目立つのはBEV、でも真の主役は…? “意外だらけ”のタイモーターエクスポ2022

タイといえばおいしいタイ料理、そして人々の笑顔が心地いい「微笑みの国」ですが、「東南アジアのデトロイト」と自称している自動車大国でもあります。なんと、自動車生産台数は、東南アジアでナンバーワン。日本のメーカーだけでも、トヨタに日産、ホンダ、マツダ、三菱、そしてスズキと、多くのメーカーが生産拠点を構え、国内供給だけでなく海外輸出も行っているのです。

そんなタイの首都バンコクでは年に2回、モーターショーが開催されており、秋開催となる「Thailand International Motor Expo(タイモーターエクスポ)が、2022年12月1日~12日に行われました。

  • 会場入り口

会場となったバンコク郊外にある「IMPACTチャレンジャー」は床面積約6万㎡のホールで、サッカーコート約8面分。2019年の東京モーターショー(青海展示場含む)の2/3程度の展示面積といえば、なんとなく規模感がイメージできるでしょうか。

それでも、2019年の東京モーターショー(約130万人)を上回る、133万5573人(前年比16%増)が来場したと発表されていますから、かなりの来場者数ですね。筆者もそのうちの1人として会場を訪れ、しっかり取材をしてきましたので、その様子をお伝えしましょう!

真の主役はアメリカと同じあのジャンル

世界のトレンドをしっかり反映しているなと思ったのは、会場内で“BEV(電気自動車)”が目立っていたこと。
多くのメーカーはステージ上など目立つ場所にBEVを展示し、来場者に“未来”をアピールしていました。
ただ、会場内がBEVだらけかといえば決してそうではないのが、おもしろいところ。台数でいえば展示車両で特に多いと感じたのが、“ピックアップトラック”でした。

  • タイで人気ナンバーワンを誇るピックアップトラックブランドは「ISUZU」。車両は「D-MAX」。

何を隠そう、タイはアメリカと並ぶピックアップトラックが人気の地域。税金が安いなど理由はいろいろあって、大都会であるバンコクでも頻繁に見かけるし、郊外や地方へ行けば行くほど、さらにその比率は高まります。だから、モーターショーもピックアップトラックの姿が多いというわけ。

そのうえ、カスタマイズ&ドレスアップが大好きな国民性もあって、メーカーブースにも“改造車”が多いのがなんともタイらしいところ。ラリーやレースに出場する競技車両のピックアップトラックも少なくないから、モーターショーなのに「東京オートサロン」みたいな雰囲気もあります。

  • 三菱自動車はピックアップトラック「トライトン」のレース仕様とラリーレイド仕様(11月中旬に開催されたアジアクロスカントリーラリーで総合優勝した車両)をステージ上に展示

  • 三菱ブースには「RALLIART」としてスポーティにカスタマイズしたトライトンも展示

  • こちらは先にも紹介した「D-MAX」のカスタム仕様。こういったカスタマイズトラックがメーカーのブースに数多く展示されている

日本でピックアップトラックとして正規モデルが新車販売されるのは、トヨタの「ハイラックス」だけですが、タイでは日産やいすゞ、そしてマツダまでピックアップトラックを販売。日本では見ることのできない日本ブランドのピックアップも多いのです。

  • マツダのピックアップトラック「BT-50」。フロントをはじめデザインは専用だが、実はいすゞからOEM供給されるモデル

  • 日産「ナバラ」。これも根強い人気があるモデルだ

中国車の台頭に驚き!ブースの広さはトヨタと同じ

ピックアップが多いのは、以前のタイモーターエクスポと変わらないところ。ガラリと変わったのは、国ごとの勢力分布図です。タイといえば「日本車天国」といえるほど日本車比率が高い地域で、それは今も変わらないのですが、街を行き交うクルマを見ていると近年その比率が下がっていることを実感します。その代わり台頭してきたのが中国車。

  • BYDの発表したハイスペックEVの「SEAL」。中国車がタイでここまで高く注目されるなんて2年前には考えられなかった

  • GWMが公開した「ORA GRAND CAT」。見た目はかわいらしくても、最高出力は408ps。0-100km/h加速わずか4.3秒というとんでもない俊足猫

今回のタイモーターエクスポで、もっとも広いブースを展開していたメーカーのひとつはトヨタですが、中国の「GWM(グレート・ウォール・モーター=長城汽車)」や「BYD」も、トヨタと同じ広さのブースを展開。コロナ前では考えられなかったことで、勢いを感じました。

  • GWM、BYDのブースの大きさがわかる場内マップ。ホンダやBMWよりも大きいのだ

また、それらに次ぐブースを展開する「MG」も街で見かけることが増え、かなりタイに浸透した印象を受けます。中国ブランドが“BEV推し”で展開しようとしているのは、どの地域でも同じですね。

気になる!日本で売っていない日本車

海外のモーターショーで興味深いのが、日本で売っていない現地向けの日本車。中には「これは日本でも注目されそう!」と思うようなモデルもあります。

  • トヨタが2022年に発売したばかりの「ヤリスATIV」。アジア仕様ヤリスのセダンバージョン

  • ホンダの小型SUV「BR-V」。タイでは2022年7月からフルモデルチェンジした2世代目の販売がスタート。スタイリングに高級感が増した

  • トヨタ「フォーチューナー」はハイラックスと共通のメカニズムで作られたフレーム付きのSUV。なんと「GR SPORT」も展開される

会場内は一段とアフターコロナ化が進んだ印象

ところで、大きなイベントといえば気になるのが新型コロナウイルス感染拡大との共存でしょう。今年3月末にタイで開催された「バンコクモーターショー」でもアフターコロナを感じましたが、今回はさらにそれを強く実感しました。驚くぐらい「かつてのスタイル」に戻っているのです。

  • ステージモデルはマスクをせずに登壇していた

たとえば今年3月末のモーターショーでは、入場時に体温チェックのほか陰性証明もしくはワクチン接種証明を見せなければなりませんでした。しかし、今回のモーターエクスポでは、それらは一切なし。入り口に手指を消毒するためのアルコールを設置しているブースもかなり減ったし(しかも、だれも消毒していない……)、展示車両から人が降りるたびにスタッフがドアノブやハンドルなどを消毒する姿もまったく見かけませんでした。半年ちょっとでずいぶん世界が変わった印象です。

唯一コロナ禍らしいといえば、人々がマスクをしていること(日本と同様に法的義務はないが現地の人はほぼ100%マスク着用)でしたが、「プリティ」と呼ばれるステージモデルの美しいお姉さんはマスクを着用しないブースがほとんど。3月末時点では、ステージモデルでもノーマスクの人はいなかったから、大きな変化です。

  • ステージモデルが多いのもタイモーターエクスポの特徴のひとつである

ちなみに、タイのモーターショーの特徴は、会場でクルマを購入できる「即売会」でもあることです。

今年のモーターエクスポは、12月11日までにクルマとオートバイを合わせて3万4312台の予約を会場内で受けたのだとか。台数トップ3は、1位が5084台のトヨタ。2位は2795台でホンダ。そして3位が2383台でいすゞでした。なんといすゞが3位。こんなところでもピックアップトラック人気を実感できますね。タイといえば、ピックアップトラックなんです!

(取材・文・写真:工藤貴宏 編集:木谷宗義 type-e+ノオト)

[GAZOO編集部]

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