、夏タイヤよりも開発が難しいのだそう。
これからの季節、スタッドレスタイヤを装着したら、その進化の歴史やタイヤメーカーのたゆまぬ努力を感じながら、安全運転に努めたいですね。
取材協力:日本ミシュランタイヤ
https://www.michelin.co.jp/
(取材・文:西川昇吾/写真:日本ミシュランタイヤ/編集:木谷宗義 type-e+ノオト)
[GAZOO編集部]
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